図書館の発見と、遠い家族への想い
翌朝、目を覚ました百合が身支度を整えて部屋を出ると、エレノア夫人が穏やかな笑顔で迎えてくれた。
「百合様、よく眠れましたか? 今日からさっそくこの国のことを学んでいきましょうね。……あの子たちは、騎士団の職務で朝から王宮へ向かいましたの」
「ギルバートさんとジェイドさん、朝早くからお仕事なんですね。本当に頭が下がります」
朝食を終えると、夫人は執事に屋敷の広大な図書館へ案内させた。
天井まで届く本棚から一冊の革装丁の本を抜き取り、おずおずと開いてみる。
(……あ、読める……!)
不思議なことに、異世界の文字が自然と意味を持って頭に飛び込んできた。言葉が理解できる喜びに瞳を輝かせた百合は、夢中になって歴史書や地図のページをめくり、夕方まで熱心に勉強を続けた。
——そして夕方。
仕事から戻ったギルバートとジェイドは、開いたドアの隙間からそっと図書館の中を覗き込んだ。
実は二人には、この国の我がままな女性たちに嫌気がさしたことで極度の「女性嫌い」になった過去があった。百合に惹かれつつも「壊してしまわないか」「どう接していいか分からない」と不器用になり、影からじっと見守ることしかできずにいたのだ。
気配に気づいた百合が「お仕事お疲れ様です!」と弾ける笑顔を向けると、190センチを超える大男ふたりは耳まで真っ赤にして固まってしまう。
その後、ヴァルハイト侯爵夫妻、ギルバート、ジェイド、そして百合の5人で賑やかに夕食のテーブルを囲んだ。今日覚えた知識を楽しそうに話す百合を、騎士兄弟は宝物を見るような優しい眼差しで見つめていた。
◇
あたたかな夕食を終え、一人あてがわれた豪華な部屋に戻った百合は、天蓋付きのベッドのふちにぽつんと腰を下ろした。
静まり返った部屋。豪華な家具。窓から差す異世界の月光。
昼間の賑やかさが嘘のように引いていくと、胸の奥から急激に寂しさがこみ上げてきた。
(……みんな、今頃どうしてるのかな)
頭に浮かぶのは、元の世界に残してきた大好きな家族の姿だった。
厳しくも温かく家族を守ってくれた警察官の父親。
いつも明るくて、美味しいご飯をたくさん作ってくれた母親。
元気いっぱいで身体を動かすのが大好きな、フィットネスインストラクターの姉。
そして、高校1年生になったばかりで、何かと甘えてきてくれた可愛い妹。
自分が急にいなくなって、どれほど心配しているだろう。ご飯はちゃんと食べているだろうか。
「……お父さん、お母さん……お姉ちゃん……」
家族の顔を思い浮かべるたび、視界が涙で揺れた。
ヴァルハイト家の人々は誰もが優しく、温かく迎えてくれた。それでも、ふとした瞬間に襲いかかる「元の世界へはもう戻れないのかもしれない」という不安と切なさが、小さな胸を押し潰しそうになる。
百合は膝を抱え込み、声を殺してそっと涙をこぼすのだった。




