知識の吸収と、夜の寂しさ
陽光が差し込む美しいダイニングで朝食をとっていると、セシリア夫人が穏やかな笑みを浮かべて美咲に語りかけた。
「美咲様。この国で安心して暮らしていただくためにも、今日から少しずつこの国のことを学んでいきましょうね。我が家の図書館には様々な文献がございますの。執事に案内させますので、どうぞ自由に本を読んでみてください」
「ありがとうございます! ぜひ勉強させてください」
朝食後、筆頭侍従のクロードに案内されて足を踏み入れたのは、息を呑むほど壮大な図書館だった。美咲が棚から一冊の本を抜き取り、ページをめくると——不思議なことに、見たこともない異世界の文字がスラスラと頭に飛び込んできた。
(言葉だけじゃなくて、文字まで読める……! 神様、ありがとうございます!)
自力で知識を得られる喜びに瞳を輝かせた美咲は、さっそく美容や薬草、歴史に関する本を何冊も机に積み上げた。この国の植物の特性やオイルの抽出法など、プロとしての好奇心のままに夢中になって知識を吸収していくのだった。
◇
午後になると、美咲はセシリア夫人とお茶を囲みながら、気になっていたことを尋ねてみた。
「奥様、この国の女性たちは普段どのようにスキンケアをされているのですか? それから……『エステ』のようなお店はあるのでしょうか?」
「えすて……? まあ、それは一体どのようなものですの?」
夫人が不思議そうに首を傾げたため、美咲は微笑んで説明した。
「お肌のお手入れはもちろん、マッサージで身体のコリをほぐしたり、心をリラックスさせたりして、内側からも外側からも綺麗になるためのお手入れ専門のサロンのことです」
美咲の説明を聞いたセシリア夫人は、パッと目を輝かせた。
「まあ……! なんて素晴らしいものでしょう! ぜひ美咲様、この国でその『えすて』というものを作っていただけないかしら? もちろん、開店に必要な費用や場所はすべて我がルークス家でお出ししますわ!」
(そんな風に言っていただけるなんて……! 離宮に戻って落ち着いたら、絶対に形にしたいな)
夫人の温かい後押しに、美咲は「ありがとうございます。ぜひ勉強を重ねて実現させたいです」と胸を躍らせるのだった。
◇
しかし、夜になり、案内された広大な客室で一人になると——昼間の高揚感は静かに消え去っていった。
ふかふかのベッドのふちにぽつりと腰を下ろすと、急激に胸を締め付けるような寂しさが襲ってくる。
(……お父さん、お母さん……みんな、どうしてるかな)
美咲の脳裏に浮かぶのは、元の世界で待っている大好きな家族の姿だった。
まじめに働いて家族を支えてくれた会社員の父親。
自分で美容室を経営し、いつも生き生きと働いていた母親。
そして、母のお店を一緒に手伝っていた妹花音と、一番下の妹咲良
美容に囲まれた温かい実家。みんなで笑い合いながら髪やメイクの話をしていた日々が、たまらなく愛おしい。
(私がいなくなって、どれだけ心配しているだろう……。花音と咲良も、どこかで一人で泣いていないかな……)
離れ離れになってしまった妹・百合の身を案じ、そして大好きだった家族の温もりを思い出して、美咲の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「……みんなに、会いたいな……」
静まり返った部屋で、美咲は声を殺して静かに涙を拭うのだった。




