ふたりの始まり
ビギニング
《part 11》
この日、あたしたち二人は謎の白い物体を一息に食べきって、おまけに我が家の備蓄まで全部消費してしまった。と言っても九割方ペコの胃に消えたんだけど。
その後はせっかくだからシャワーを浴びさせたり、あたしの着ない服をあげたりしてから、宵闇に消えていくペコを見送った。
少しだけ寂しい気持ちはあったけれど、まぁ出会いなんてそんなもの……といつもの諦観で結論して、不思議な邂逅は幕を閉じた。
……と、その時点では思っていた。
だけど、宣言していたとおり、ペコはまたあたしの前に現れた。何度も、何度も。
幸いにして彼女は人目のあるところには来なかった。
その代わり、まるで見透かしているみたいに、昼休みに屋上でぼっち飯しているときや、人気のない夕方の通学路、夜も更けた頃のあたしの部屋の窓なんかに姿を見せた。
しかも訪ねてくるたびに彼女は手土産を持ってきた。並大抵の土産ではない。猫又、人面魚、ケサランパサランといった尋常でないものをどこからか獲ってきてあたしに渡すのだ。
「かまど、これで料理して!」
色々ツッコみたい気持ちは山々だが、それでもあたしは一回も断ることなく、猫鍋や人面魚のあらいや揚げケサランパサランを作ってはペコに振る舞った。
ペコが持ってくる魑魅魍魎に疑問を抱いたのは確かだ。
だけど奇怪な存在たちも結局、あたしにとってはただの【食材】。多少見慣れないからといって料理の手を止めるのは、料理人の端くれとしてプライドが許さないというものだ。
それに、ペコの戦利品を料理していると、普段と比べて格段に気持ちが落ち着く感覚があった。
それが未知の食材を相手取っている達成感によるのか、抑圧を感じずに料理できることに由来するのか、それとも他の理由なのか――その時のあたしも、今のあたしも、答えを持ち合わせていない。
ただあたしは、ペコが示してくれる新しい料理の可能性に導かれるようにして、次第に彼女と行動を共にするようになっていった。
ペコはちょいちょい常識を知らないし、ペコの獲物はいつだって奇想天外で危険も多い。
でも彼女は目を瞠るような戦闘能力でどんな場面でも切り抜けてくれるから、あたしはいつだって恐怖ではなく純粋な楽しさを感じられた。
ペコと一緒にあちこちを巡るようになって、何日も家を空けたり、学校をサボることも格段に多くなってしまった。
後悔はまるで無い。
脳みそを満たした【調理法】から目を逸らし、息を潜めて生きるより、こっちの方がよっぽど気軽で過ごしやすいことに気付いたのだ。
あたしはもう、ペコと出会う前の自分には戻れなくなっていた。
世界を二つに分けるとしたら、その境界はどこにあるだろう。
あたしの《眼》にとっては【食材】と【それ以外】。
そして多分、あたし自身にとっては『あたし』と『それ以外』だったように思う。あの日までは。
そう、あの日。あたしの世界に現れた、新しい基準。
それはつまり、『あたしたち』と『それ以外』……だったりするわけだ。
ペコが捕まえてあたしが料理する、Z級グルメな珍道中。
レシピブックはまだまだ終わりそうもない。
次回は「日本人形」編です!




