694手目 グンバツの占い師
※ここからは、葛城くん視点です。
無限ループって怖いよねぇ。
あ、特に意味はないよぉ。
今日は升風の学園祭。
みんな気合い入ってるねぇ。
僕は将棋部の出店ぇ……じゃなくてぇ、クラスの担当ぉ。
獅子戸くん、曲田くん、将棋部のほうはがんばってねぇ。
売り上げが少なかったらオコだよぉ。
というわけで、ボクもがんばろぉ。
ボクたちのクラスの出し物は、なんと、うらなーい。
ものを売らないんじゃないよ、占いだよぉ。
「というわけで、美沙ちゃん、よろしくねぇ」
魔女のコスプレをした女の子、黒木美沙ちゃんは、大きくタメ息。
「ハァ、なんで他校の学園祭で、魔力を使わないといけないんですかね」
えへへぇ、役作りはバッチリだねぇ。
「ボクに将棋で負けたら、やってくれるって約束だったよねぇ」
「完全に研究を用意してましたよね?」
備えあれば、憂いなしぃ。
じゃあ、さっそく商売ターイム。
教室に占い用テーブルを置いて、壁の装飾をそれっぽくしただけぇ。
かんたーん。
美沙ちゃんの占いは、近隣でも有名。
すぐに行列ができたよぉ。
「相性占いしてください」
「落とし物をしたんですけど……」
「テストに出る問題って、教えてもらえますか?」
順調、順調ぉ。
それにしても、美沙ちゃんが持ってきた水晶玉、すごいねぇ。
手をかざすと、中に映像が浮かび上がるんだよぉ。
たぶん、ホログラム発生装置かなぁ。
全体が透明に見えるのは、錯視だろうねぇ。
っと、友だちが来たよぉ。
「おーい、ふたば」
「アハッ、葛城くん、こんにちは」
たっちゃんとつっくんだぁ。
「いらっしゃーい、タダでいいよぉ」
ボクがそう言うと、たっちゃんとつっくんは、
「そ、それは他のお客さんに悪いだろ。ちゃんと払うぞ」
「僕も払うよ」
と答えた。
マジメぇ。
たっちゃんは、500円払って着席ぃ。
「よろしくお願いします」
美沙ちゃんも、あ、よろしくお願いします、と返した。
「今日の御用件は?」
「あの……ペットが生きてるかどうかって、わかりますか?」
ふえ?
美沙ちゃんも、怪訝顔ぉ。
「それは獣医の領分では?」
「3年前、犬がいなくなったんです。散歩中に逃げたとかじゃなくて、ふっつり消えちゃって……ずっと捜してるんですが、年齢も年齢なので……」
美沙ちゃんは、ちょっぴり考え込んだ。
ボクも、ちょっぴり心が痛んでいた。
たっちゃんのお父さんが飼ってた、サトっていうわんちゃん……お父さんが亡くなったあと、いなくなっちゃったんだよねぇ。たっちゃんは、お父さんを捜しに行って、交通事故にあったんじゃないかって言ってたけど……。
美沙ちゃんも、なにか察したみたいで、それ以上の理由は訊かなかった。
ただ、
「私は酔狂でこの仕事はしていません。亡くなっている場合は、その通りに伝えますが、よろしいですか?」
と念を押した。
たっちゃんは、少し間を置いたあと、表情をひきしめて、
「はい」
と答えた。
美沙ちゃんは、水晶玉に手をかざした。
光ってるぅ。
水晶玉に映像が──あれ、乱れてるねぇ。
美沙ちゃんは、わずかに目を細めた。
「これは……」
たっちゃんは、思わず身を乗り出した。
「どうですか?」
「……生きています」
たっちゃんの顔が明るくなった。
「そうなんですね、じゃあ、どこに……」
「ただし、会うのは難しいです」
たっちゃんの顔が曇った。
悲しみというより、不意を突かれたような表情だった。
「どういう意味ですか?」
美沙ちゃんはひとさしゆびとおやゆびで、じぶんのくちびるに触れた。
冗談……を言ってるようには、見えないねぇ。
だとしたら悪質だしぃ。
「あの……」
「その犬は、人間の手を離れて、他の仲間といっしょにいます」
「……他の仲間?」
「同類ということですね」
たっちゃんは一瞬、意味がわからないという顔をした。
でも、急ににこやかになって、
「もしかして、だれかに拾われてますか?」
と尋ねた。
「ええ、野良ではありません」
たっちゃんは、視線をテーブルに落として、それからうなずいた。
「それはよかったです。ありがとうございました」
たっちゃんは一礼して、席を立った。
つっくんは、同情気味な、だけど他の想いも混ざった目で、たっちゃんを盗み見たあと、代わりに座った。
「よろしくお願いします」
「今日の御用件は?」
つっくんは、恥ずかしそうに笑って、
「僕のほうは下世話なんですけど、仮に僕と将来をともにする伴侶がいるとしたら、どういうことに気をつけないといけないですか?」
と訊いた。
こ、これはぁ。
「仮に、の話ですか?」
「はい、仮に、の話です」
「わかりました。占います」
美沙ちゃん、水晶玉をエアなでなでぇ。
光って光ってぇ……あれぇ? また画像が乱れてるねぇ?
「……ミステリアスな少女が見えます」
つっくん、きょとん。
「え……ミステリアスな少女なんですか?」
「はい」
「上品な淑女じゃなくて?」
……………………
……………………
…………………
………………
か、解釈の相違ぃ。
「そうですね、上品な淑女という評も可能です。彼女には、ひとつ心配事があります」
つっくん、焦るぅ。
「な、なんですか?」
「非常な遠距離恋愛ということです」
あれ? 外れたぁ?
つっくんが言ってるのって、カンナちゃんのことだよねぇ?
遠距離恋愛でもなんでもないよぉ。
だけど、つっくんは、
「アハッ、その点は心配ないです。ワープすれば速いんですよ、結構」
と言って笑った。
ワープってなにぃ?
美沙ちゃんは動じずに、
「しかも、歳の差恋愛」
と付け加えた。
全然歳の差ないでしょぉ、同学年だよぉ。
なのに、つっくんは困ったような笑顔で、
「その可能性はあるかな、って思ってました」
と返した。
「いつからお気づきでしたか?」
「公務員なのに僕と同世代はないかな、って。たとえ文化が違っても」
「気になさっていますか?」
つっくんは、数秒ほど考えた。
「気になってたっていうか……僕なんかでいいのかな、とは思いました。でも、今まで年齢差で困ったことはないですし、2倍差でも3倍差でも、やっていけるんじゃないかな、と思います」
美沙ちゃんは、うんうんとうなずいて、
「私とダーリンも1000年以上の差がありますが、なにも問題はありませんからね」
と、ひとりで納得していた。
意味不明ぇ。
ボクをからかうために、ふたりでお芝居してるのかなぁ。
まるで幕が引けたみたいに、お客さんもいなくなっていた。
美沙ちゃんは、ボクを見上げて、
「葛城先輩は、なにか占って欲しいことがありますか?」
と訊いてきた。
そうだねぇ……ボクたち3人の将来……ううん、それはやめておこぉ。
じぶんたちの未来なんて、あらかじめ聞いておくものじゃないからぁ。
ボクの心を読み取ったように、美沙ちゃんはほほえんだ。
「魔女だって、なんでもわかるわけじゃないんですよ。ダーリンが今夜食べたいものはわかりますけどね」




