03
紫苑と萩の姿を見てあざみが走っていった先は図書視聴覚棟の裏だった。北館から渡り廊下で十字棟を抜けた更に先にその建物はある。一階は図書室、二階は視聴覚室になっているその建物は放課後は人も少なく閑散としている。あざみが今いる場所はその建物の裏であり、学校の敷地の端にあたる部分だった。フェンスで仕切られたその向かいには小さいながらも畑がある。ディスカウントストアやドーナツ屋がある側と違ってこちら側の道は人通りもほぼなくあざみが一人になりたい時はよくここに来ていた。
「紫苑と萩……二人でも仲が良いんだ」
あざみはそう呟いた自分の声がひどく落ち込んでいることに気がついた。この気持ちが一体何なのかは分かっていない。けれど、この三人の関係は自分によって成り立っているのだと、そんな傲慢な考えがあったのだ。今更気がついた自分勝手なその想いにあざみは辟易する。萩と友だちになったのはあざみで、紫苑と初めからいたのもあざみで。だからあざみが間にいることで三人の関係が成り立っていると思っていたのだ。
「ちょっと自己中すぎるな、私……反省しよう」
「いやぁ、分かるよ……何というか、寂しいって思っちゃうよね」
「さっきの……⁉」
「××ってば、全然見つけてくれないんだもん……気になって来てみたらめっちゃ落ち込んでるし」
誰も来ないと思っていたあざみは、突然隣に立って相槌を打ってきた相手に驚く。何も言っていないのに全てを理解しているような少女の言い草は、どう考えてもあざみの心を読んでいる。異世界であった女性といい、ひまといい、この少女といい、意外と心を読める人間は多いのだなとあざみは感心した。これまでは自分だけがおかしいのだと思っていたが、同じ能力を持つ人がこんなにも多いといっそ安心するものだ。
「自分の存在が要らなくなるって不安なんでしょ、××」
「そんなわけ……」
ほぼ初対面の少女に自分でも気がついてなかった心の内を当てられ、あざみは否定しようと顰め面をする。そんな彼女の皺の寄った眉間を少女は指先で押した。
「××が私に隠し事なんて無理無理。私が一番××のことを理解してるんだから」
「アンタ、何者なの」
「えぇ~~かくれんぼボイコットする人には教えられないなぁ~~?」
「それは悪かったけど……」
弱気なあざみの返しに少女は楽しそうに笑う。そんな彼女の態度が癪に障り、あざみは彼女に向けて手を伸ばした。この距離にいるのだから彼女を捕まえられるだろうと思い伸ばしたが、それより先に彼女が距離を置きその手は空を切る。
「……っ、アザミ」
「え、シオン⁉ 来ないでって言ったよな⁉」
「×××だ、元気?」
「アザミ、ソイツ誰だ」
「そういう乱暴な言葉遣い良くないよ……ま、×××もお年頃だしな」
少女を追いかけようとした矢先、突然後ろから肩を掴まれあざみはイヤホンを外し振り返る。そこにいたのは追いかけてこないでと頼んだ紫苑で、少女は嬉しそうに彼に話しかける。今度の聞こえない単語はきっと紫苑の名前なのだろう、とあざみは直感した。それにしてもせっかく萩と二人で何か話していたところを自分のせいで終わらせてしまったのだろう。紫苑が他人と積極的に関わることは珍しいのに、それを邪魔してしまったことが申し訳なくなりあざみは視線を地面に落とした。
どうして紫苑は自分の為に生きてくれないのだろうか。
「××、まだかくれんぼ終わってないよ」
「もう鬼ごっこになってると思うけど……?」
「どっちでも良いよ。行こ、ほら……またね、×××!」
「ちょっと! いきなり走るのズルいって!」
紫苑が呆気に取られている間に少女とあざみは走り出す。あっという間に見えなくなった二人の姿に紫苑は仕方なく再び走り始めたのだった。




