クラリス侯爵邸での開戦!
翌日、葵は緊張と高揚感を胸に、クラリス侯爵邸を訪れていた。
立派な門をくぐり、邸宅のエントランスに足を踏み入れると、そこにはすでに三人の男性が出迎えていた。
「ようこそおいでくださいました、葵殿」
穏やかな笑みを浮かべて深く礼をとったのは、長男のレオン。その隣では次男のルークが親しみやすい笑顔を向け、職人のバルトが力強い眼差しで迎えてくれる。
「皆さん、お久しぶりです! 本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます」
「いやいや、葵殿のお越しとあればいつでも大歓迎ですよ。……それで、本日は新たな服飾事業のご相談とお聞きしておりますが」
案内された応接室で、温かい紅茶が運ばれると、葵は姿勢を正して本題を切り出した。
「はい! 実は今日、みなさんにご相談したいのは『ランジェリー』の制作についてなんです」
「ランジェリー……ですか?」
聞き慣れない言葉に、首をかしげるレオン。ルークとバルトも不思議そうな表情を浮かべている。
「ふふ、簡単に言うと女性用の下着のことなのですが……ただの下着ではありません。とっても『女性らしさ』を際立たせる特別な下着なんです」
「女性らしさ……?」
「ええ。上質なレースや素材を使って、女性の体をより美しく見せるための下着です。言葉で説明するより見ていただいた方が早いですね! イラストで描いてきたのでお見せします」
葵は鞄から一枚の用紙を取り出した。それは昨日、絵が得意な凛にお願いして描いてもらった繊細で華やかなデザイン画だった。
葵がテーブルの上にすっと広げたイラスト。
そこに描かれていたのは、繊細なレース刺繍が施された美しく洗練されたブラジャーと、それとお揃いのデザインのショーツだった。胸元を綺麗に見せる立体的なカップ、可憐なリボン、そして女性のボディラインを引き立てるシルエット――。
それを目にした瞬間、三人の動きがぴたりと止まった。
「っ……!? こ、これは……っ!?」
最初に反応したのはルークだった。みるみるうちに耳の先まで真っ赤になり、慌てて視線を泳がせる。
冷静沈着なレオンも、一瞬固まったのち、ハンカチで口元を覆いながら頬を朱に染めた。バルトに至っては、驚きのあまり目を見開いたまま固まっている。
この国の下着といえば、布を巻きつけるような素朴なものか、コルセットのように極端に締め付ける補正具が主流だった。これほどまでに華やかで、かつボディラインを意識した美しく刺激的な下着など、見たことも聞いたこともなかったのだ。
「あ、葵殿……! こ、このようなものが、葵殿のいた元の世界では当たり前だったのですか……!?」
レオンが絞り出すような声で尋ねる。葵はいたって平然とした様子で、にっこりと頷いた。
「そうですよ? もっと刺激的なのもたくさんありましたよ。この上下でお揃いのブラとショーツなんて、向こうでは当たり前でしたよ」
「「「っ!!!?」」」
その言葉を聞いた瞬間、男性陣三人は驚きと衝撃のあまり完全に固まった。
(このような……このような艶やかなものを、日常的に……!?)
脳内で想像が膨らんでしまったのか、三人の顔はさらに赤くなり、もはや茹で上がったタコ状態である。
「……コホン! で、ですが葵殿、なぜ急にこのような下着を……?」
どうにか冷静さを取り戻したルークが尋ねると、葵の瞳にプロの服飾デザイナーとしての強い光が宿った。
「実は、この国のブラジャーには不満だらけなんです! サイズも合わないし、カップがないので垂れそうだし、デザインもおしゃれじゃない……! 百合ちゃんも、美咲さんも、凛ちゃんからも『早急にブラジャーを作って!』と言われていますので」「垂れそう。。。」
葵は三人の目を真っ直ぐに見つめ、力強く宣言した。
「だから私、最初にこの『お揃いのブラとショーツ』の制作をしたいんです。女性が毎日を快適に、そして自信を持って笑顔で過ごせるような下着を、この世界に作りたいんです。皆さん、ご協力お願いできますか?」
熱意溢れる葵の眼差しとプロとしての真っ直ぐな想いに触れ、三人の照れくささは吹き飛んだ。
レオンは表情を引き締め、力強く頷いた。
「葵殿の情熱、そしてその素晴らしい着眼点……感服いたしました。我がクラリス家が誇る裁縫職人と生地のネットワークを全開にして、全面的にサポートいたしましょう!」
「僕も手伝います、葵さん! 女性の悩みを解決する新しい事業、絶対に成功させましょう!」
「俺もだ! 型の制作や素材の選定、職人として最高の技術を注ぎ込むぜ!」
「皆さん……! ありがとうございます!」
照れと動揺を乗り越え、強力な味方を得た葵。異世界に新たな風を吹き込む「ランジェリー革命」が、クラリス侯爵邸からいよいよ幕を開けるのだった。




