光の森と教本の女神
「……っ、ここ、どこ……!?」
真っ先に声を上げた百合の横で、残る3人の女性たちもそれぞれ身を起こし、青ざめた顔で周囲を見回した。
「嘘でしょう……? さっきまで日本にいたはずなのに……っ!」
取り乱しそうになる声を抑えながら、髪をかき上げたのは黒髪ロングの女性(美咲・20歳)だ。戸惑いと恐怖に震えながらも、年長者としてとっさに周りの若い女の子たちを気遣うように身を寄せる。
「夢……じゃないですよね。周り、見たこともない大きな木ばかりで……」
肩にかかる黒髪セミロングの女性(葵・20歳)も、自分の袖をキュッと握りしめて小さく震えている。
「お姉さんたちも、わけ分かんない場所に飛ばされた感じ!? 私、高校生の凛って言います! みんなどうなってるの!?」
一番年下のショートヘアの少女(凛・16歳)が、パニックを吹き飛ばすように元気な声を張り上げた。
「私、高3の百合です! みんな怪我はない……!? 私にも何がなんだか……っ、何か来る……!」
初対面のお互いに名前すらまともに名乗り終えていない状況の中、百合が警戒の声を上げる。見知らぬ者同士の4人だったが、未知の恐怖に直面し、自然と身を寄せ合って肩を並べた。
木々の間から姿を現したのは、銀光の甲冑を纏った男たちだった。
先頭に立つのは、知的で凛々しい面立ちの第2王子・レオンハルト。その脇を固めるのは、190センチを超える圧倒的な威厳を放つ騎士団長・ギルバートと、鋭い眼光を持つ副団長・ジェイド。
(……デカいっ!?)
百合は思わず息を呑んだ。
警察官の父親をはじめ、体格のいい男性には見慣れていた百合だったが、目の前に現れた男たちは全員が180センチを優に超えるイケメンマッチョ。鍛え上げられた胸板と威圧感は段違いだった。
しかし、真の衝撃を受けたのは騎士たちの方だった。
「な……ッ!?」
ギルバートの足がピタリと止まる。レオンハルトも、ジェイドも、息を吸うことすら忘れたように目を見開いて固まっていた。
少女たちの中心に立つ、黒髪黒目の少女——百合。
豊かな黒髪、パッチリとした二重、引き締まったウエストと豊満な胸元。
(ば、バカな……ッ!?)
レオンハルトの頭の中で、雷が落ちたような衝撃が走る。
15歳になった夜、穴が開くほど見つめ、男子ならば誰しもが憧れを抱く『教本』。そこに描かれていた「架空の理想の女性像」、愛の女神——その姿が、いま目の前に寸分たがわず存在しているのだ。
「教本の……『女神ユーリー様』……そのままじゃないか……」
ジェイドが震える声で呟いた。
この世界の女性は、身長170センチ前後に一重つり目、スレンダーな体型が当たり前だ。しかし目の前にいるのは、現実には絶対にあり得ないはずの、神話の造形そのものの美少女。
「あ、あの……あなたたちは……?」
百合が不安そうに、しかし毅然とした声で問いかけた。
その声にハッと我に返ったレオンハルトは、一歩前に出ると、一切の躊躇なくその場に片膝をついた。それに続き、ギルバートもジェイドも、配下の騎士たち全員が一斉に膝をつき、深く頭を垂れる。
「恐れ多くも神託の乙女たちよ。無礼をお許しください。私はこの国、アルザール王国の第2王子・レオンハルトと申します。我が国をお救いくださるため、神のお導きによりお越しいただいたこと、心より感謝申し上げます」
大柄な男たちが、壊れものを扱うような極上の敬意を払って自分たちを仰ぎ見ている。
その紳士的な態度と、甲冑越しにも伝わる引き締まった筋肉に、百合の胸がどきりと跳ねた。
(すごい……めちゃくちゃイケメンで、頼もしそうなマッチョの人たち……)
理想の男性像にドンピシャな男たちを前に、百合はうっすらと頬を染める。
レオンハルトは意を決したように、まっすぐに百合を見つめて尋ねた。
「……失礼ですが、『お名前』をお伺いしてもよろしいでしょうか」
百合は少し戸惑いながらも、ハッキリとした声で答えた。
「……百合です。高校3年生の、百合です」
「ゆり……ユーリー様……!!」
騎士たちの間に、息を呑むような激震が走った。
容姿だけでなく、名前までもが教本の女神と同じ——。
「真に……真に、神の遣わされた女神様だ……!」
ギルバートの低く重厚な声が震えていた。
180センチを超える極上マッチョの騎士たちが、幼い頃からの「初恋の相手」そのものである百合を前に、歓喜と緊張で胸を熱く焦がしていたのだった。




