小さな見習い剣士と、新しい家族
百合たちと離れ、グランベル侯爵邸へとやってきた16歳の凛。
この家は代々王国の騎士団を統括する武闘派の名門で、出迎えてくれた人々もどこか逞しく威風堂々としていた。
当主のグランベル侯爵と穏やかな夫人、そして現役の騎士である長男のレオニダス(22歳)と、次男のガブリエル(20歳)。
「凛殿、遠いところよく来られた。我が家を我が家と思ってゆっくり過ごすといい」
食卓で温かく迎えられたものの、凛の胸の奥には小さなモヤモヤがあった。
百合やお姉さんたちは大人で、それぞれ得意な仕事や技術を持っている。けれど自分はただの16歳の高校生で、元陸上部ということくらいしか取り柄がないのだ。
(お姉さんたちみたいに役に立つ技術もないし、どうしよう……)
そんな不安を抱えたまま迎えた翌朝。じっとしていられなくなった凛は、体を動かそうと邸宅の庭を散歩し、広大な訓練場で汗を流す騎士団の姿を目にした。
息の揃った剣戟の音、迫力ある身のこなし。その光景に、元陸上部で身体を動かすのが大好きな凛の血が騒ぎ出した。
「すごーい……! 格好いい……!」
目を輝かせて見入っていると、日課の稽古を終えた長男レオンニダスと次男ガブリエルが汗を拭いながらやってきた。
「おはよう、凛。朝早くからどうしたんだい?」
ガブリエルが優しく微笑みかけると、凛はキュッと拳を握りしめ、まっすぐな瞳で二人を見上げた。
「あの! 私、身体を動かすのが大好きなんです! 私にも……剣を教えてもらえませんか!?」
「「……えっ!?」」
思いもよらない申し出に、二人は思わず声を揃えて目を丸くした。
この国の令嬢といえば、お茶会やドレスにしか興味がないのが当たり前。自ら「剣を習いたい」などと言い出す少女など、聞いたこともなかったからだ。
しかし、自分の背丈ほどもある練習用の木剣を一生懸命に構えようとする16歳の凛の姿は、あまりにも小さく、そして可憐だった。
この国では18歳が成人であり、結婚ができる年齢だ。16歳の凛はまだまだ子供で、何より上に3人の姉がいる末っ子らしく、天真爛漫で愛くるしい。
「ははっ、参ったな! まさかこんなに可愛い弟子志願者が現れるとは!」
「剣術か! いいぞ、俺たちが手取り足取り教えてあげるよ!」
妹のいなかったレオニダスとガブリエルは、一瞬で「最高に可愛い妹ができた!」と大喜び。頭をくしゃくしゃと撫で回し、目に入れても痛くないといった様子で凛を甘やかし始めたのだった。
当の凛は「えへへ、よろしくお願いします!」と元気いっぱいに笑っていたが——
この時の二人はまだ気づいていなかった。
汗を流して健気に剣を振るう彼女の真面目な横顔に、やがて「妹として」ではなく、「一人の愛おしい女性として」心を奪われていく未来があることを。




