サプライズのパートナーと平民街への企み
翌朝、離宮のホールには軽快な音楽が響き渡っていた。ベンジャミン先生によるダンスレッスンが始まる直前、扉が静かに開き、背筋をすっと伸ばした凛々しい男たちが足を踏み入れる。
「皆さん、おはようございます。約束通り、本日のレッスンからお付き合いいただくパートナーをお連れしましたよ」
先頭に立っていたのは、晴れやかな笑みを浮かべた第2王子レオンハルト。その背後にはジュリアン、クラリス侯爵家長男のレオン、そしてシルフィード家長男の騎士レオニダスが控えている。
「えっ……!? 殿下、どうして皆様が……?」
百合が目を丸くすると、ベンジャミン先生が微笑みながら髭をなでた。
「ふむ、殿下から『お披露目の夜会でファーストダンスを踊る可能性がある者たちが手ほどきをするのが最も理にかなっている』とお申し出をいただきましてね。これ以上のパートナーはおりません」
驚く4人を前に、レオンハルトは百合の前へと進み出ると、優雅に手を差し伸べた。
「百合殿、私と踊っていただけますか?」
「あ、はい……! よろしくお願いいたします、レオンハルト殿下」
それぞれパートナーが決まり、位置につく。音楽が鳴り響くと、本格的なペアレッスンが始まった。
「百合殿、基本のステップが実に素晴らしい。とても滑らかですよ」
「ありがとうございます。殿下がリードしてくださるので、とても踊りやすいです……っ」
間近で見つめられる金色の瞳と、耳元で囁かれる甘い声に、百合は胸が大きく跳ねるのを感じていた。
一方、美咲とジュリアンも軽やかにステップを踏んでいた。
「美咲、実に素晴らしい身のこなしだ。昨日話していた自然派コスメの件だが、さっそく調合室の準備を始めさせたよ」
「本当ですか!? ジュリアン様、仕事が早いです……っ、あ、すみません、ステップが……!」
「ふふ、大丈夫。私がしっかり支えますから、身を委ねてください」
ジュリアンに腰をしっかりと引き寄せられ、美咲は顔を真っ赤にする。
葵とレオンのペアも、どこか甘い空気に包まれていた。
「葵殿、下着の件……女性の体を美しく見せるための情熱、実に素晴らしい」
「レオン様……っ、あのようなものを見せてしまって、驚かせましたよね」
「いいえ、葵殿の描く未来に感銘を受けました。ですが……あまり他の男にあのイラストを見せないでいただきたいものですね」
耳元で低く囁かれ、葵はドギマギしてステップを乱してしまう。
そして凛とレオニダスは、騎士らしい規律正しさと若々しさの溢れるダンスを見せていた。
「凛、素晴らしい体幹だね。軸が全くブレていない」
「えへへ、陸上部で鍛えた筋肉が役立ちました! レオニダス様のエスコートがすごく力強くて安心します!」
「そう言っていただけると光栄です。……それにしても、凛とこうして手を取れる日が来るとは」
少し耳を赤くして視線を逸らすレオニダスに、凛は元気に笑いかけた。
◇
一通りのレッスンが終わり、汗を拭いながら休憩に入ったところで、ベンジャミン先生が満足そうに告げる。
「素晴らしい初回でしたな。なお、次回のレッスンではパートナーを交代いたします。百合様にはギルバート様、美咲様にはフェリクス様、葵様にはルーク様、凛様にはガブリエル様に務めていただきますので、そのおつもりで」
その言葉に、4人は「よろしくお願いします!」と期待に胸を膨らませた。
休憩の合間、百合はレオンハルトの元へと歩み寄る。
「あの……レオンハルト殿下。少しお願いがあるのですが……」
「おや、百合殿。私に頼み事かい? 何なりと言ってほしい」
「実は……今度、私たち4人で城下の『平民街』へ行ってみたいのです」
「平民街に……?」
レオンハルトは驚いて眉をひそめた。
「はい! 宮廷料理長から、平民街の珍しいお店なら私たちの探している食材や調味料があるかもしれないとお聞きしまして。それに……普段着られるような、動きやすいお洋服も探してみたいんです」
百合が上目遣いで真剣にお願いすると、後ろに控えていた美咲、葵、凛も「お願いします!」と期待の込もった視線を送る。
レオンハルトは少し困ったように顎に手を当てたが、百合の真摯な瞳に抗えるはずもなく、ふっと優しい笑みをこぼした。
「ふふ、可愛いお願いだね。いいでしょう、許可します。……ただし、大切な君たちを危険に晒すわけにはいかない。護衛を厳重につけさせてもらうよ?」
「本当ですか!? ありがとうございます、殿下!」
4人はパッと表情を輝かせ、顔を見合わせて喜び合った。念願の平民街散策へ向け、期待が高まるのだった。




