それぞれの夢と動き出す明日
「素晴らしい、だいぶ形になってきましたね!」
ダンスレッスンの終わり、初老のダンス講師ベンジャミンは満足そうに手を叩いた。
汗を拭う4人に向かって、ベンジャミンは微笑みながら言葉を続ける。
「そろそろ、パートナーと2人で踊る実践的なレッスンに移るといたしましょうか」
「パートナーですか?」
「ええ。こちらでダンスのお相手を見繕って、次回連れてまいりますのでご安心ください」
「はい、よろしくお願いいたします!」
レッスンを終え、汗を流してすっきりした4人は、リビングのソファで一息ついていた。冷たいお茶を口にした美咲が、目を輝かせて切り出す。
「ねえみんな、私、そろそろ本格的に化粧品開発に取り組もうと思うの!」
「いいわね! 何か具体的な構想があるの?」
百合が身を乗り出すと、美咲はうんうんと大きく頷いた。
「この国の女性って、メイクが派手で厚塗り……いわゆる白塗りって感じの人が多いじゃない?」
「うん、私も街で見かけてそう思ってた!」
「でしょ? 結局その厚塗りのせいで、肌荒れに悩んでる人がすごく多いのよ。だから、私たちが住んでいた日本にもあった『自然派化粧品』というか、ハーブや植物を使った肌に優しい化粧品を作ってみようかなって」
「あ~それすごく良いね! 私も使ったことあるよ。肌荒れしている人には、負担が少ない原料を使った方が絶対に肌がキレイになるよね!」
「そうなの! それとクレンジングや石鹸も、肌に負担がかからないものが必要よ。しっかりクレンジングして優しい石鹸で洗えば、この国の人たちの肌ももっと美しくなるはずだわ。それが完成したら、簡単なマッサージができるエステサロンを開くのもいいかも!」それとシャンプーやトリートメントもね。
「わあ、素敵! 美咲さんのプロの知識が活かせるね!」
「うん! とりあえず明日、ダンスレッスンがお休みだから後見人のルークス侯爵家に行って相談してくるわ!」
美咲の熱意に触発されるように、葵も自身の胸の内を明かした。
「それなら私は、この国の洋服もそうだけど、何より『下着』に不満があるわ! 特にブラジャー……私たちの身体に合うものが全然ないのよね」
その言葉に、残りの3人が一斉に深く頷く。
「「「本当にそうっ!!!」」」
「葵さん、カップ付きのブラジャーを早急に作ってほしいわ!」
「ふふ、今ちょうど考えているのよ。ワイヤー入りとワイヤーなし、それと立体的なカップ構造ね。それに、この国にはブラジャーとショーツが『お揃い』っていう概念もないでしょう? レースをあしらった可愛いデザインのものを作ろうと思っているの」
「わ~、楽しみ! 絶対欲しい!」
「でしょ? 私は明日、クラリス侯爵家に相談に行ってくるわ。……あ、そうだ! 凛ちゃん、デザインのイラストを描いてくれないかしら? ブラジャー、ショーツ、ネグリジェの……」
「ええ、任せてください! バッチリ描きます!」
頼もしく胸を張る凛を見て、百合も自分の目指す道を口にした。
「じゃあ私は、甘さ控えめのスイーツメニューを本格的に考えようと思うの。詳しいことは、一度厨房の料理人さんに相談してみようかしら」
すると、美咲がピンと指を立ててアドバイスを送る。
「それなら、離宮の料理人さんに聞くより、王宮の料理人さんの方が素材や技術に詳しいんじゃないかしら? レオンハルト様も協力してくれるって言っていたし!」
「そうね! では明日、王宮に行ってみようかしら」
「百合さん! 私はスイーツにすごく興味があるので、ご一緒してもいいですか?」
「もちろんよ、凛ちゃん! 一緒に行きましょう」
それぞれの夢に向かって道が拓け、4人の瞳には情熱の火が灯っていた。明日の訪問に向け、各自先ぶれの手配を進めるのだった。




