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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第60局 文化祭(2015年9月27日日曜)
703/707

691手目 人は話し方が9割?

※ここからは、五見いつみくん視点です。

 ふむ……最近、なんだか妙な夢を見た気がします。

 まあ気のせいでしょう。

 今日は駒北こまきたの文化祭。

 僕はクラスの出し物と、将棋部の出し物を兼任。

 うちの文化祭って、地味なんですよ。

 大がかりなイベントもないですし、アイドルを呼ぶわけでもなく。

 まあ駒北って、なにかにつけて地味なんですが。

 将棋部もヒマだろう、と思いきや──

「えー、これかわいい。これください」

「迷うなあ」

 テーブルに並んだポーチをまえに、大場おおば先輩は高笑い。

「まだまだいろんなのがあるっスよ~在庫が見たかったら、言ってちょうだいっス~」

 凄い売り上げだ。

 軽く10万くらい稼げるんじゃないだろうか。

 僕はメガネを拭きながら、

「大場先輩、やりますね」

 と褒めた。

「当然っス」

「てっきり、あのわけのわか……個性的な作品しか作れ……作らないのかと思ってました」

 大場先輩は、チッチッチッとゆびを振りました。

すみちゃんがいつも作ってるのは、アート、今日売ってるのは、ビジネスプロダクトなんっスよ。才能があれば、どっちもできるんっスねぇ」

 つまり、平時は才能の無駄遣いをしている?

 それとも、ほんとにアートなのか?

 僕が理解できないだけ?

「……大場先輩、今度、ハンカチかなにか作ってもらえますか?」

「ハンカチなら、ここにあるっス。300円っス」

「いえ、普段作ってるようなのでお願いします」

 大場先輩は、びっくりしたようす。

 頭に両手をあてて、くるくる回りました。

「五見くん、ようやく角ちゃんの才能に気づいたんっスね~特別に500円で、角ちゃんスペシャルハンカチを作ってあげるっスよ~」

 将来、高く売れるかもしれない。

 とかなんとかしていると、見知ったお客さんがきました。

 Y口のやなぎくん。

「こんにちは~」

「こんちゃっス。はるばるよく来てくれたっスね」

 柳くんは、商品を一瞥して、

「うわぁ、すごいですね。大場先輩が作ったんですか?」

 と訊きました。

「えっへん、そうっスよ」

「ちょっと見てもいいですか?」

 柳くんは、お財布に興味があるようですね。

 あれこれ見比べて、ピンク色の猫ガラを手にとりました。

「これ可愛いですね。いくらですか?」

優太ゆうたくんなら、タダでいいっスよ~」

 ダメですよ、それは。

 他のお客さんに不公平ですからね。

 柳くんもそこはわかっているらしく、

「ちゃんと払いますよ~」

 と返しました。

「じゃあひゃ……」

 大場先輩の口を封鎖。

「ここにある商品は全部500円だよ」

 柳くんは、

「交通系で払えますか?」

 と訊いてきました。

「ごめん、現金オンリー」

 柳くんは、革製の財布をとりだして、枚数を数え始めました。

「いち、にい、さん……はい、5枚です」

「……その財布、ブランドものじゃない? 買うのがお財布でいいの?」

「思い出として買いまーす」

 ぐッ、柳くんの純粋な笑顔が、僕の汚れた心を浄化する。

 大場先輩も息を吹き返して、

「角ちゃん、優太くんを案内してくるっス。お留守番を頼むっス」

 と指示してきました。

「わかりました。僕はクラスの出し物もあるので、12時半までには帰ってきてくださいね」

 さて、ここからは番頭タイム──っと、見知った顔が。

 升風ますかぜ獅子戸ししどくんと曲田まがたくんです。

 曲田くんは、やあ、と右手で挨拶しました。

「おひさしぶり。儲かってる?」

「質問がストレート過ぎます」

 曲田くんは笑って、

「いいじゃないの。こんだけ盛況だから、儲かってるんでしょ?」

 と言いました。

「まあまあかな」

「ぼちぼちでんなあ、か……これ、大場先輩のお手製?」

「そうだよ」

 曲田くんは、商品を端から端まで一瞥。

「大場先輩、こういうのを普段から作ればいいんじゃない?」

「やはりそう思いますか?」

 ここで獅子戸くんは呆れ顔で、

「外野があれこれ言うことじゃないだろ」

 とたしなめました。

 たしかに……とも思いますが、しかし、とも思います。

 僕は、

「個人の才能が埋もれることに、僕は抵抗感をおぼえます。大場先輩は卒業後、専門学校も考えているようですが、それなら売れ筋を作るほうがいいんじゃないでしょうか」

 と、ちょっと踏み込んだ発言をしてみました。

 獅子戸くんは、なんでだ、と訊き返しました。

「専門学校の教師が、大場先輩のセンスをそのまま受け入れますかね。おそらく、矯正してくると思います。そこで揉めるくらいなら、早めにだれかが言ってあげるほうが、ベターなのでは」

