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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第59局 感想戦後の感想戦(K川県・T島県)(2015年9月19日土曜)
699/707

687手目 すなおな感想

 次は、那賀ながさん。

 那賀さんは頭をかきながら、

「すみれは、自慢できるような棋譜がないから、仲良しの伊代いよちゃんとにしますじょ」

 と照れ笑いした。

 全然オッケー。

「すみれの先手で、序盤は角換わりでしたじょ」


【先手:那賀すみれ(T島県) 後手:宇和島うわじま伊代いよ(E媛県)】

挿絵(By みてみん)


 僕は、予定の作戦?、と尋ねた。

「なりゆきですじょ。最初は矢倉にしようかと思ってたけじょ、伊代ちゃんの3四歩が自信満々だったから、やめましたじょ」

 雰囲気系の序盤。

 以下、オーソドックスな腰掛け銀に移行する。


【36手目】

挿絵(By みてみん)


 僕は、

「単純に組んじゃうと、どうしても千日手になりがちだよね。本譜は意識してた?」

 と訊いた。

「千日手はちょっと思いましたじょ。すみれが飛車をうろうろしてたら、伊代ちゃんのほうから攻めくれましたじょ」

 36手目以下の、2五歩、4一飛、7九玉、3一玉、6八銀、8五歩、7七銀、2二玉、6九飛、8一飛、8八玉、4一飛、2九飛、6五歩のことだね。

 この攻め自体は、悪くない。

 アマだから、ムリに先手番を取りにいく必要もない。

 那賀さんは、手を進めながら、

「すみれが迷ったのは、9二香のときでしたじょ」


【58手目】

挿絵(By みてみん)


「端攻めが怖いから、すみれも攻めようかと思いましたじょ。でも、いい手が思い浮かばなくて、伊代ちゃんに攻めてもらうことにしましたじょ」

 僕はこれを受けて、

「宇和島さんのほうに、攻める気配があったってことかな?」

 と確認を入れた。

「そんな気がしましたじょ」

 その理由を、那賀さんは説明できないようだった。

 長年の付き合いから察した、ってやつかな。

 那賀さんの待機方法は、5九飛。

 これに宇和島さんが6六歩と伸ばして、2九飛に8六歩。

 那賀さんの予定通り、後手から攻めてきた。

 同銀、6五銀、同銀、同桂、3八角。


【67手目】

挿絵(By みてみん)


 僕は、

「この手は、解説でも評判が良かったよ」

 と伝えた。

 那賀さんは頭をかいて、

「えへへ、照れますじょ。打ったときは自信なかったですじょ」

 と言った。

 AI的にも、最善手なんじゃないかな。

 これに宇和島さんが長考。

 3分使って、6七銀と打ち込んだ。

 以下、後手の攻めに、先手の受け、という展開。


【78手目】

挿絵(By みてみん)


 僕は、

「ここでの形勢判断は、どうだった?」

 と訊いた。

「お恥ずかしながら、覚えてないですじょ」

「今見て、どうかな?」

「むつかしい質問ですじょ。後手が攻めてるから、後手のほうを持ちたいですじょ」

「先手は7七銀と打ったよね。2四歩の攻め合いは考えなかった?」

「ほんとによく覚えてないですじょ。たぶん、受けるのに精いっぱいで、他のことはあんまり考えなかったんだと思いますじょ」

 じっさい、このあとの那賀さんは、とにかく受けに回った。

 6七歩成以下の猛攻を受け止める。

 反撃に出たのは、89手目。


【89手目】

挿絵(By みてみん)


 後手が8二飛で緩んだところを、果敢に攻めた。

 僕は、

「7三歩、同金は考えなかった?」

「考えなかったですじょ。9一角ですかじょ?」

「それは8三飛と浮かれたあと、手がないんだよね。2四歩、同歩、2五歩と継ぎ歩したい」

「あ、理解しましたじょ。同金、2四歩、同銀に7一角ですかじょ」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


