プロの眼光と、息抜きの街歩き
ルークス侯爵邸のサロンでは、美咲が机いっぱいに本や資料を広げ、真剣な眼差しでペンを走らせていた。
元の世界でヘアメイクプロとして活躍していた美咲は、この世界のコスメ事情や美容法を学ぼうと、連日猛勉強を重ねていたのだ。
「美咲様、あまり詰め込みすぎるのは体に毒ですよ」
そう言って温かいお茶を差し出したのは、護衛騎士のフェリクスだ。25歳の彼は、騎士らしい凛々しさと包み込むような優しさを兼ね備えている。
「あ、フェリクス、ありがとう。でも、この国の美容技術ってすごく独特で面白くて……」
美咲がフッと息をついて姿勢を正すと、胸元が大きく強調された。
数日前に葵から届いたリメイクドレス。美咲のメリハリのあるボディラインに合わせて完璧に補正されたそれは、元の世界の20歳らしい引き締まったウエストと、豊満で柔らかな胸元のボリュームを惜しげもなく引き立てている。
「っ……美咲様、その……」
後からサロンに入ってきた侯爵家の息子・ジュリアン(23歳)が、美咲の胸元に目を留めた瞬間、言葉を詰まらせて顔を真っ赤にした。
この国の女性たちの寸胴体型に見慣れていた2人にとって、美咲の柔らかく豊かな胸の盛り上がりは、刺激が強すぎる。女性嫌いだったトラウマを完全に忘れ去るほど、男としての理性を揺さぶられる光景だった。
「ジュリアン? どうしたの?」
「あ、いえ……なんでもありません! ……それより、ずっと勉強ばかりで根を詰めておられましたから、息抜きに街へ出かけませんか?」
動揺を隠すようにジュリアンが提案すると、フェリクスも深く頷いた。
「賛成です。美咲様の欲しがっていた化粧品や美容雑貨を扱う店も案内できますよ」
「本当!? 行きたい!」
目を輝かせる美咲に、2人の男たちは愛おしさと困惑が入り混じった視線を交わし合った。こんなにも魅力的な姿の彼女を外に連れ出すのは心配だが、喜ぶ顔が見たいという衝動には勝てそうになかった。
馬車に揺られて到着した街は、大賑わいを見せていた。
美咲はジュリアンとフェリクスに挟まれながら、お目当ての化粧品店や美容雑貨の店を精力的に巡った。
「見てフェリクス! この繊細な職人技で作られたブラシ、毛質がすごく柔らかい! メイクのノリが変わりそう!」
「お気に召したのなら、すべて買い取りましょう。美咲様のお役に立つなら何よりです」
美咲のプロとしての真剣な眼差しや、少女のように瞳を輝かせるギャップに、ジュリアンもフェリクスも終始目尻を下げっぱなしだった。
買い物を存分に楽しんだ後、3人は休憩のために街で一番人気のカフェへと入った。
運ばれてきた華やかなケーキを一口食べた美咲だったが——
「……ううん、すごく甘い……甘すぎるかも」
美咲は思わず苦笑いを浮かべた。素材の風味がかき消されるほどの猛烈な砂糖の甘さに、ジュリアンも申し訳なさそうに苦笑する。
「この国では甘みこそが贅沢とされているのですが……美咲様のお口には合わなかったようですね」
「ううん、連れてきてくれてありがとう。でも……こんなに素敵なコスメがある国なんだから、もっと体に優しくて美味しいカフェスイーツがあれば、女の子たちはもっと綺麗に、幸せになれるのに」
ふと呟いた美咲の言葉に、フェリクスとジュリアンはハッとさせられた。ただの息抜きだった街歩きが、彼女の中で新たなインスピレーションを生み出しているようだった。




