朝の訪問者と手甲への誓い
翌朝、離宮の朝食の準備が進む中、リビングにいた美咲が窓の外を見て声をあげた。
「百合ちゃん、今日はジェイド様がいらしているわよ」
「えっ!? こんなに朝早くに、どうされたのかしら……」
首をかしげながら玄関へ向かうと、そこには少し緊張した面持ちで佇むジェイドの姿があった。
「百合様、おはようございます。朝早くから押し掛けてしまい、大変申し訳ありません」
「おはようございます、ジェイドさん。いえ、それは構わないのですが……何か急用でしょうか?」
尋ねる百合に、ジェイドは意を決したように胸を張り、言葉を紡いだ。
「急用と言えば急用……なのですが。実は、兄上から伺ったのです。百合様が夜会の時に、兄上とダンスを踊られると……」
「ええ、そうですよ」
「あの……! よかったら……いえ、ぜひ私とも踊っていただけないでしょうか!? お願いします!」
勢いよく頭を下げるジェイドに、百合は目を丸くした。
「……そのことで、わざわざ朝早くからいらしてくださったのですか?」
「はい! 百合様には当日、ダンスの申し込みが殺到すると思いますので……どうしても先に確約をしていただきたくて!」
「まあ……私なんかに、そんなに申し込みが来るかしら?」
「来ますよ!!! それはもう、確実にっ!!!」
必死な形相で言い切るジェイドの迫力に、百合と思わずクスッと笑い声を漏らした。
「ふふ、分かりました。夜会の時に、ジェイドさんとも踊らせていただきますね」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
パッと顔を輝かせたジェイドだったが、ふと少し躊躇するように視線を揺らした。
「それと……厚かましいのですが、もう一つお願いがありまして……」
「なんでしょうか?」
「え~と……兄上に『百合』と呼び捨てにして良いと許可をされましたよね? それなら……私も、そのようにお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん構いませんよ! 『様』なんて付けられるのは、ちょっとくすぐったいですからね」
「ほんとですか!! ありがとうございます……!」
心底嬉しそうに目元を崩したジェイドだったが、次の瞬間、すっと背筋を伸ばして凛とした騎士の立ち振る舞いに戻った。
そして、不意に百合の前に一歩踏み出すと、優しくその右手を取り——恭しく腰を落として、手の甲へとそっと唇を寄せた。
「——では、百合。当日、一緒にダンスを踊れるのを心から楽しみにしているよ」
「……っ!?」
耳元で低く囁かれた名前と、手の甲に触れた温かな触感に、百合は固まって顔を一気に真っ赤に染めた。
そして、少し離れた廊下の陰からその様子をバッチリ覗き込んでいた美咲、葵、凛の3人からは——
「きゃ~~~っ!♡」
と、黄色い歓声が一斉にあがるのだった。