 これがあるから、2四同歩としかできない。

 だから継ぎ歩が成立する。

 那賀さんは、

「本譜も6三歩成、同金、2四歩で、同銀と取れないというのはわかってましたじょ。だけど、7三歩のほうは思いつかなかったですじょ」

 と答えた。

「6三歩成が悪いわけじゃないよ。これでも互角だし」

 以下、本譜も2五歩の継ぎ歩で、似たような展開に。

「このあとは、ほんとによくわかりませんでしたじょ。切ったり打ったりしてたら、伊代ちゃんの攻めのほうが迫力があって、先手ダメになったと思いましたじょ」


【122手目】

挿絵(By みてみん)


 僕はメモを見て、

「ここは後手指しやすいね。ただ、先手もイケそうじゃない?」

 とコメントした。

「持ち駒が頼りないですじょ。2九の飛車がいなくなったら、5九角くらいで縛られると思ってましたじょ」

 当事者は悲観していた、と。

 とはいえ、先手は飛車を突っ込むしかないから、2一歩成、6五歩、3三と、5二玉、4二と、同玉、3三桂成、同玉と全部捨てて、2二飛成。後手は4三玉と逃げるわけだけど、そこで4二銀が岐路になった。


【133手目】

挿絵(By みてみん)


 僕は、

「この手に関する僕の意見を、先に言ってもいいかな?」

 と尋ねた。

「もちろんですじょ」

「これ、すごくいい手だったと思うんだよね。AIでは多分最善じゃないんだけど」

「じょ? そうなんですかじょ?」

 那賀さんは、AI検討をしていないらしかった。

 まあひとそれぞれだからね。

「最善は、おそらく4五桂。これが詰めろなんだ」

「……4二銀、同飛、3三龍までですかじょ? 気づきませんでしたじょ」

「だけど、4二銀のほうが、応手は難しいと思う。3二金が最善で、5一銀不成、2二金、4一飛、5三玉、4二飛成、6四玉、6五銀、同玉、9二龍と取るよね」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「AIでは、既に後手勝勢。人間的にはどうかな? 6九銀か6六桂が本命で、そのあと寄せ合いになる。この段階で1分将棋だろうから、おたがいにけっこう厳しいんじゃない?」

 那賀さんは、

「なるほどですじょ。でも、やっぱり後手の持ち駒が多すぎますじょ」

 と、懐疑的だった。

 ま、そこはしょうがないよね。

 先手が悪い以上、冷静に分析すれば、後手に好材料が多いわけで。

 僕が前提としているのは、あくまでも1分将棋のときは、ってことだ。

 いずれにせよ、本譜の4二銀は、功を奏した。

 宇和島さんは3二金としないで、9一飛で端攻めに繋げた。


【134手目】

挿絵(By みてみん)


 ここで大逆転。一気に先手勝勢に。

 と思ったら、那賀さんが受け間違えた。

 3三龍、5二玉、7五桂、9七歩成に、同香と取ってしまった。


【139手目】

挿絵(By みてみん)


 7八玉なら、先手勝勢のままだった。

「なんだかよくわからなくなってきて、とりあえず右へ逃げたら、安全になりましたじょ。伊代ちゃんも6二金と逃げて、時間がないから困りましたじょ」


【146手目】

挿絵(By みてみん)


 僕は、

「ここで那賀さんは、うまい時間稼ぎをしたよね」

 とコメントした。

「6四歩に7一桂と受けられたとき、ピコーンときたですじょ。6三歩成、同桂、同桂成、同金、7五桂、6二金で同じかたちになるから、4分は稼げると気づきましたじょ」

 じっさいには、2分(歩2枚分)だけ稼いで、3回目は6三歩と直接打った。


【163手目】

挿絵(By みてみん)


