03
剣と魔法の世界。異世界に迷い込んだあの日から度々見る夢だ。最初の頃は戸惑いもしたが今ではすっかり慣れたもので、今やこの身体の主のうるさい心の声も聞き流せるようになってきた。あざみはこの世界のことを『あっちの世界』と呼ぶようにしている。最初の夢で出てきた長い黒髪の男は滅多に見なくなった。代わりに今隣にいる淡い金髪のツインテールの女性がよく出てくる。今日はどうやら彼女に髪を結われていたようで、自分の姿が鏡に映っていた。自分の姿、というよりはこの身体の主の姿だ。初めて見たその顔は、声と同じでやはりどこかあざみに似ている。心の中では〝めかしこんだって変わらないのに〟と呆れた声を漏らしていた。あざみは自分が素直でないことも分かっているが、この人も大概だと思う。
この世界であざみにできることは無いので、ぼんやりと流れる景色を眺めていたらいつの間にかパーティー会場のような場所に居た。目の前に立つ金髪の男に、心の中がうるさくて仕方がない。分かった、目の前の男が好きなのは分かったから、黙ってほしい。この状態のあざみは耳を塞ぐこともできないのだ。確かにカッコいいと思う、紫苑のせいで面食いのあざみでもカッコいいと思える顔だし、実際あざみにとっても好みの顔ではある。ただ、この男の性格がいまいち分からないのだ。これまでの夢で見た限りだと、かなり感情に乏しそうである。一度この身体の主が〝美味しい〟という感情について彼に説明していた時は、流石に大丈夫なのかとあざみも呆れた。
左手の指先でチャリ、という音が鳴る。視界が胸元にかかる二本の指輪を捉えた。それはあざみが今日紫苑と萩に貰った指輪にそっくりで。視界がぐにゃりと歪み始め、夢の終わりを感じる。
「何で、同じ指輪」
目を覚ました暗い部屋の中、あざみは呟く。考えても無駄なことは分かっていた。『あっちの世界』は見えても干渉はできないのだから、誰に聞くことができるわけでもない。
あざみはゆっくりと横になる。目を閉じて眠る努力をするが、心臓は速く脈打っていた。深呼吸をしてどうにか落ち着こうとしても、混乱が入眠の邪魔をする。これは明日寝不足かもな、と思いながらあざみは仕方なく脳内で羊を数え始めたのだった。




