はじめての稽古と、お姉ちゃんたちへの想い
翌朝の朝食後、長男のレオニダスハートと次男のガブリエルに連れられ、凛は館の壮大な図書館を訪れた。
「剣を習う前に、まずはこの国の歴史や騎士の心得も少しずつ学んでいこうね」
ガブリエルに促され、凛はおそるおそる本棚から一冊の書物を抜き取った。ページをめくった瞬間、凛は「あ……!」と声を上げた。
(読める……! 見たこともない文字なのに、日本語みたいにスラスラ頭に入ってくる!)
文字が読める感動に瞳を輝かせた凛だったが、難しい政治や歴史の本には「うぐっ……頭が痛くなりそう」と苦笑い。しかし、身体の構造やトレーニング法、騎士の戦術が書かれた本を見つけると一転、元陸上部の本領を発揮して夢中でページをめくり始めた。
「すごい……! 筋肉の使い方や重心の移動、陸上と通じるところがたくさんある!」
真剣な目つきで知識を吸収する凛の姿に、様子を見守っていたレオニダスたちは「根はすごく努力家なんだな」と感心し、愛おしそうに目を細めた。
◇
午後になると、待ちに終えた初めての剣術稽古が始まった。
小さな手に木剣を握り締め、教えられた通りの素振りを繰り返す凛。
元陸上部で鍛え上げられた体幹の強さと足さばきの良さ、そして午前中に本で学んだ重心の意識が見事に噛み合い、凛は予想を遥かに超える筋の良さを見せた。
「素晴らしい筋筋だ! 身体の軸がまったくブレていないぞ!」
「ははっ、本当に初めてかい? レオ兄さん、僕たちの弟子は将来とんでもない剣士になるかもしれないよ!」
二人から頭をなで回され、凛は「えへへ、陸上で体幹だけは鍛えてましたから!」と汗を拭いながら誇らしげに笑った。
◇
しかし、厳しい稽古を終え、豪華な客室で一人きりの夜を迎えると——明るかった凛の表情は静かに陰っていった。
ベッドにぽつんと座り込み、小さな膝を抱え込む。
(みんな、どうしてるかな……)
脳裏に浮かぶのは、元の世界で待っている大好きな家族の姿だ。
いつも優しく見守ってくれた両親。
そして、何でも相談に乗ってくれて、末っ子の自分をたくさん可愛がってくれた頼もしい3人のお姉ちゃんたち。
一番下だからと甘やかされ、賑やかな家で笑い合っていた日々がたまらなく恋しい。
(私がいなくなって、お姉ちゃんたちすごく心配してるだろうな……。百合お姉ちゃんたちも、遠いところで一人で寂しがってないかな……)
16歳という若さで一人異世界に取り残された不安と、家族への溢れる愛おしさに、凛の瞳から大きな涙粒がポロポロとこぼれ落ちた。
「……お姉ちゃん……会いたいよ……」
声を殺して涙を拭いながら、凛は静かに夜を過ごすのだった。