 この局面が、宇和島さんの最後のチャンスだった。

 4七桂と打てば、逆転していた。というか、先手が詰む。

 けど、これはかなり無理な相談。

 最善を尽くせば、45手詰め。

 しかも、詰まさないとそのまま負け。

 僕がそのことを指摘すると、那賀さんは、

「え、そうなんですかじょ? 感想戦でも、全然出ませんでしたじょ」

 と驚いた。

 けど、それはほんとうに純粋な驚きで、そうなんだあ、くらいの反応だった。

「このあとは、伊代ちゃんに手がなくなって、すみれが勝ちましたじょ」

 後手は細い攻めになってしまった時点で、実質的に負けだったのかもしれない。

 もっとも、那賀さん自身は、そういうコメントはしなかった。

 勝ち負け自体にも、あまり執着していないみたいだった。

「じゃ、全体の感想をお願い」

 那賀さんは、ちょっと考えたあと、えへへ、と笑って、

「これはナイショにして欲しいんですけじょ、2日目の夜に女子会*したのが、一番楽しかったですじょ」

「女子会してたの?」

「伊代ちゃんたちと、野球の試合を観てましたじょ」

 うわぁ、すごいことになってそうだな。

「そういうのも記事にできるよ。ナイショじゃなくて、よくない?」

「みんなマジメに書いてないですかじょ?」

「別に縛りはないし、料理が美味しかったとか、将棋飯の話でも、なんでもいいよ」

 僕はそこまで言って、しまったな、と思った。

 だれか将棋飯の話があっても、よかった。

 残りのメンバー的に……うーん、いなさそう。

 困った僕をよそに、那賀さんは腕組みをしたあと、こう締めくくった。

「今回はいろんなひとと会えて、とても楽しかったですじょ。またどこかでお会いしたいですじょ。これがすみれの、すなおな感想ですじょ」

*469手目 恋バナ

https://ncode.syosetu.com/n2363cp/481


場所:第10回日日杯 2日目 女子の部 8回戦

先手:那賀 すみれ

後手:宇和島 伊代

戦型:角換わり腰掛け銀


▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲7七角 △同角成

▲同 銀 △2二銀 ▲3八銀 △3二金 ▲9六歩 △9四歩

▲3六歩 △6四歩 ▲6八玉 △6二銀 ▲2六歩 △7四歩

▲3七桂 △4二玉 ▲1六歩 △1四歩 ▲7八金 △3三銀

▲4六歩 △6三銀 ▲4七銀 △7三桂 ▲5六銀 △8一飛

▲4八金 △6二金 ▲2九飛 △4四歩 ▲6六歩 △5四銀

▲2五歩 △4一飛 ▲7九玉 △3一玉 ▲6八銀 △8五歩

▲7七銀 △2二玉 ▲6九飛 △8一飛 ▲8八玉 △4一飛

▲2九飛 △6五歩 ▲6九飛 △6六歩 ▲同 銀 △6五歩

▲7七銀 △8一飛 ▲6四歩 △9二香 ▲5九飛 △6六歩

▲2九飛 △8六歩 ▲同 銀 △6五銀 ▲同 銀 △同 桂

▲3八角 △6七銀 ▲6五角 △5四角 ▲同 角 △同 歩

▲5六銀 △同銀成 ▲同 歩 △6七銀 ▲5九桂 △7六銀成

▲7七銀打 △6七歩成 ▲同 桂 △8五歩 ▲同 銀 △6七成銀

▲同 金 △8五飛 ▲7六銀打 △8二飛 ▲6三歩成 △同 金

▲2四歩 △同 歩 ▲2五歩 △7五桂 ▲同 銀 △同 歩

▲4一角 △5二銀 ▲同角成 △同 飛 ▲2四歩 △2五歩

▲4一銀 △5一飛 ▲3二銀成 △同 玉 ▲2三金 △4三玉

▲3三金 △同 玉 ▲2五桂 △4三玉 ▲2三歩成 △9五歩

▲2二歩 △8五角 ▲7九桂 △7六銀 ▲同 銀 △同 歩

▲6六銀 △9六歩 ▲2一歩成 △6五歩 ▲3三と △5二玉

▲4二と △同 玉 ▲3三桂成 △同 玉 ▲2二飛成 △4三玉

▲4二銀 △9一飛 ▲3三龍 △5二玉 ▲7五桂 △9七歩成

▲同 香 △同香成 ▲7八玉 △8七成香 ▲6九玉 △7八銀

▲5九玉 △6二金 ▲6四歩 △7一桂 ▲6三歩成 △同 桂

▲同桂成 △同 金 ▲7五桂 △6二金 ▲6四歩 △7一桂

▲6三歩成 △同 桂 ▲同桂成 △同 金 ▲7五桂 △6二金

▲6三歩 △4三銀 ▲6二歩成 △同 玉 ▲6三金 △7一玉

▲4三龍 △6三角 ▲同桂成


まで171手で那賀の勝ち

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