691手目 人は話し方が9割?
※ここからは、五見くん視点です。
ふむ……最近、なんだか妙な夢を見た気がします。
まあ気のせいでしょう。
今日は駒北の文化祭。
僕はクラスの出し物と、将棋部の出し物を兼任。
うちの文化祭って、地味なんですよ。
大がかりなイベントもないですし、アイドルを呼ぶわけでもなく。
まあ駒北って、なにかにつけて地味なんですが。
将棋部もヒマだろう、と思いきや──
「えー、これかわいい。これください」
「迷うなあ」
テーブルに並んだポーチをまえに、大場先輩は高笑い。
「まだまだいろんなのがあるっスよ~在庫が見たかったら、言ってちょうだいっス~」
凄い売り上げだ。
軽く10万くらい稼げるんじゃないだろうか。
僕はメガネを拭きながら、
「大場先輩、やりますね」
と褒めた。
「当然っス」
「てっきり、あのわけのわか……個性的な作品しか作れ……作らないのかと思ってました」
大場先輩は、チッチッチッとゆびを振りました。
「角ちゃんがいつも作ってるのは、アート、今日売ってるのは、ビジネスプロダクトなんっスよ。才能があれば、どっちもできるんっスねぇ」
つまり、平時は才能の無駄遣いをしている?
それとも、ほんとにアートなのか?
僕が理解できないだけ?
「……大場先輩、今度、ハンカチかなにか作ってもらえますか?」
「ハンカチなら、ここにあるっス。300円っス」
「いえ、普段作ってるようなのでお願いします」
大場先輩は、びっくりしたようす。
頭に両手をあてて、くるくる回りました。
「五見くん、ようやく角ちゃんの才能に気づいたんっスね~特別に500円で、角ちゃんスペシャルハンカチを作ってあげるっスよ~」
将来、高く売れるかもしれない。
とかなんとかしていると、見知ったお客さんがきました。
Y口の柳くん。
「こんにちは~」
「こんちゃっス。はるばるよく来てくれたっスね」
柳くんは、商品を一瞥して、
「うわぁ、すごいですね。大場先輩が作ったんですか?」
と訊きました。
「えっへん、そうっスよ」
「ちょっと見てもいいですか?」
柳くんは、お財布に興味があるようですね。
あれこれ見比べて、ピンク色の猫ガラを手にとりました。
「これ可愛いですね。いくらですか?」
「優太くんなら、タダでいいっスよ~」
ダメですよ、それは。
他のお客さんに不公平ですからね。
柳くんもそこはわかっているらしく、
「ちゃんと払いますよ~」
と返しました。
「じゃあひゃ……」
大場先輩の口を封鎖。
「ここにある商品は全部500円だよ」
柳くんは、
「交通系で払えますか?」
と訊いてきました。
「ごめん、現金オンリー」
柳くんは、革製の財布をとりだして、枚数を数え始めました。
「いち、にい、さん……はい、5枚です」
「……その財布、ブランドものじゃない? 買うのがお財布でいいの?」
「思い出として買いまーす」
ぐッ、柳くんの純粋な笑顔が、僕の汚れた心を浄化する。
大場先輩も息を吹き返して、
「角ちゃん、優太くんを案内してくるっス。お留守番を頼むっス」
と指示してきました。
「わかりました。僕はクラスの出し物もあるので、12時半までには帰ってきてくださいね」
さて、ここからは番頭タイム──っと、見知った顔が。
升風の獅子戸くんと曲田くんです。
曲田くんは、やあ、と右手で挨拶しました。
「おひさしぶり。儲かってる?」
「質問がストレート過ぎます」
曲田くんは笑って、
「いいじゃないの。こんだけ盛況だから、儲かってるんでしょ?」
と言いました。
「まあまあかな」
「ぼちぼちでんなあ、か……これ、大場先輩のお手製?」
「そうだよ」
曲田くんは、商品を端から端まで一瞥。
「大場先輩、こういうのを普段から作ればいいんじゃない?」
「やはりそう思いますか?」
ここで獅子戸くんは呆れ顔で、
「外野があれこれ言うことじゃないだろ」
とたしなめました。
たしかに……とも思いますが、しかし、とも思います。
僕は、
「個人の才能が埋もれることに、僕は抵抗感をおぼえます。大場先輩は卒業後、専門学校も考えているようですが、それなら売れ筋を作るほうがいいんじゃないでしょうか」
と、ちょっと踏み込んだ発言をしてみました。
獅子戸くんは、なんでだ、と訊き返しました。
「専門学校の教師が、大場先輩のセンスをそのまま受け入れますかね。おそらく、矯正してくると思います。そこで揉めるくらいなら、早めにだれかが言ってあげるほうが、ベターなのでは」
「そりゃお節介だ」
