揺れる馬車と、王宮からの要求
「……女神様方、どうかお身体をお厭いください。我が国の王宮まで、この馬車でお送りいたします」
騎士団長ギルバートの低くも柔らかな声とともに、4人はあまりに豪華で巨大な装飾馬車へと案内された。
180センチを超える大男たちが、まるで壊れ物を扱うかのように指先一つまで神経を尖らせ、恭しく手を差し伸べてエスコートしてくる。その身体から漂う圧力と騎士としての威厳に圧されながらも、4人は互いに身を寄せ合うようにして馬車へと乗り込んだ。
パタン、と重厚な扉が閉じられ、馬車が滑らかに動き出す。
高級な絨毯とフカフカのシートに包まれた車内で、ようやく周囲の目を離れた4人は、深々と息を吐き出した。
「……みんな、大丈夫? 怪我とかはない……?」
百合が緊張の糸を少しだけ緩め、静かな声で問いかけた。
「うん、怪我はないけど……正直、頭が追いつかないわ。さっきまで仕事の現場にいたのに、気づいたらあの森だったの」
黒髪ロングの女性が胸に手を当て、小さく息を漏らす。
「私も……お店で服のチェックをしていたはずなのに。本当に、別の世界に来ちゃったのかな……。あ、私、一ノ瀬葵って言います。20歳で、ファッション関係の仕事をしています」
「私は綾瀬美咲、20歳よ。普段はヘアメイクの仕事をしてるの。急にこんなことになって驚いたでしょうけど、よろしくね」
美咲が年長者らしい優しい笑みを浮かべ、隣の小柄な少女に目を向けた。
「私、朝比奈凛です! 16歳の高校2年生で、部活で陸上をやってます。もう何がなんだか分かんないけど、みんな怪我がなくてよかった……!」
「私は橘百合です。高校3年生の18歳。趣味は料理と、ちょっと筋トレを……」
揺れる馬車の中で、お互いの名前と年齢、そしてほんの少しの自己紹介を交わす。
見知らぬ場所に突然放り出された恐怖の中、同じ日本から来た者同士というだけで、4人の間には自然と強い絆と連帯感が芽生え始めていた。
「あの男の人たち、みんなすごく背が大きくて鎧を着てたわね……」
「そうですね……。でも、私たちを乱暴に扱う気はなさそうでした」
「というか……あの金髪の王子様みたいな人たち、百合ちゃんのこと見つめすぎじゃなかった? なんだか凄く驚いてたみたいだけど……」
凛の言葉に、百合は照れくさそうに首を傾げた。
確かに、彼らが自分を見た瞬間の「息を呑んだような顔」は強く印象に残っている。
「なんだか……警察官のお父さんを思い出すような、すごくガタイが良くて頼もしそうな人たちだったけど……これからどこへ連れて行かれるんだろう」
不安と期待が交錯する中、馬車は広大な王宮の敷地へと入っていった。
通されたのは、天井が高く豪奢な装飾が施された王宮の大広間。
玉座には深い疲労と威厳を漂わせる国王ヴェルナーが鎮座し、その脇をレオンハルト王子、そしてギルバート団長たちがガッチリと固めている。
「ようこそ、異世界より降臨されし尊き乙女たちよ。私はこのアルザール王国の国王、ヴェルナーである」
国王は重々しい声で語り始めた。
この世界では女児がほとんど生まれず、国が滅びの危機に瀕していること。
そして、この世界を救うために神託によって4人が召喚されたこと。
真剣な面持ちで話を聞いていた百合たちだったが、国王の口から放たれた続く言葉に、大広間の空気が凍りついた。
「我が国の存続のため、あなた方にはこの国の優れた男たちと結ばれ、子を成していただきたい。この国は一妻多夫制——一人の女性に対し、最低でも3人以上の夫がつき、生涯をかけてあなた方を奉り、愛することを誓おう」
(……え?)
百合の思考が一瞬止まった。
隣に立つ美咲、葵、凛の顔から一激で血の気が引いていくのが分かった。
子どもを産むためだけに召喚された。
そして、見知らぬ複数の男性と身体の関係を持ち、妻になれと言われている。
静まり返る大広間の中で、百合たちの瞳に、困惑から明確な「拒絶」の光が宿り始めていた。




