ダンスレッスンと頼もしい画伯
翌日、レオンハルトの手配したダンス教師がさっそく離宮へとやってきた。
白髪の混じった髪をきっちりと整え、背筋をピンと伸ばした初老の男性が優雅にお辞儀をする。
「初めまして。わたくしは殿下から依頼を受け、ダンスをお教えしておりますベンジャミン・シュワードと申します。異世界の乙女たちにお教えできますこと、大変光栄にございます」
4人も一人ずつ挨拶を交わすと、ベンジャミンは微笑みながら本題に入った。
「さて、ダンスは初めてとお聞きしましたが、まずはわたくしが見本のステップをお見せいたしましょう。そのあと、一緒に練習を重ねてまいります」
軽快な音楽に合わせてステップを踏んでみせるベンジャミン。最初は基本的な足運びから始まり、徐々にテンポの速い複雑なステップへと変わっていった。4人は汗をかきながらも、集中して必死についていく。
「はい、皆様お疲れ様でした。初日にしてはとてもお上手でしたよ! この調子でしたら、1か月後には完璧に踊れるようになるでしょう」
「本当ですか、先生!?」
褒められた4人は思わず顔を見合わせて笑顔を咲かせた。
「ええ、共に頑張りましょうね!」
レッスンを無事に終え、美味しい夕食を済ませた4人は、前日と同じようにお風呂に入って汗を流した。脱衣所で体を拭き、リビングでのんびりとくつろいでいたとき、百合がふと思い出したように手をポンと叩いた。
「そろそろ、トレーニング器具のことを考えなくてはね。でも……この世界にダンベルやチューブなんてもの、あるかしら。鍛冶屋さんや職人さんに説明するためには、まずイラストを描かなくっちゃ」
そう言って紙とペンを用意した百合だったが、白紙を前にしてピタリと固まってしまった。
「……あ~っ、そうだったわ。私、絵心が全くないんだった……!」
頭を抱えて唸っていると、凛が不思議そうに覗き込んできた。
「百合さん、どうしたんですか? そんなに難しい顔をして」
「うん……ダンベルやチューブの形と、その使い方を説明するイラストを描こうと思ったんだけど、私、絵を描くのが本当にダメで……困っちゃったわ」
「それなら、私に任せてください!」
凛はポンと胸をたたいて自信満々に微笑んだ。
「私、子供の頃から絵やイラストを描くのがすごく得意なんです!」
「えっ! 本当!? 助かるわ~!」
喜ぶ百合は、さっそく欲しい器具のイメージを伝えた。
「ダンベルとトレーニング用のチューブ、それと……それを使ってトレーニングをしている人の絵も描いてもらえるかしら?」
「お任せください!」
凛はペンを走らせると、迷いのない手つきでサラサラとリアルなイラストを描き上げていく。出来上がった紙を受け取った百合は、目を丸くして感動の声を上げた。
「まあ~っ! 凛ちゃん、とっても上手だわ! これなら職人さんに説明するときもすごくスムーズにいくわね。……ねえ、凛ちゃん、もう1枚描いてくれないかしら?」
「えっ、どんな絵ですか?」
百合は少し懐かしそうな、どこか苦笑いを交えた表情で話し始めた。
「私の父なんだけど、警察官でね。ジムで体をしっかり鍛えていて、ゴリゴリのマッチョだったのよ。よくお風呂上がりに、パンツ一丁でポージングをしていてね……私が小さい頃だけど。流石に私たち姉妹が年頃になってからはやめたけど、大会にも出場していたから見に行ったことがあるの。それはもうすごかったわ! お腹なんてシックスパックで、腕も太ももも筋肉モリモリでね……ふと思い出しちゃったの。そんな男性の筋肉の絵、描けるかしら?」
「任せてください!」
凛は頼もしく頷くと、再びペンを走らせた。筋肉のつき方や影のつけ方まで、迷いなくサラサラと描き出していく。
「完成しました!」
「まあ~っ! これよ、これ! なんだか顔までうちのお父さんに似ているわ(笑)! 本当にありがとう、凛ちゃん!」
「どういたしまして!」
頼もしい凛の絵心に感嘆しつつ、4人は着々と夜会と自分たちの未来に向けた準備を進めていくのだった。




