客間の夜と、4人の誓い
「……子供を産むためだけに、私たちを呼んだのですか?」
静まり返った大広間に、百合の毅然とした声が響き渡った。
「見知らぬ世界に突然連れてこられて、はいそうですかと複数の男性と関係を持つなんて……絶対にできません。私たちは子供を産む道具ではありません!」
百合の言葉に続き、美咲も、葵も、凛も強く頷き、国王をまっすぐに見据えた。
160センチ以下の小柄な少女たち。しかしその瞳に宿る誇り高き拒絶の意志に、玉座の国王ヴェルナーだけでなく、居並ぶ貴族たちも息を呑み、場が凍りついた。
「無礼だぞ! 神託の乙女とはいえ、王に向かってなんたる物言い——」
側近の臣下が声を荒らげかけた、その時。
「控えよ」
低く重厚な声が響いた。立ち上がったのは、騎士団長ギルバートだ。190センチの圧倒的な体躯で臣下を威圧すると、まっすぐに百合たちへと向き直り、深く頭を下げた。
「……申し訳ございませんでした。心からお詫び申し上げます。あなた方の尊厳を無視した言いよう、恥じ入るばかりです」
「ギルバート……?」
驚く国王に対し、第2王子レオンハルトも一歩前に出ると、膝をついて百合たちに語りかけた。
「彼女たちの言う通りです、父上。無理強いなど断じて許されません。命を救っていただくために来ていただいた方々に、心傷つく思いをさせてしまったのは我々の不徳の致すところ。我が国の法律(最低3人以上の夫)を押し付けるなど、到底受け入れられるはずもありません」
大柄な男たちが、自分たちの立場やプライベートな尊厳を本気で守ろうとしてくれている。その真摯な姿に、百合は胸の奥が少し熱くなるのを感じた。
「しかし……では乙女たちの生活はどうするのだ? 住まう場所も与えずに放置するわけにはいかん」
国王が苦汁をなめる思いで呟くと、レオンハルトが提案した。
「王宮の敷地奥にある『離宮』を彼女たちに提供させてください。そこであれば警備も行き届き、生活に必要なものはすべて用意できます。我々も決して無理に近づきません。4人が自分たちの意思で心を休められる場所として使っていただきましょう」
「離宮を彼女たちが快適に過ごせるよう大改修させる。だが、工事には少なくとも一ヶ月はかかろう。その間の住まいと、この国の言葉や歴史、生活様式を学ぶ場を用意せねばならん。……まずは長旅の疲れを癒やすがいい。本日は宮殿の客間にてゆっくりと休むように」
国王の配慮により、その日は話し合いを終え、4人は王宮内でも特に豪華な客間へと案内された。
パタンと重厚な扉が閉まり、召使いや騎士たちが退出すえると、4人はドッとその場にへたり込んだ。
「はぁ~~……!! 緊張して心臓が止まるかと思った……!」
凛がふかふかの巨大なソファに倒れ込む。
「本当に……でも百合ちゃん、よくあんなにハッキリ言ってくれたわね。すごく格好よかったわ」
美咲が胸に手を当てて深く息を吐き、百合に感謝の笑みを向けた。
「ううん、みんなが後ろにいてくれたから……。でも、見てよこの部屋。天井は信じられないくらい高いし、飾ってある絵画も調度品も、本物の金や宝石ばかり……」
葵が目を丸くしながら部屋を見回す。広大で絢爛豪華な部屋には、天蓋付きの巨大なベッドや贅を尽くした調度品が並び、自分たちが本当に異世界に来てしまったのだと嫌でも実感させられた。
「子供を産むためだけに作られた世界なんて、やっぱり納得いかないよ。いくら豪華な部屋に住まわされても、人形みたいに生きていくなんて絶対嫌」
百合が拳をギュッと握りしめると、3人も力強く頷いた。
「うん。まずは一ヶ月、ここで言葉やマナーをしっかり勉強しよう。相手をちゃんと知った上で、自分たちの意思でどう生きるか決めなきゃね」
「そうね。同じ日本の仲間として、4人で助け合っていこう!」
見知らぬ世界の豪華すぎる客室で、4人は固く手を握り合い、明日からの生活に向けて気持ちを一つにするのだった。




