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ペコとかまどのオカルトごはん!  作者: GOZOROPS
3皿目:肉料理《????の縺セ繧九井縺イ辟氵》
24/55

食材と調理法

《part 2》


 あたしの《眼》の起源について、自分で分かることはほとんど無い。


 食文化を専門とする人類学者の父と創作料理で有名な母の間に生まれたせい? 


 乳離れより早くから和洋中のレシピ本を読み漁り、世界の食事に関する資料を絵本代わりにしてきたせい? 

 あるいは単に、あたしの頭がおかしいだけ? 


 原因は色々考えられるけど……分かったところで別に、何が変わる訳でもなし。


 はっきりしているのはただ一つ。


 あたしは物心ついた頃からずっと、【食材】と【調理法】を見極める《眼》で世界を見ていた。


 何か物を見たとき、あたしは真っ先にそれが【食材】かどうか判断する。いや、『知る』とでも表現するのが一番正しいのかな。


 見た瞬間、それが食べられるかどうか頭の中に答えが浮かんでくるのだ。判断基準はあたし自身よく分からないから、やはり《眼》の中にある――《眼》が知っているとしか言いようがない。


 あたしの《眼》が告げる【食材】は、一般的な意味の食材であるとは限らない。


 石や鋏、包丁のように明らかに食べようがない物品や、人間にとって毒があるものは【食材】と認識されない。けれど道端の草木、ティッシュ、帰り道のスズメ、父さんの革靴なんかは全て食べられるものだった……あたしの《眼》にとっては。


 そしてひとたび【食材】として知覚されると、同時にあたしの頭の中には、それの【調理法】が浮かんでくる。


 一般的な食材だったら、古今東西身近なレシピから聞いたこともない手順まで、あらゆる調理法が一度に頭を埋め尽くす。見たことのない食材相手でもどう料理すれば食べられるか判断できて、毒抜きが必要なら正確な手順が自然と分かる。


 やったことは無いけれど、蒟蒻芋を見たら蒟蒻を作れるだろうし、河豚だって初見で捌けると思う。毒キノコも寄生虫もひと目で判別してくれる、そんなあたしの《眼》が間違ったことは一度だってなかった。


 ――皮を剥いた脚はそのまま丸揚げ。あるいは塩焼き、煮込む、炒める……選択肢は多い。


 帰りながら考えよう。胴の肉はササミに似てるから棒々鶏かサラダが丸い。頭は皮と合わせてスープの出汁……足りないかもだけど気にしない。内臓は……しっかり茹でて酢の物かな。


 黙考しつつ解体したカエルをジップロックに詰め、血を拭った道具もろとも鞄に放り込んだ。


 田んぼの真ん中を通る生活道路に人影は少ない。梅雨の晴れ間に稲が青々と茂っているけれど、直視すると無数の調理法で頭がくらつく。


 パーカーのフードを目深にかぶる癖は脊髄レベルに染み込んだ自衛方法。あたしを気遣ってくれた心優しいナントカさんは、とっくの昔に田んぼの向こうに姿を消していた。


 彼女も明日から、あたしと距離を置くようになるだろう。


 そもそもこの期に及んであたしに声をかけてくる人が居るなんて思ってもいなかった。クラスでは孤立し、一緒に帰る友達もいない、鼻つまみ者のあたしなんかに。


 それも全てこの、心臓を焦がし続ける料理への渇望のせいだ。


 【食材】を見極め、【調理法】を教えてくれる《眼》――それだけだったら単に便利な特殊能力と誇ることもできただろう。


 ……だが、何よりも私を悩ませていたのは、【調理法】が分かると湧き上がってくる感情――『料理欲』とでも言うべき耐え難い衝動だった。


 《眼》が教えてくれた【調理法】を実現したくてたまらない――。目に映る物、食べられる物なら何でも料理したい――。


 そんな欲求もまた、物心ついた頃からあたしに巣食っていた。


 一応合理的な理由はある。ありとあらゆる調理の可能性を提示してくる【食材】と比べて、一旦手を入れて料理として完成したものは【調理法】が少なくて気が休まるのだ。


 ……でもそれはきっと二次的なもの。『料理したい』という衝動は、あたしという存在のもっと奥底の方から、絶えず湧き上がってきているように思う。


 野菜を見れば刻みたい。


 魚を見れば捌きたい。


 肉を見れば下拵えしたい。


 小さい頃のあたしはスーパーや台所でしょっちゅうそんな駄々をこねた。料理を手伝うくらいなら可愛いものだけど、時には聞いたこともない調理法に固執する娘に、母さんたちも手を焼いたそうだ。


 やがて厨房にはあたし対策の厳重な鍵が掛けられるようになり、あたしの方も幼いながらに成長した。満たせない欲求を隠し、封じ、抑え込め、『普通』の子と同じように過ごす処世術を、保育園生にしてあたしは既に身に纏っていた。


 表面上平穏な日々が数年間続いた。調理道具を手にできない以上、どれだけ【調理法】を思いついたところで出来ることは何もない。


 その状況は小学校に入ってからも同じ。使われていないときの家庭科室はいつも鍵が掛かっていたし、中でも包丁類は特に厳重な鍵付き戸棚にしまわれていた。


 結局あたしはその数年間――小さな女の子からしてみれば一生涯にも等しいその時間を、仮面の下にレシピの奔流を押し留めながら生活し続けていた。


 そのまま生きていられると信じていた……いや、願っていたのかもしれない。

また来週~

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