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ペコとかまどのオカルトごはん!  作者: GOZOROPS
4皿目:サラダ《新鮮ヘアサラダ ~呪いと思い出を添えて~》
39/55

さよなら、私の赤い糸

さよなら、さよなら

「これが最後! だよ!」


 かまどはゴマダレドレッシングをペコに渡したわ。


 胡麻の風味が美味しい、どろりと濃厚な見た目のドレッシング。


 その濃度には何となく親近感を覚えるわ。私の淀んだ水晶も、色は違えどあんな感じだったから。


 それにしても、かまどの鞄には色々なものが入っているわね。


 女の子の鞄って、魔法の鞄なんじゃないかって思うくらいなんでも入っているってご主人様が言っていたけれど、その通りだったみたい。


 けれどもう、最後なのでしょう。


『がんばれ私!』


 私の呪力も底を尽きそう。


『絶対やってやるんだから!』


 ドレッシングが切れるのが先か、私の呪力が切れるのが先か。


 もはや私はペコに勝とうとは考えていなかったわ。ただただ、何のためかも分からずに、けれどそうすることしかできなかったから、私は髪を伸ばし続けたの。


 私にはもう何もない。幸せな家庭も、愛すべきご主人様も、呪力さえも残っていない。

 

 捨てられ続けてすり減った。ご主人様たちが私の中に捨てた感情、そして私自身も捨てられてここに辿り着いたのよ。


『だけど……でも……』


 私はまだ負けていない。私はこんなところで負けられない。


 青藍様とずっと一緒にいたいのよ。恐れられて捨てられた先、もう私にはここしかない。


 だから、だから私は負けるわけにはいかない。


 だって、青藍様は毎日お手入れしてくれるもの。二十七年と十八日、かかさず私の髪を梳いてくれるのよ。


『私には青藍様だけなんだぁぁぁあぁ!』


 私は最後の攻勢に出た。


 呪力をつぎ込んだ無数の毛を束ねてしめ縄状に太くし、撞木のように発射してペコを押し潰そうとしたわ。


「う、ひゃぁっ……!」


 素っ頓狂な声で叫びながらも、ペコはさすが堂々と正面から受け止めた。けれども彼女の馬鹿力をもってしても完全には抑えきれず、本堂の壁をぶち破って私たちは庭へと飛び出したの。


 さらにラッキーなことに、ペコが持っていた最後のドレッシング瓶が手から零れ落ち、地面に叩きつけられて粉々に割れた。


 まだ残っていたゴマダレドレッシングもこれで終了よ。


「かまど……!」


 ペコが情けない声を上げる。


 私は宙を飛びながら数千本の髪で地面を蹴って加速する。


 このまま押し切ってペコを境内から追い落としてやるわ。千段近い石の階段から真っ逆さまに落とされれば、いくら怪物のペコでも諦めて帰るはず。


「ペコ!」


 かまどが私たちを追ってくる。


『無駄よ! あなたの相棒はもう力尽きる寸前なの!』


「かまどぉ! ドレッシングは!」


「もうドレッシングないよ! 品切れ!」


 やった!


 やったわ!


 とうとうやった。千載一遇のチャンスよ。


 ペコはもう味変できない。


 私の髪も相当食べられてしまったけれど、最後の一撃には間に合ったようね。


『勝負あったわね!』


 私は撞木の髪に最後の呪力を込めるわ。これでペコたちを追い返すの。


 これからも、私は青藍様にお世話されたい。そのためには髪の毛が必要なのよ。


 私が髪の毛を伸ばしていれば、青藍様は梳かしてくれる。


 むしり取られるわけにはいかない。


 髪の毛は私と青藍様との繋がりよ。黒いけど、私の髪は二人の赤い糸なのよ!


「そんな……かまどぉ……あたし……あたし……もう……」


 ペコは私の勢いに押されてもう限界って感じ。俯いちゃって、プルプル震えて、そして――


「もうドレッシングじゃなくていいからぁ!」



『……え?』



「じゃ、人面鳥のタルタルソースはどう?」


『もうやめてぇぇぇえぇぇ!』


 かまどが取り出した瓶は今までのよりも二回りは大きかったわ。その中にはタルタルソース。揚げ物にかけて食べる極上の調味料よ。


 瓶から飛び出した白い粘液が私の髪にねっとりと絡まるわ。


「いただきます!」


 せっかく固めた私の髪も、タルタルソースとペコの前ではからあげ程度の防御力しかないの。


 ガジガジと齧られていく髪、もうどうしようもないわ。


 ペコを押し戻そうにも、私が髪を伸ばす速度の倍速でペコの口が髪を吸いこんでいくもの。


 負ける。


 私、負けてしまうのね。


 ペコが私の髪を食べながらこちらへやって来る。私の髪はもう伸びない。私の赤い糸がどんどん短くなっていく。


 いやよ。いや。


 けれど、受け入れてしまっている自分もいるの。


 ここが年貢の納め時みたい。


 ペコの純粋な目を見た瞬間、私は諦めてしまった。この子、本当に私を美味しく食べているのだわ。


 私の髪はこの子の食欲に必要とされている。


 それならぜんぶ、食べるがいいわ。


『……ああ、私』


 それにしても、こんなにすぐ諦めるなんて、やっぱり私は人形なのね。


 人間だったら、有限を生きる彼らなら、簡単に諦めたりなんかしないもの。


 私は無限に近い時の中に存在してきたけれど、生きてはいなかったし、生きられないのよ。


 だから、執着心も持っていないのかもしれない。無理って分かってしまったら、すぐに投了してしまうのよ。


「……んんんん~~っ! おいし~~い!!」


 まるで死神のようなペコ。刻一刻と迫ってくる悪魔。


 それは時間とそっくりよ。その侵攻には誰も抗うことができないの。


 人形は死なないって思っていたけれど、どうやら思い違いだったのね。

本日は1時間後にもう1話更新します!

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