理解、そして……
エモいなぁ……
《part 6》
馬鹿らしいほどの時間をかけて、突然乱入してきた物体が人間の形であることを認識した。
どうやら女の子のようだ。
特徴的なつつじ色のロングヘアは薄汚れてボサボサ、身につけた服もぼろきれに近い。
ファッションテーマは野生児か脱獄囚といった趣であり、当然ながらこんなアバンギャルド女子は近隣住民ではない。
体格の割に長い手足を振り回し、その子は白い物体に掴みかかっていた。
いや、そんな生易しい表現じゃ追いつかない。くねくね運動で腕の中から逃れようとするソレを相手取り、素手と肉体で互角以上に格闘戦を繰り広げている。
……マジか。物理攻撃効くの。レベルを上げて物理で殴ればいいのかよ。
『唖然』の見本と化してしまったあたしをよそに、少女はついに全身を駆使してソレを捕らえることに成功していた。
髪に隠れていた彼女の顔が見えた。
あたしと同年代くらいに見える顔立ち……だけど張り付いた満面の笑みが幼い印象を与える。日焼けして泥に汚れてもなお透き通るように輝く、その表情をあたしは息を呑んで見守る。
彼女がおもむろに大きく口を開けた。
その意味をあたしが察するよりも早く、彼女はゆっくりとソレに口を近づけていく――いや、きっと、あたしの時間感覚がおかしくなっていたのだろう。
その行為があまりに神秘的に思えたから。
彼女の唇が、硬い、柔らかい、湿った、乾いた、滑らかな、粗い、白いソレの肌に触れた。
そして彼女は、熱烈なキスをするみたいに強く口を押し付けて、躊躇いなく顎を閉じる。
次の瞬間、彼女は上半身のバネを余すことなく利用して、捻るようにのけぞり――
得体の知れない存在を――――食い千切った。
あたしの脳髄に稲妻が落ちた。
血も悲鳴もなかった。体の一部が欠けたというのにソレはまるで弱った様子も怒った様子もなく、依然彼女の腕の中でくねくねもがき続けている。
難儀そうに咀嚼する少女から目が離せない。
あたしの呼吸と鼓動は、さっきとはまるで違う意味で、荒く、速く、昂ぶっていた。
――ソレ、食べれるんだ。
今まで宙ぶらりんだった真っ白い存在が、パチリと音を立ててあたしの世界に嵌まった。
ほんの数瞬前まで妖しい不可解さであたしを脅かしていたソレは、もはや怖るるに足らない平凡な対象にすぎない。
だって、分かったから。
ソレが【食材】だって。
あたしがそう認識した途端――ここまで沈黙を保っていた《眼》が機能を取り戻し、頭の中が無数の【調理法】で埋め尽くされた。
鬱陶しいばかりだったレシピの濁流が今はありがたい。
料理の仕方が分かるのが嬉しい……楽しい……早く料理したい!
体の火照りから逃げるように、あたしは無意識にパーカーを脱ぎ捨てていた。包丁だけ取り出してカバンを放り出す。
すっかり金縛りが解けた両足で、一歩、一歩、あたしはソレへと歩み寄っていく。
あたしを突き動かすのは、いつになく高揚感を伴った料理欲であり、同時に――お腹の底から湧いてくる憤り。
怒りを感じるのもずいぶんと久しぶりのことだった。
謎存在を噛み取っては食べにくそうにもしゃもしゃしていた彼女が、ふと口を止めてあたしを見た。
今まであたしに気付いていなかったらしい。
注意が向いたのを幸いに、あたしのモヤモヤした歯痒さが形になって――飛び出す。
「……ソレ、生食用じゃ、なぁぁぁぁぁいっっっ!!」
また来週~




