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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第60局 文化祭(2015年9月27日日曜)
705/706

693手目 無限ループ

※ここからは、新巻あらまきくん視点です。

 いえーい、文化祭だぜ。

 清心せいしんの文化祭は、マジメなんだ。

 ミッション系の学校だからな。

 合唱なんかもあって、厳かな雰囲気。

 でも、出店はちゃんとある。

 将棋部の出し物は、手芸。

兎丸うさまる天使くん人形と虎向こなた悪魔くん人形だ~ッ!」

 どうだ、と看板のマスコット人形を見せると、いおりんは、あんぐりと口を開けた。

「おまえ……じぶんをモデルにしてんの? ナルシスト過ぎんだろ」

「いや、なんかこういう夢を見たから、それをヒントに作った」

「夢ぇ?」

「俺が悪魔で、兎丸が天使の夢だ。他人の将棋の邪魔してた」

「???」

 ま、それはいいとして、なんか買ってくれ。

 あんまりお客が来ないところへやって来たのが、高崎たかさき伊織いおりこと、いおりんだった。

 バスケ部の知り合いに会いに来た、という話だった。

 いおりんは、商品棚をぐるりと見渡した。

「……将棋小道具か。客選びすぎじゃね?」

「あ、やっぱり?」

 いおりんは、まあいいんだけどよぉ、と言ったあと、

「これ、儲けの一部は寄付されんのか?」

 と訊いた。

 その通りだった。

 パンフレットに書いてある通り、収入の一部は、各種の慈善団体に、学校を通じて寄付される。

 これは清心の伝統で、うちの部だけってわけじゃない。

 俺がそう説明すると、いおりんは、

「それなら、もっとマジメに儲けたほうがよくね?」

 と言った。

「どういう意味だ?」

「儲けの一部が寄付されるんだろ? だったら、儲けは多いほうが、いいだろ?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「い、いおりんが、比の計算をしてる……頭打ったか?」

「小学生の算数くらいできるっつーのッ! で、オレの言ってること変か?」

 変じゃない──が、変な気もする。

「寄付の額を大きくするために、がんばって儲けるって、いいのか?」

「なにがよくないんだ?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………助けを呼ぶか。

「おーい、兎丸」

 店の奥から、兎丸が出てきた。

「なに?」

「チャリティって、金を稼ぐ事業じゃないよな?」

 兎丸は答えるまえに、急にどうしたの、と訊いてきた。

 俺は事情を説明した。

 兎丸は、

「どっちも言い分があるんじゃない? たしかに、たくさん収入があるほうが、寄付できる額も大きくなるよね。だけど、収入を最大化する過程で、慈善事業にそぐわないことをしないといけなくなるんじゃないかな」

 と言った。

 いおりんは、

「もっとわかりやすく」

 と頼んだ。

「例えば、医療に寄付すると仮定するね。もっとわかりやすくいえば、寄付金を健康のために使ってください、っていう場合。そのために、アイスを売る」

「ふんふん、で?」

「じゃあ、アイスの売上を大きくすればするほど、寄付金は大きくなるよね? じゃあ、アイスの売上を大きくするには、どうしないといけないかな?」

 いおりんは、

「そりゃ、みんなにもっと食べてもらえばいいだろ」

 と答えた。

 兎丸は、当を得たという感じで、ゆびをパチリと鳴らした。

「だよね。じゃあ、アイスをたくさん食べたひとは、健康になるのかな?」

 いおりんは、

「あんま健康じゃないわな」

 と返した。

「ってことは、健康目的の寄付金を増やすために、不健康なひとを増やすことになる。これって、医療に限った話じゃ、ないと思う。売れるものは、どこかしら不健全なんだよ。体に悪いとか、時間を消費するとか、不生産なイベントに乱費させるとか、いろいろね」

 なるほどなぁ、さすがは兎丸。

 俺が感心していると、佐伯さえき先輩がやってきた。

 いおりんは、

「あ、佐伯先輩、ちーす」

 と気軽にあいさつした。

「こんにちは、なにかいいものは見つかった?」

「そうですね……バスケ小道具なら、いくつか必要なものがあるんですけど、将棋だと間に合ってる感じです」

 でも、と、いおりんは続けた。

「佐伯先輩が手品を見せてくれたら、考えてもいいですよ」

 おい、こら、先輩は見世物じゃないぞ。

 俺が注意するよりも早く、佐伯先輩は、

「いいよ。じゃあ、目をつむってみて」

 と応じた。

 いおりんは、目をつむった。

「1、2、3」

 パンと、佐伯先輩は手を叩いた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あれ?

「あの……先輩、いおりんは?」

「消してみたよ」

 マジでそういうのやめてくださいッ!

「先輩、今すぐもどしてください」

「ショーの終わりが早くないかな?」

「こういうことをされると、だんだん先輩が人間に見えなくなってくるんで、早くもどしてください」

 俺が懇願している横で、兎丸も、

「高崎さんも、文化祭を楽しみたいと思います。あんまり長時間消しちゃうと、悪いんじゃないでしょうか」

 と助言してくれた。

 佐伯先輩は、

「そうか……それもそうだね。じゃあ、高崎さんをもどすよ。1、2、3」

 パンという音ととともに、いおりんが──ふたりもどってきたッ!?

 どういうことだってばよッ!?

 しかも、ふたりのいおりんは、雰囲気がそれぞれ違った。

 佐伯先輩は、向かって右の、賢そうないおりんを紹介した。

「虎向くんがもどして欲しいのは、高校の成績がオール5の高崎さんかな?」

「ちがいますッ! 体育の成績だけ5のいおりんですッ!」

 佐伯先輩は、向かって左の、しおらしいいおりんを紹介した。

「虎向くんがもどして欲しいのは、学校で一度も暴力を振るったことのない、優しい高崎さんかな?」

「ちがいますッ! 口より先に手が出るいおりんですッ!」

「それはいいことなのかな?」

「今はそれが問題じゃありませんッ! ふつうのいおりんを出してくださいッ!」

 そうか、と、佐伯先輩はうなずいた。

「虎向くんは、正直だね。理知的な高崎さんと優しい高崎さんをあげるよ」

 混乱する俺を、ふたりのいおりんが挟む。

「虎向、さっきの議論は、いわゆるコーズ・リレイテッド・マーケティングだったな」

「虎向くん、今日は文化祭を案内して欲しいな。ひとりじゃ心細い」

 うわぁああああああああああああああッ!


  ○

   。

    .


「おーい、虎向、虎向ってば」

「……ん」

 目を開けると、兎丸の顔がのぞきこんだ。

 俺は背筋を伸ばす──あたりは、文化祭の真っただ中だった。

「虎向、店番で寝ちゃダメだよ」

 店番──そうだ、兎丸に店番を頼まれたんだった。

「すまん、急に眠くなった」

「ま、お客さんもそんなに来ないし、交代したかったら言ってね」

 兎丸はそう言って、教室の奥へ引っ込んだ。

 俺はうんと背伸びして、気を取り直す。

 そこへ、高身長で体格のいい女子、いおりんがやってきた。

「よお、虎向、なにやってんの?」

「出店」

「出店? なんの?」

 俺は、手近にあったひと組の人形をみせた。

「兎丸天使くん人形と虎向悪魔くん人形だ~ッ!」

 どうだ、と看板のマスコット人形を見せると、いおりんは、あんぐりと口を開けた。

「おまえ……じぶんをモデルにしてんの? ナルシスト過ぎんだろ」

「いや、なんかこういう夢を見たから、それをヒントに……ん?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ループしてないか?

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