新しい城と、旅立ちの日の約束
修復工事の槌音が響いていた離宮は、驚くほどの速さで息を吹き返した。
職人たちの手によって磨き上げられた白亜の外壁と、眩しい陽光が差し込む大きな窓。葵のこだわりが詰まった広々とした服飾工房、美咲の美容サロンさながらのヘアメイクルーム、そして百合の理想を形にした最新式の厨房。中央の広々としたリビングには、4人がゆったりと座れるソファーが据えられていた。
「すごい……本当に私たちの『拠点』になっちゃったね」
完成した離宮のホールを見渡し、凛が感嘆の声を漏らす。短かった髪は少しずつ伸び始め、美咲から伝授された毎日のスキンケアのおかげで、肌にはほんのりと透明感が増していた。
「ふふ、これで気兼ねなくドレスの試着も、試作品の試食会もできるわ!」
葵が満足そうに胸を張る。
しかし、完成の喜びと同時に、4人の胸には少しだけ切ない寂しさも漂っていた。今日まで自分たちを温かく迎え入れ、保護してくれた各公爵邸(ヴァルハイト邸、ルークス邸、クラリス邸、シルフィード邸)を離れ、この離宮へと正式に移り住む日がやってきたのだ。
各邸での見送り
【ヴァルハイト邸】
「百合、本当に行ってしまうのか……?」
名残惜しそうに百合の手を握りしめるのは、侯爵家長男のギルバートだ。傍らでは護衛騎士のジェイドも、いつになく真剣な目元で視線を注いでいる。
「ギルバート様、ジェイド様。ここでの時間は本当に宝物でした。甘さ控えめのカフェメニュー、完成したら一番に招待しますね!」
百合が微笑むと、ギルバートは意を決したようにその指先へ静かにキスを落とした。
「毎日でも通うよ。君の居場所を守るためなら、職権だって乱用してみせる」
「ちょっと、ギルバート様……!」
【ルークス邸】
「美咲さん、離宮に行っても僕特製のハーブティーを飲み忘れないでくださいね」
心配そうにコスメボックスの荷造りを手伝うのはジュリアン。護衛のフェリクスは、美咲の荷物を軽々と抱え上げながらニヤリと笑う。
「お嬢、寂しくなったら巡回にかこつけていつでも顔を出しますからね」
「ふふ、二人ともありがとう。私、離宮で最高の美容サロンを作るから、見に来てね」
美咲は自信に満ちた笑顔で見つめ返した。
【クラリス邸】
「葵、工房の道具で足りないものがあればすぐに職人のバルトに言えよ」
レオンが念を押せば、次男のルークも「僕も布地の仕入れなら手伝うからね!」と身を乗り出す。職人のバルトは無口ながらも、葵のために特注したハサミをそっと手渡してくれた。
「みんな……ありがとう!このハサミで、世界一素敵なドレスを仕立ててみせるわ!」
【シルフィード邸】
「凛、本当に怪我や無理はしないように……」
兄のレオニダスと弟のガブリエルは、まるで妹を初めて一人旅に出す親のようにハラハラしていた。
「二人とも心配しすぎ!私、もっと素敵になって、三人を見返してやるんだから!」
凛が拳を握りしめて宣言すると、二人は一瞬呆気にとられた後、愛おしそうに凛の頭を撫でた。




