8人の自己紹介と、運命のくじ引き
「では、互いを良く知るためにも、まずは自己紹介とまいろうか」
国王ヴェルナーの打診に、百合たちは深く頷いた。緊張した面持ちのまま、まずは最年長の美咲が前に出る。
「綾瀬美咲と申します。20歳です。日本では髪のセットやメイクの仕事をしておりました。この国の美容や装飾について学ばせていただけたら嬉しいです」
洗練された美しさと落ち着いた挨拶に、貴族たちは感嘆の息を漏らす。続いて葵が静かに一歩を踏み出した。
「一ノ瀬葵です。美咲さんと同じ20歳で、日本では洋服のデザインや裁縫の仕事をしていました。こちらの素晴らしい生地やドレスの仕立てを勉強したいと思っています」
「朝比奈凛、16歳です! 陸上部で走るのが大好きでした。体力と元気だけはあるので、なんでも言ってください!」
弾けるような凛の笑顔に、大広間の雰囲気が一層やわらぐ。そして最後に、百合がまっすぐな瞳で頭を下げた。
「橘百合です。18歳です。趣味は料理と簡単な筋トレです。警察官の父を見て育ったので、身体を鍛えている頼もしいマッチョな人が好きです」
「……っ!?」
大広間にいた男たちの肩が、一斉に跳ね上がった。
(ま、マッチョ……!?)
騎士団長ギルバートも、副団長ジェイドも、第2王子レオンハルトも、さらには居並ぶ貴族たちまでもが心の中で激しく首をかしげた。
異世界の言葉と思われる「マッチョ」という謎の響き。しかし、「身体を鍛えている」「頼もしい」という文脈から推察するに、おそらく自分たちのような鍛え上げられた男たちのことを指しているのではないか——。
誰もその意味を直接問い詰めることはしなかったが、胸の中で期待と動悸を激しく高鳴らせていた。
続いて、出迎える側の4大貴族の当主たちが順番に名乗りを上げた。
「ヴァルハイト侯爵である。我が家には無骨な騎士の息子が二人おる。安全と警備に関してはどこよりも保証しよう」
「ルークス侯爵だ。我が家は宮廷芸術や美しい装飾品を多く扱っている。美容や髪飾りに興味がある方には最高の環境を提供できる」
「クラリス侯爵です。我が家は国一番の高品質な生地と素晴らしい仕立て屋を抱えております。服飾を学ぶには最適でしょう」
「シルフィード侯爵だ。広大な敷地と馬場がある。体を動かすのが好きな方には伸び伸びと過ごしていただけるはずだ」
8人の自己紹介が終わると、大広間の空気が一変した。
「我がままな女性が来る」と怯えていたはずの貴族たちが、全員のあまりの慎み深さと魅力に度肝を抜かれ、一転して目の色を変えたのだ。
「陛下! ぜひ美咲様を我がルークス家へ!」
「何を言う、葵様のお力は我がクラリス家でこそ活きる!」
「百合様と凛様も我が家でお預かりしたい!」
「静まらんか!!」
大争奪戦へと発展した大広間に、国王の一喝が響き渡った。
「これでは埒が明かん。……公平にくじ引きで決める!」
こうして急遽用意されたくじ引きにより、運命の受け入れ先が決定した。
美容に詳しい美咲はルークス侯爵家へ、服飾に詳しい葵はクラリス侯爵家へ、元気いっぱいの凛は広大な敷地を持つシルフィード侯爵家へ。
そして——百合のくじを引き当てたのは、ヴァルハイト侯爵だった。
「……百合様。我がヴァルハイト侯爵邸へ、ようこそお越しくださいました」
ギルバートとジェイド兄弟が百合の前に進み出で、自分たちがまマッチョ」に該当するのだと誇るように、そして壊れ物を扱うように優しく片膝をつく。頻繁に訪問できる口実を得たレオンハルト王子もまた、満足げに目を細めていた。
異世界の乙女たちと、彼女たちに心を奪われた男たちの、1ヶ月間の特別な居候生活がこうして幕を開けたのだった。




