境界に関する考察
ここから週に2話投稿にします~
《part 1》
――これは記憶。あたしがあの子に出会った日の思い出。
世界を二つに分けるとしたら、その境界はどこにあるだろう。
例えば男と女。大人と子供。日本人と外国人。高収入者と低収入者。身長体重で区切ったり、足の大きさで線引きしたり。
もっと主観的な分け方をすれば、知り合いと知らない人、好きな人と嫌いな人、家族と他人、恋人とそれ以外。
結局その区別なんてものはどれも曖昧で、恣意的で、不確か。好き嫌いなんてバッサリどちらかに割り切れるものでもないし、身長だって測り方や時間帯で変わるもの。基準があるから区別ができるのではなく、区別があるから基準ができる。
基準はそれ自体として存在するのではなくて、あたしたちが世界をどう見るかによって揺らぐもの。
世界を二つに分ける境界線は、区切る人の立場や価値観や感覚――そういったものを全てひっくるめた《眼》の中にあって、おそらく人って生き物は、時と場合によって様々な境界線を使い分けているんだろう。
……多分、そうしているんだと思う。あたしより器用な皆は。
だけどあたしの《眼》にとって、世界に引かれる境界はただ一つ。
すなわち――【食材】と【それ以外】だけだった。
「――御厨さん。ねぇ、御厨さんったら」
不意に呼びかけが耳に入り、あたし――御厨かまどの意識が現実世界に引き戻された。
咄嗟にフードを被り、振り返るとそこにいたのはクラスメイトの……誰さんだっけ。とにかく彼女はあたしを見下ろして怪訝な顔をしていた。
「どうしたの、こんな所で。具合悪い?」
昼下がりと夕暮れに挟まれた気だるい時間帯。
帰宅部はもう帰り、部活の掛け声がこだまする中、最も人通りが少ない校門前で、あたしは自分がしゃがみ込んでいることに初めて気がついた。
続いて自分の両手に持ったものを認識して苦い思いが湧き上がる。
――またやってしまった。
咄嗟に隠そうとするも時すでに遅し。ナントカさんはあたしの肩越しに覗き込んで引きつった悲鳴をあげた。
「ちょっと、何それ?!」
「いや、その……、ウシガエル、ウシガエルだよ。ただの。ははは」
曖昧な笑顔で弁明……あまりに苦しい。なにせ右手には血の滴る包丁、左手には皮を剥かれてピンクの肉を曝け出したカエルの下半身、足元のまな板には生気を失ったカエルの頭。これは言い逃れできそうもない。
「これは、違う、食材、食材だったからつい」
ウシガエルは体長二十センチ近くまで成長するアメリカ原産のカエルで、食用として輸入されたことで有名だ。放流されたものが環境に定着していて、現代では日本中の水辺で見つけられる。
おそらくあたしは下校途中、校門前に広がる田んぼから這い出てきたウシガエルを見つけて、捕まえて捌いてしまっていたのだろう……多分。記憶が定かでないけど。
あたしの弁解も虚しく、ナントカさんは後ずさりで距離を取って、そのまま駆け足で逃げ出してしまった。
こっちの言い分を聞く気はゼロ。怯えと拒絶が混じった眼差しも、あたしにとっては最早すっかり慣れっこだった。
それでも喉の奥から出てくる、溜息一つ。
悪いのはあたしじゃない……《眼》だ。この顔に嵌った《眼》のせいで、あたしはこんなことをしてしまうんだ。
また明日~




