平民街の散策と東の国の秘宝
ついに念願の平民街へ繰り出す日がやってきた。離宮の前に用意された立派な馬車の脇には、凛々しく馬に跨る二人の騎士の姿があった。
「皆様、お待たせいたしました。本日の護衛を務めます、ヴァルハイト侯爵家次男のジェイドと……」
「ルークス侯爵家護衛のフェリクスにございます。本日は皆様の馬車に並走して護衛いたします。どうぞよろしくお願いいたします」
「ジェイド様、フェリクス様! よろしくお願いします!」
百合たち4人はワクワクと胸を躍らせながら馬車に乗り込んだ。
馬車に揺られることしばらく、活気あふれる平民街へと足を踏み入れると、4人はパッと目を輝かせた。
「わぁ……! なんか日本の商店街の風景になんとなく似ているわね!」
「うん、これなら期待できそう! 掘り出し物が見つかるかも!」
馬を降りたジェイドとフェリクスが周囲の安全を警戒しながら、4人の歩調に合わせて一緒に歩き出す。すると、ジェイドが爽やかな笑みを浮かべて百合に話しかけた。
「百合様。事前に、ご希望されていた珍しい食材や調味料を扱う店を調べておきました。よろしければご案内いたします」
「まあ……! ジェイド様、ありがとうございます!」
ジェイドのエスコートのもと、辿り着いたお店の看板には『扶桑堂』と刻まれていた。
「わ~、ここね! 確かになんとなく変わったものが置いてありそう……!」
期待に胸を膨らませて店内に入ると、珍しい品々が所狭しと陳列されていた。奥から出てきた店主が恭しく頭を下げる。
「いらっしゃいませ。わたくしは扶桑堂の店主で、左近と申します」
「左近様……? あの、どちらのご出身なのですか?」
「私はここから遥か遠く、東の国『扶桑国』の出身でございます」
「東の国……! あの、左近様。こちらに『味噌』や『醤油』、それと『お米』はありますか?」
いきなりの質問に、店主のさこんは首をひねった。
「ミソ? ショウユ? コメ……? いやあ、聞いたことがない名前ですな。どのようなものですか?」
「ええと……味噌はしょっぱくてペースト状で、醤油もしょっぱい液体で……お米は白くて小さい粒々で……!」
「う~む、それだけでは少々わかりかねますな……」
思わず焦る百合に、美咲がくすりと笑って肩を叩いた。
「百合ちゃん、言葉だけじゃ伝わりにくいわよ。とりあえず調味料コーナーを見せてもらいましょう!」
店主の案内で調味料が並ぶ棚へ向かい、じっくりと物色を始める。すると、棚の奥を見ていた凛が声を上げた。
「百合さん! この容器に入っているもの、なんだか似ていませんか?」
「えっ!? 本当……! あの、左近様、匂いと味を少しだけ確かめさせてもらってもいいですか?」
「ええ、構いませんよ」
小瓶の蓋を開けて香りを嗅ぎ、指先に少しつけて味を見てみる。その瞬間、百合の目が大きく見開かれた。
「み、味噌と醤油だわ……!!」
「あ~、そちらですか! それは我が国から取り寄せた『ブラウンバーム』と『黒の雫』、そしてそちらの白い粒は『ライスグレイン』と呼んでいるものです。ただ、この国の方の口には合わないようで、あまり使う人がいないのですよ」
「これが欲しかったんです……! あ、あの、他に『小豆』はありませんか? 赤くて小さい豆なのですが……」
「はて、赤い豆ですとこちらになりますが……」
店主が差し出した袋を見ると、そこには間違いなく見慣れたあの赤い小豆が入っていた。
「あ!! これです! これがあれば『あんこ』が作れるわ……!」
「こちらは『ヒノ・ビーン』という名ですな」
その後もじっくり店内を探すと、なんとソース、マヨネーズ、お酢に似た調味料まで次々と発見された。
百合さんこれ海苔じゃないですか?あー海苔だ!これでおにぎりが作れる!!
「はぁ~! もう、今見たもの全部欲しいくらい……っ!」
大興奮の百合だったが、ここでハッと我に返った。
(そういえば私……この世界のお金を持っていないわ! どうしよう……!)
冷や汗をかく百合の様子に気づいたのか、後ろに控えていたジェイドがそっと寄り添い、優しく耳元で囁いた。
「百合様。もしお金の心配をなさっているのでしたら、ご安心ください。レオンハルト殿下より、本日のお買い物の代金を十分にお預かりしております。皆様、どうぞお気になさらず、お好きなものをお買い上げください」
「ジェイド様……! レオンハルト殿下も……! ふふ、助かりました~!」
お金の心配も無事に解消され、百合たちは大満足で両手いっぱいの「日本の味」を手に入れるのだった。




