スカイフィッシュの刺身
WAO!!!!!! SAMURAI!!!!!!
《part 6》
――休憩も取らずにかまどは包丁を手に取って、不穏な動きをし続けている魚籠に対峙した。
「ペコー、ちょっと来て」
「はぁい」
タコスを頬張って顔をとろけさせていたペコが召集に応じ、おまけとばかりにアントニオもついてくる。蠢く籠を見てとびきりのしたり顔。
「魚籠がビクビクしてるナリね」
もうあんた何なんだよ。
「……ペコ、あのでっかいやつ捌くから押さえてて」
「おっけー」
反応待ちの髭を黙殺して作業開始。
かまどが慎重に魚籠の蓋を開き、這い出たスカイフィッシュの首根っこをペコが掴んだ。大物の馬力はやはり桁違い、びたんびたんとのたうち回って魔の手を逃れようともがく。
対するペコもこれまた怪物級、両腕のみならず全身を使って押さえ込み、完全に動きを封じる。
掘削ドリルのような歯に噛みつかれないよう気をつけながら、かまどが手際良く延髄を絶ち、体長五十センチのスカイフィッシュは痙攣と共に息絶えた。
「こんな大物、ワガハイも見たことないナリ」
「これどうするの? またタコス?」
「タコスばっかりじゃ飽きるし、これだけ大きいから刺し身にするよ」
「お刺身!」
「OH! サシミ! テンプラ! ゲイシャ!」
「芸者は食べ物じゃない……」
タコス片手のやかましいギャラリーに見守られつつ、先程の要領でワタと頭を除いてよく洗う。今度は鰭を根本から切り離し、胴体は二枚に割って薄い皮を引き剥いでおく。
そしてかまどはカバンから長ものをぞろりと取り出して、巻かれていた手ぬぐいを解き放つ――現れたのは流麗な柳葉型をした薄鋼の刃であった。
「WOW! サムライ!」
「刀じゃないですって」
苦笑いで応じながらも視線は食材から離さず、彼女はまず鰭の一方に刃中を当てた。彼女の顔が禅僧のごとき明鏡止水を体現し、泰然とした手付きで己の得物を動かしていく。
切り出された身は文字通り透き通るほどの薄造り――これぞ彼女が手にする包丁、フグ引き包丁の本領であった。
身がぎっちりと筋肉質なフグを、刺し身で食べる。そんな矛盾した調理法を成立させるべく考案されたのがフグ引き包丁であり、粘りのある身を薄く切る――職人用語では『引く』――ことに特化している。刃の通りを良くするため刀身の幅が狭く薄いのが特徴で、通常の包丁より更に鋭い切れ味を持っている。
そして身が筋肉質である性質はスカイフィッシュにも共通する。
空中を超スピードで飛び回る一方、骨らしい骨が無いスカイフィッシュ。彼らは発達した筋肉によって棒状の胴体を支えており、また鰭部分も大気を切り裂いて浮かび進むために柔軟かつ強靭な筋組織で形成されている。なのでスカイフィッシュの身は強固であり、火を通さず刺し身として食すには、やはりこのように引いていくことが必要となるのだ。
胴と鰭を一通り引き終わり、かまどはカバンから一抱えほどもありそうな大皿を取り出した。釉薬で牡丹の模様が描かれた涼やかな陶器の皿だ。
「そのカバン何でも入るナリね。ひみつ道具ナリ?」
「何でもは入らないし、ただの三次元ポケットですよ。入れ方にコツがあるだけです」
沸かし直した(小)の茹で汁を再利用して湯通ししていく。沸騰した湯に玉杓子で数秒晒し、常温の水で冷やして手早く皿に盛り付けていく。
本当は氷水で身を締めたいところだが、この熱気で氷を持ってくるのは流石に難しい。出来ないものは仕方がない。
こだわりは強いが諦めもよいのが彼女であった。
湯通しで白みを増した鰭と、透明度の変わらない胴体。
二種類の身で同心円を形作るように気をつけて、見た目にも美しいスカイフィッシュ(大)の刺し身が完成した。
ギャラリーが浴びせる賞賛の声。かまども満更でない顔を伺わせている。
残ったお湯はついでなのでご飯の加熱に使う。
というわけで、日本の誇りレトルトご飯パックをシュート。ラストタコスを頬張りながら十五分ほど待ち、開封し三人分の茶碗によそう。
こうしてスカイフィッシュ料理第二弾が暫定食卓の切り株へと届けられた。
また来週~