「獅子戸くんの意見には、一理あります。個人がなにを作るかは、自由ですからね。でも、外野がなにも言わないのは、はたしてその自由を尊重しているからでしょうか?」
「言い方は大げさだが、俺のは本心だ。大場先輩には、大場先輩のセンスで作る自由がある」
「獅子戸くんは、そうかもしれません。しかし、ほかのひとたちが黙ってるのって、そういう趣旨なんですかね? 揉めたくない、トラブルになりたくない、面倒事には巻き込まれたくない、そんなところじゃないですか?」
獅子戸くんは、そのライオンヘアをがしがしと掻きました。
「あいかわらずめんどくせえなあ。もうちょい素直に考えろよ」
「ま、これが僕の性分なんで……と、挨拶はこれくらいにして、商品を見てもらいましょうか。冷やかしでなければ、ね」
テーブルをあれこれ見て回ったあと、曲田くんは、
「いわゆるカワイイ系か……ちょっと手が出にくいかな」
と、やんわり買わない宣言。
まあしょうがないです。
一方、獅子戸くんは、
「そうか? このぬいぐるみとか、よくね?」
と言って、熊のぬいぐるみを手にとりました。
曲田くんは、
「あ~、ジョージはぬいぐるみ集めてるっけ?」
と、したり顔で言いました。
「集めてるってほどじゃねーが、こりゃよくできてる。縫合もじょうぶそうだ。いくら?」
「ぬいぐるみはちょっと高くて、700円」
「大量生産してなきゃ、そんなもんか。ほい」
獅子戸くんは、1000円札を出しました。
まいど~っと、お釣りを300円。
獅子戸くんは、人形の頭をポンポンしながら、
「それじゃ、団体戦でな」
と言って、曲田くんといっしょに、その場を去りました。
当たったときは、負けませんよ。
では、番頭を再開。
……………………
……………………
…………………
………………少しヒマになってきた。
お昼が近づいて、みんな飲食店のほうへ散らばったっぽい──っと、追加のお客さんだ。
春日川さん、林家さん、高崎さん、いつものトリオ。
林家さんは手を振って、
「儲かりまっかあ」
と訊いてきました。
「それ、獅子戸くんと同じ質問ですね」
「げぇ、ジョージと一緒か、撤回しやす。大場先輩の特技とかけて、おどろいた赤ちゃんと解きます」
「その心は?」
「しゅげぇ」
「おーい、高崎さん、座布団全部持ってって」
「即興で作ったんで、ゆるしてくだせえ……ところで、美味しい店を教えてくんだまし。これからランチでがす」
うちはインフォメーションセンターじゃないんですが。
とはいえ、無下にことわる理由もなく。
「そうですね……2年2組の焼きそば屋は、けっこう美味しいみたいです。あと、3年1組のスイーツショップは、実家がお菓子屋さんの生徒がいて、セミプロ並みだとか」
紹介してたら、お腹が空いてきた。
他の部員とローテで、昼食にしようか。
と、そんなことを考えているあいだにも、3人はあれこれ話をしていました。
春日川さんは、白杖を片手に、テーブルへ手を伸ばして、
「笑魅さん、これはなんですか?」
と訊きました。
「ポーチでがすね」
「なるほど……こちらは?」
「お財布でがす」
春日川さんは、両方をかるーく触ったあと、
「……生地は安いですが、裁縫でクオリティをカバーしていますね」
とつぶやきました。
さすが、と同時に、あんまり店頭でそういうことを言わないでください、とも。
なにか買ってくれないかな、と思っていると、大場先輩がもどってきました。
「お待たせっス」
「あれ、早かったですね。柳くんは?」
「知り合いの中学生たちと、どっか行っちゃったっス」
そういうオチですか。
中学生は中学生同士のほうが、気がおけなくていいですよね。
一方、さっきから黙っていた高崎さんは、
「これ、全部大場先輩が作ったですか?」
と訊きました。
「なんでいつもはこういうの作らないんです?」
「どういう意味っスか?」
「変なガラの服じゃなくて、こういうのを作ればいいんじゃないですか?」
大場先輩は、嘆息しました。
「わかってないっスねえ。角ちゃんのセンスが爆発したアートと、ただのビジネスプロダクトを比較しないで欲しいっス」
「まあ、センスは爆発していますけど……」
おっと、高崎さんが言ってくれましたか。
じゃあ、僕もしゃしゃり出ます。
「僕も高崎さんの意見に、同感なところがありまして……」
「五見くんはあとでおしおきっスから、首を洗って待っとくっス」
し、しまった──どう言うか、以前に、だれが言うかも大切だった。




