知識の吸収と、無機質な下着
翌朝、美味しい朝食を終えた葵は、エレナ夫人の案内で館にある壮大な図書館へと向かった。
ズラリと並ぶ本棚からファッションに関する一冊を抜き取り、ページを開いてみる。
(……あ、読める……! 文字が自然と頭に入ってくる!)
文字が解読できる感動に胸を躍らせながら、葵は夢中になって服飾の歴史書やデザイン集を読み漁った。
しかし、読み進めるほどに違和感が募る。この世界の衣装は豪華絢爛ではあるものの、縫製技法やデザインのバリエーションが元の世界とは大きく異なり、どこか画一的だったのだ。
午後になると、葵はクラリス侯爵と筆頭職人のバルトに連れられ、館の広大な裁縫工房を訪れた。
工房には、無骨ながら精巧な歯車で動く足踏み式のミシンや、世界中から集められた極上の生地が並んでいた。職人たちの職人技で仕立てられたドレスの美しさに感嘆の声を上げる葵だったが、最後にエレナ夫人から「この国の女性が着ている下着」を見せられた瞬間、言葉を失った。
「……これ、が……下着、ですか?」
葵の目の前にあるのは、繊細さも可愛らしさも皆無な、ただの平らな布と紐で作られた無機質な「胸当て」だった。レースもリボンもなく、立体感すらない。
「奥様……この胸当てで、お胸は綺麗に収まるのですか? 形を崩してしまわないでしょうか……?」
思わず尋ねた葵に、エレナ夫人はふふっと上品に微笑み、葵の胸元へチラリと視線を向けた。
「我が国の女性は、葵様のように豊かで美しいお胸をお持ちの方が滅多におられませんのよ。ですから、この平らな胸当てで十分事足りてしまうのですわ」
「え……あ……っ!?」
エレナ夫人の言葉の意味を理解した瞬間、葵は一気に顔を真っ赤にした。
言われてみれば、自分の胸元は服の上からでもはっきりと分かるほど主張している。元の世界では意識していなかったが、この国では自分がかなり「グラマラス」な体型なのだと気づかされ、猛烈な羞恥心がこみ上げてきた。
視線をさまよわせる葵の可憐で艶やかな姿に、様子を見に来ていた長男のレオンはドクンと心臓を跳ね上げ、耳まで真っ赤にして固まってしまう。
葵は真っ赤な顔のまま、キュッと拳を握りしめた。
(恥ずかしがってる場合じゃないわ! 女性の身体を綺麗に魅せて、着けているだけで心がときめくような可愛らしいレースのランジェリー……絶対に私が作ってみせるんだから!)
自身の豊満なスタイルに戸惑いつつも、服飾デザイナーとしてのプロの魂に火がついた葵だった。




