表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペコとかまどのオカルトごはん!  作者: GOZOROPS
2皿目:魚料理《スカイフィッシュ・タコスと釜揚げスカイフィッシュ》
18/55

スカイフィッシュ・タコス

スカイフィッシュのお味は?

《part 5》


 彼女がカバンから取り出したのは出汁濾し袋――綿で出来た巾着袋である。普通は煮干しや鰹節を入れて出汁を取るときに使うものだが、かまどは慎重に網の口を寄せ、袋にスカイフィッシュ(小)の群れを移し替えていく。


 要した時間は五分足らず。多少溢れたものの詰め替えが完了し、口をきつく締めてから大きめの鍋に水を張る。バーナーを強火にセットして……とそこに、機嫌を直したらしいペコが歩み寄ってきた。


「かまど、結局どんな料理にするの?」


「釜揚げにしようかなって。しらすの製法が使えそうだし」


「しらす干し?」


「干す前のしらす。茹でたのをそのまま食べるんだよ」


「ふぅん……」


 食べ物の話だというのにどこか気も漫ろな返事。かまどはそんな彼女に目配せして、


「で、後ろに持ってるのは何?」


 と水を向けてやった。途端にペコの顔に光が射す。


「タコス、持ってきた。やっぱりかまどにも食べてほしいから」


 言いながら彼女は隠していた両手と、そこに握られたタコスを差し出した。我ながら絶品を予感させる匂いが嗅覚を直撃。みるみる唾液が湧いてくる。


「タコスは片手でも食べられるよね」


「ん、まぁそうだね」


「それともあたしが食べさせる?」


「いらんいらん。赤ちゃんじゃあるまいし」


 空いた方の手でタコスを受け取って「ありがと」と呟くと、彼女は満足そうに深く笑んで、簡易食卓へ戻っていった。すぐさま聞こえてきた元気な「いただきますっ!」と辿々しい「イタダキマスナリ」を聞きながら、かまどは口元を緩めて「いただきます」を口にする。


 食べる前から既に、トルティーヤから来るコーンの香りと熱々フライの香ばしさが二重奏になって食欲を責め立ててくる。


 大きく口を開けて丸かじり――揚げ焼きにした衣はサクリと音を立ててしつこさを感じさせない。


 口に広がった風味でかまどは成功を確信した。軽い口当たりの衣が淡白な身を包んでいる。


 スカイフィッシュの胴体は身が詰まっているが噛み切りやすく、見た目に似てボイルイカのような食感だ。鰭に当たる部分も魚と違って肉で出来ていて、こちらはコリコリした歯応えを楽しめる。


 部位的にエンガワに近いのだろうか。いずれにせよ脂の少ないあっさりした印象で、これは確かに揚げ物やムニエルにするのが合いそうだ。


 そこにチリパウダーが名脇役としてアクセントを加えていく……そのスパイシーなピリ辛はまさにメキシコに吹く熱風サンタナ。スカイフィッシュフライ……これはタコスの具材にとどまらず、単品料理にも酒のつまみにもできそうな会心の出来である。


 ――まぁあたしはお酒飲めないけど……。定番のビール、あえての日本酒、それともメキシコ風にテキーラとか?


 成人後のグルメを想像しながら食べ進めていく。


 油少なめで仕上げたフライとは言え、それだけではやはり飽きが来るというもの。そこに颯爽と現れるのがシャキシャキ軽快な千切りキャベツだ。豚カツとキャベツの例からも分かるように、千切りしたキャベツは油っこさから味覚を救う永遠の相棒。相性が悪いわけがない。


 さらに加えてサルサが味に広がりを与えてくれる。瑞々しいトマトの酸味と、チリとは違うハラペーニョのすっきりした辛さが舌を楽しませ、ライムの爽やかな香りが後味を清涼に保つ。


 曲者なのはコリアンダーの葉……いわゆるパクチー。苦手な人も多いと聞くが、このクセが味わいに深みを形作っているように感じて、かまどは決して嫌いではなかった。


 そして忘れてはならないのが、具材たちを包みこむまとめ役――トルティーヤだ。


 トウモロコシの素朴な味わい、そしてほのかに感じる甘みが具のうま味を邪魔せず引き立てる。地元民(ジモティー)の腕前をその舌で確かめたかまどは、少しだけ、ほんの少しだけ、鬱陶しい髭おじさんの評価を引き上げたのだった。



 ちょうどタコスを食べきった頃、湯加減がよくなってきた。グラグラ煮え立った鍋に塩をつまみ入れて、スカイフィッシュ袋を投げ入れる。途端に甲高い鳴き声がボリュームを増す……しらすと違って声を出すのが少々誤算ではあったが、気にしないことにして菜箸で沈めていく。スカイフィッシュたちに逃げ場はない。現実は非情である。


 ここで大事なのは茹で時間だ。茹ですぎるとぐずぐずに煮崩れてしまうのは当然。一方で茹で足りないと身の縮みが不十分になって、ぐにょぐにょと歯切れが悪くなってしまう。


 頼れるのは料理人としての勘、彼女の《眼》だけ……。息すらも潜めて鍋を凝視するかまど。葉擦れも泡の音も遠ざかって離れていくような感覚――。


 そして二分半が経過して、彼女は機敏な手付きで袋を引き上げた。


 流石に生存スカイフィッシュはゼロ匹で、袋いっぱいに詰まった群れは思惑通りしらすのような見た目に仕上がっている。しかし一匹一匹をよく見るとまさしくミニチュア版棒状生物なのであった。ザルにあけて水を切り、ラップを掛けて粗熱を取っておく。


 これにてスカイフィッシュ(小)の料理は完了だ。

また明日~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