王宮の思惑と、秘めたる一目惚れ
離宮で4人が新たな決意を固めていた頃——。
王宮の重厚な応接室には、この国の枢軸を担う重鎮たちが集まっていた。
部屋に集まっているのは、4人を手厚く保護していた各侯爵家の当主たち(ヴァルハイト侯爵、ルークス侯爵、クラリス侯爵、シルフィード侯爵)。そして、国王と、王の補佐役を務める第二王子レオンハルトである。
「——そうか。4人は無事に離宮へ移り住んだのだな」
書類から目を上げ、美貌の第二王子レオンハルトが静かに呟いた。
レオンハルトは、4人が異世界の森に降り立ったあの最初の日、ギルバートたちと共に城まで迎えに行った人物でもある。
あの時、黒髪をなびかせて不安そうに、けれど毅然とたたずんでいた百合の姿を見た瞬間から、レオンハルトは胸を打ち抜かれ、密かに彼女へ心を奪われていたのだった。
しかし、王子としての多忙な補佐業務に追われ、城に到着して以降はなかなか直接会いに行く時間が取れずにいたのだ。
「ええ。離宮の修復も無事に終わり、それぞれの活動拠点を整えたようです」
ヴァルハイト侯爵が嬉しそうに頷き、続いて各当主たちが自慢気に語り始めた。
「我が邸におりました百合殿は、甘さを抑えた健康的で素晴らしいお菓子とカフェの構想をお持ちだ。我が国の食文化に新たな風を吹き込む素晴らしい人材ですよ」
「美咲殿の美意識とコスメの知識も凄まじいものがあります。我が妻も彼女の手によって驚くほど美しく変わり、すっかりファンになっておりますな」
ルークス侯爵が誇らしげに語れば、クラリス侯爵も熱を込めて続ける。
「葵殿の服飾デザインも画期的です! 女性の魅力を最大限に引き出すあのデザインは、間違いなく我が国のドレス界に革命を起こしますぞ」
「凛殿も実に見事だ」とシルフィード侯爵が笑みを深める。
「若く健康的な美しさを体現しており、我が家の息子たちもすっかり良い影響を受けております」
当主たちが次々と4人の人柄や才能を絶賛するのを聞き、レオンハルトは心の中で誇らしく思いながらも、百合への愛おしさを募らせていた。
(百合……。離宮での生活が落ち着いたのなら、ようやく会いに行けるな)
すると、話を聞いていた国王が、ゆったりと重厚な声を響かせた。
「うむ。異世界から訪れたその4人の淑女たちは、我が国にとっても極めて貴重な宝だ。……レオンハルトよ、離宮へ赴くのであれば、ひとつ彼女たちに直接伝えてほしいことがある」
「何でしょうか、父上?」
国王は力強く頷き、申し渡した。
「今から1か月後、王宮にて大夜会を催す。その場で、異世界から来た4人の淑女たちを我が国の全貴族へ正式にお披露目するとな。彼女たちの素晴らしさを国中に知らしめる良い機会となろう」
「かしこまりました。それでは離宮へ赴き、その旨を私から直接伝えてまいります」
返事をするレオンハルトの瞳には、国王補佐としての真面目な光と同時に、「久しぶりに百合殿に会える」という密かな歓喜が宿っていたのだった——。




