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第十話
「食堂の裏メニューの噂?」
もうとっくに七月に入り、すぐそこに来た夏休みに学校全体が浮かれ始めていた日のこと。朝、登校してからいつものように保健室に来ていたあざみはひまにそう聞き返した。ひまは嬉しそうに頷いている。彼女曰く彼女たちがいつも使っている食堂にはメニューに書かれていない裏メニューがあるというのだ。食堂のメニューといえば日替わり定食にカレーライス、それから何種類かのうどん、カツ丼がある。
「そう! お姉ちゃんは何だと思う?」
「いや、いきなりすぎて分かんないし……萩とか知ってるんじゃないの? 私と違って友だち多いから」
「やっぱりか~~……じゃあお昼休みに萩姉に聞いてみようかな」
「深見! 友だちいないって言ったらやっぱりって言われたんだけど! お宅はどんな教育されてるんですかね?」
友人が少ないことは事実であるし、それを口にしたのはあざみだが、最初から〝やっぱり〟と言われると流石の彼女もムッとしてしまう。彼女が深見を責めると彼は困ったように笑いながら彼女の為のお茶を用意していた。そうは言っても冷蔵庫から冷えたお茶を取り出し、コップに注ぐだけだ。少し前までは熱い紅茶を淹れてくれていたが、すっかり夏に入り流石のあざみも熱い飲み物を飲まなくなった。それは深見も同じで、彼は冷蔵庫にアイスコーヒーを入れている。
「大体、もうそろそろ噂に巻き込まれるの嫌なんだけど」
「えぇ~~……? ひまはお姉ちゃんと噂を調べたいのになぁ……そっかぁ……」
「う……調べないとは言ってないし……」
ひまは目をうるませ、上目遣いであざみを見つめた。庇護欲をそそるその顔に、あざみは目を逸らしながらもついつい噂を調べることを了承してしまう。流石に食堂の裏メニューぐらいならば変な事にはならないだろう。深見から受け取ったよく冷えたお茶を飲みながら、あざみは裏メニューについて予想し始めたのだった。
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「裏メニュー? 聞いたことないよ、私」
「え~~? 萩姉も聞いたことないの? お友だち少なくないのに」
「ひま、私の朝の発言を擦るな」
昼休み、ひまは唐揚げを口に放り込みながら裏メニューについて萩に聞いた。フライドポテトとともに紙コップに詰められた揚げたての唐揚げは百円とリーズナブルで、生徒たちの人気メニューだ。昼休みが始まってすぐ買わなければ売り切れる為、チャイムと同時に走り出す生徒が多く〝唐揚げダッシュ〟という言葉が生まれるほどである。
友だちが少ない、と言ったあざみの朝の発言を未だに揶揄う彼女をあざみはギロリと睨んだ。紫苑はいつもどおり黙ってカレーライスを食べながら三人の会話を見ている。
「日替わり定食に、カレーでしょ、それからカツ丼と、うどん……あざみチャンは今日はカツ丼なんだ? カツ丼かきつねうどんだよね、絶対」
「まぁ……サクサクで美味しいから……」
「ひまはカレーが好きだな~~、シオン兄もだよね、今日も食べてるし」
「日替わりは苦手な物も出るからな」
苦手な野菜の多い偏食気味の紫苑はあまり食堂で注文することはない。量としては日替わり定食が望ましいが、日替わりの為何が出るかはその日にならなければ分からない。そして大抵彼の苦手な野菜は使われているので、普段は弁当を食べていた。今日のように弁当を持って来ていない時は、カレーを大盛で頼んでいる。
「もういっそ注文する時におばさんに聞けば?」
「も~~! お姉ちゃんってばロマンが無いな~~! ひまは! 皆と! 裏メニューを調べたいだけです~~!」
ひまは可愛らしく口を尖らせた。萩はそんな彼女の頭を撫でる。すると彼女は嬉しそうに萩に擦り寄った。




