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図書館の発見と、遠い家族への想い

翌朝、目を覚ました百合が身支度を整えて部屋を出ると、エレノア夫人が穏やかな笑顔で迎えてくれた。


「百合様、よく眠れましたか? 今日からさっそくこの国のことを学んでいきましょうね。……あの子たちは、騎士団の職務で朝から王宮へ向かいましたの」


「ギルバートさんとジェイドさん、朝早くからお仕事なんですね。本当に頭が下がります」


朝食を終えると、夫人は執事に屋敷の広大な図書館へ案内させた。


天井まで届く本棚から一冊の革装丁の本を抜き取り、おずおずと開いてみる。


(……あ、読める……!)


不思議なことに、異世界の文字が自然と意味を持って頭に飛び込んできた。言葉が理解できる喜びに瞳を輝かせた百合は、夢中になって歴史書や地図のページをめくり、夕方まで熱心に勉強を続けた。


——そして夕方。

仕事から戻ったギルバートとジェイドは、開いたドアの隙間からそっと図書館の中を覗き込んだ。


実は二人には、この国の我がままな女性たちに嫌気がさしたことで極度の「女性嫌い」になった過去があった。百合に惹かれつつも「壊してしまわないか」「どう接していいか分からない」と不器用になり、影からじっと見守ることしかできずにいたのだ。


気配に気づいた百合が「お仕事お疲れ様です!」と弾ける笑顔を向けると、190センチを超える大男ふたりは耳まで真っ赤にして固まってしまう。


その後、ヴァルハイト侯爵夫妻、ギルバート、ジェイド、そして百合の5人で賑やかに夕食のテーブルを囲んだ。今日覚えた知識を楽しそうに話す百合を、騎士兄弟は宝物を見るような優しい眼差しで見つめていた。



あたたかな夕食を終え、一人あてがわれた豪華な部屋に戻った百合は、天蓋付きのベッドのふちにぽつんと腰を下ろした。


静まり返った部屋。豪華な家具。窓から差す異世界の月光。

昼間の賑やかさが嘘のように引いていくと、胸の奥から急激に寂しさがこみ上げてきた。


(……みんな、今頃どうしてるのかな)


頭に浮かぶのは、元の世界に残してきた大好きな家族の姿だった。


厳しくも温かく家族を守ってくれた警察官の父親。

いつも明るくて、美味しいご飯をたくさん作ってくれた母親。

元気いっぱいで身体を動かすのが大好きな、フィットネスインストラクターの姉。

そして、高校1年生になったばかりで、何かと甘えてきてくれた可愛い妹。


自分が急にいなくなって、どれほど心配しているだろう。ご飯はちゃんと食べているだろうか。


「……お父さん、お母さん……お姉ちゃん……」


家族の顔を思い浮かべるたび、視界が涙で揺れた。

ヴァルハイト家の人々は誰もが優しく、温かく迎えてくれた。それでも、ふとした瞬間に襲いかかる「元の世界へはもう戻れないのかもしれない」という不安と切なさが、小さな胸を押し潰しそうになる。


百合は膝を抱え込み、声を殺してそっと涙をこぼすのだった。

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