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ペコとかまどのオカルトごはん!  作者: GOZOROPS
3皿目:肉料理《????の縺セ繧九井縺イ辟氵》
31/55

りょうりの不思議

繋ぐ

《part 9》


 ……うわ、あたしってば、料理薀蓄だだ漏れだった? 


 反射的に口を押さえるが後の祭り。


 それはちょっと変な子すぎるでしょ常識的に考えて……。カッと熱くなる頬を自覚しながら目を逸らす。


 でも、あたしの胸を高鳴らせているのは、決して恥ずかしさだけではない。


 我を忘れて料理の話をしたのなんて、生まれて初めてだった。


 あたしが料理するときは、いつだって皆に恐れられ、怯えられ、白い目で見られてきた。すっかり悪評が広まっているために、家庭科の授業でさえあたしは除け者扱いで、作った品を一人きりで食べていた。


 当然あたしの料理の話を聞く人なんて居ないし、あたしの料理を食べたがる人なんて居ない。


 家族だって、そうしないと何をするか分からないからあたしに料理を任せているのであって、きっとあたしに料理してほしいわけじゃない。


 ……あたし自身だって、あたしを突き動かす何かに脅されているだけで、本当なら今すぐ料理道具を捨ててやりたいなんて思いながら生きてきたのだ。


 だから、彼女が初めてだった。


 あたしの料理を気味悪がらずに、美味しいと言って食べてくれたのは。


 満面の笑みを浮かべて(いや、笑ってたのは最初からだった気がするけど)次々と皿を空にしていく彼女を見ていたあたしは、ふと、今更なことに気付く。


 ――この子、食べられないんだ。


 あたしに見られているのもお構いなしに、角煮やミートパイやサンドイッチに飽きもせず感嘆の声を上げる、不思議な少女。


 そのお気楽そうな身振りや表情をいくら見続けていても、あたしの《眼》は【料理法】を示そうとしない。


 あの白い物体のような不気味な保留ではなく、《眼》は揺るぎない判断を告げている。


 この少女は【食材】ではない。


 何故なのか、なんて疑問は浮かばなかった。もとより《眼》の判断はあたし自身にも理解できない。自分の奇妙な能力についてはとっくの昔に諦めて、そういうものと受け入れている。


 あたしにとって大事なのはただ一つ。


 あたしはこの少女を料理できない。


 それはつまり――料理しなくていい、ということ。


 静かな衝撃があたしを支配して、箸を動かす手が止まった。


 彼女は、食べられない。


 噛みしめるように認識を確かめる。


 彼女は【食材】ではないし、彼女の【料理法】は見つからない。


 湧き上がるレシピに急き立てられず、欲求と常識の板挟みにならず、ただ目の前の相手だけを見ていればよい。


 そんな状況が訪れるなんて思ってもいなかった。


 ましてそれが、こんなに気が休まるものだなんて。


 知らなかった。知らないということすら知らなかった。


 全く予期しないところに開けていた、新しい世界の窓。あたしはどんな反応をしたらいいのか分からないまま、彼女の健啖ぶりをぼうっと眺めることしかできなかった。


「ねぇ、これは何? それとこっちは?」


 あたしの視線に気付いた彼女が、興味津々の瞳で訊ねてきた。お皿の上にコロコロ並んだ丸っこい揚げ物と、目玉焼きと薄手のステーキが乗った丼を指し示す。


 向けられた期待の表情にあたしの気持ちもつられて明るくなり、自然と口も軽くなる。


「そっちの丸いのはビターバレンって言って、肉を煮込んで作ったタネに衣をつけてサッと揚げた料理だよ。タネは冷凍保存できるから作り置きしやすいし、軽食とかおつまみにも適した便利な一品だね。

 そのマスタードソースつけて食べて。ご飯に乗ってる方はシルパンチョ。

 見たまま、ポテトやトマトと一緒に肉を焼いて、目玉焼きと合わせてガーリックライスに乗せてるの。肉を叩いて薄くしてるからほぐれて食べやすくなってるのがポイント。

 ボリビアの名物料理で、現地では安くてボリュームがあるファストフードとして親しまれてるんだって」


 あたしの長々しい解説の間に、肝心の料理は忽然と姿を消していた。もはやツッコむ気にもならない。


 ここまで一秒たりとも食べる手と口を休めていない少女は、口の端に付いたサルサソースをぺろりと舐め取って、ほぇぇ、みたいな気の抜ける鳴き声を上げた。


「やっぱり、りょうりってすごいね」


 幼稚園児みたいな素朴な言葉。だけどその口調は、未発達な言語で興奮を伝えようとする、純真なひたむきさと熱意が宿っていた。


「あたし、何を食べてるかなんて全然気にしたこと無かった。

 ごはんはごはん、で終わってて、味なんて気にしてなかったし、何て呼ぶかも全然考えてなかった。

 ……でも、りょうりするとこんなに美味しくなるし、りょうりの仕方で味も名前も違う。

 りょうりって不思議だね」


 そこまで言って、ふと、彼女が微笑んだ。


 笑顔と言ってしまえばそれまでと変わりない……しかしほんの一瞬前とは違う、穏やかで、大人びた色の笑みが咲いていた。


「――あたし、りょうり好きだな。ずっと食べてたい」


 慈しむような声色に、虚を突かれた心地がした。


 ――食べてるばっかりのクセに、調子いいこと言っちゃって。


 頭をよぎった憎まれ口は結局声にならなくて、代わりに溜息が一つ生まれた。苛立ち紛れ……のはず。つもり。


 でも口元は不思議な力でみるみる緩んでいて、それを悟られたくなくて、あたしは彼女の言葉から別の話題へ無理やり飛び移っていった。

明日は2話投稿します~

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