「そりゃお節介だ」

「獅子戸くんの意見には、一理あります。個人がなにを作るかは、自由ですからね。でも、外野がなにも言わないのは、はたしてその自由を尊重しているからでしょうか?」

「言い方は大げさだが、俺のは本心だ。大場先輩には、大場先輩のセンスで作る自由がある」

「獅子戸くんは、そうかもしれません。しかし、ほかのひとたちが黙ってるのって、そういう趣旨なんですかね? 揉めたくない、トラブルになりたくない、面倒事には巻き込まれたくない、そんなところじゃないですか?」

 獅子戸くんは、そのライオンヘアをがしがしと掻きました。

「あいかわらずめんどくせえなあ。もうちょい素直に考えろよ」

「ま、これが僕の性分なんで……と、挨拶はこれくらいにして、商品を見てもらいましょうか。冷やかしでなければ、ね」

 テーブルをあれこれ見て回ったあと、曲田くんは、

「いわゆるカワイイ系か……ちょっと手が出にくいかな」

 と、やんわり買わない宣言。

 まあしょうがないです。

 一方、獅子戸くんは、

「そうか? このぬいぐるみとか、よくね?」

 と言って、熊のぬいぐるみを手にとりました。

 曲田くんは、

「あ~、ジョージはぬいぐるみ集めてるっけ?」

 と、したり顔で言いました。

「集めてるってほどじゃねーが、こりゃよくできてる。縫合もじょうぶそうだ。いくら?」

「ぬいぐるみはちょっと高くて、700円」

「大量生産してなきゃ、そんなもんか。ほい」

 獅子戸くんは、1000円札を出しました。

 まいど~っと、お釣りを300円。

 獅子戸くんは、人形の頭をポンポンしながら、

「それじゃ、団体戦でな」

 と言って、曲田くんといっしょに、その場を去りました。

 当たったときは、負けませんよ。

 では、番頭を再開。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………少しヒマになってきた。

 お昼が近づいて、みんな飲食店のほうへ散らばったっぽい──っと、追加のお客さんだ。

 春日川かすがわさん、林家はやしやさん、高崎たかさきさん、いつものトリオ。

 林家さんは手を振って、

「儲かりまっかあ」

 と訊いてきました。

「それ、獅子戸くんと同じ質問ですね」

「げぇ、ジョージと一緒か、撤回しやす。大場先輩の特技とかけて、おどろいた赤ちゃんと解きます」

「その心は?」

「しゅげぇ」

「おーい、高崎さん、座布団全部持ってって」

「即興で作ったんで、ゆるしてくだせえ……ところで、美味しい店を教えてくんだまし。これからランチでがす」

 うちはインフォメーションセンターじゃないんですが。

 とはいえ、無下にことわる理由もなく。

「そうですね……2年2組の焼きそば屋は、けっこう美味しいみたいです。あと、3年1組のスイーツショップは、実家がお菓子屋さんの生徒がいて、セミプロ並みだとか」

 紹介してたら、お腹が空いてきた。

 他の部員とローテで、昼食にしようか。

 と、そんなことを考えているあいだにも、3人はあれこれ話をしていました。

 春日川さんは、白杖を片手に、テーブルへ手を伸ばして、

笑魅えみさん、これはなんですか?」

 と訊きました。

「ポーチでがすね」

「なるほど……こちらは?」

「お財布でがす」

 春日川さんは、両方をかるーく触ったあと、

「……生地は安いですが、裁縫でクオリティをカバーしていますね」

 とつぶやきました。

 さすが、と同時に、あんまり店頭でそういうことを言わないでください、とも。

 なにか買ってくれないかな、と思っていると、大場先輩がもどってきました。

「お待たせっス」

「あれ、早かったですね。柳くんは?」

「知り合いの中学生たちと、どっか行っちゃったっス」

 そういうオチですか。

 中学生は中学生同士のほうが、気がおけなくていいですよね。

 一方、さっきから黙っていた高崎さんは、

「これ、全部大場先輩が作ったですか?」

 と訊きました。

「なんでいつもはこういうの作らないんです?」

「どういう意味っスか?」

「変なガラの服じゃなくて、こういうのを作ればいいんじゃないですか?」

 大場先輩は、嘆息しました。

「わかってないっスねえ。角ちゃんのセンスが爆発したアートと、ただのビジネスプロダクトを比較しないで欲しいっス」

「まあ、センスは爆発していますけど……」

 おっと、高崎さんが言ってくれましたか。

 じゃあ、僕もしゃしゃり出ます。

「僕も高崎さんの意見に、同感なところがありまして……」

「五見くんはあとでおしおきっスから、首を洗って待っとくっス」

 し、しまった──どう言うか、以前に、だれが言うかも大切だった。

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