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第37話 シロちゃん



朝、目を覚ますと、隣で眠っているサラの胸元が淡く光っていた。


窓の外はまだ薄暗い。


同じ部屋に置かれたもう一台のベッドでは、リオナが毛布を抱き締めて眠っている。庭から小鳥の声が聞こえ始めたばかりだった。


最初は窓から差し込んだ光だと思った。


しかし、白い光はサラの薄い寝間着の内側から漏れている。


「サラ、起きてくれ」


「ん……どうしました?」


俺が肩を揺すると、サラが蜂蜜色の瞳をゆっくりと開いた。


寝返りを打った拍子に、長い栗色の髪が頬へかかる。寝間着の襟元もわずかにずれ、その奥にある柔らかな胸の谷間から、白い光が漏れていた。


「胸元が光ってる」


「胸……ですか?」


サラは眠そうな顔のまま、自分の胸を見下ろした。


「本当ですね。昨日までは何ともなかったのに……あっ」


突然、サラが両腕で胸を抱えた。


「どうした?」


「何かが動きました。胸の間に、小さなものが挟まっているような……」


「虫かもしれない。取ろうか?」


俺が手を伸ばすと、サラの顔が一瞬で赤くなった。


「ル、ルナトになら構いませんが、朝からそこへ手を入れられるのは、少し恥ずかしいです」


「緊急事態だろ」


「顔が嬉しそうだぞ」


背後から、呆れた声がした。


振り返ると、いつの間にか目を覚ましたリオナが、ベッドの上で頬杖をついている。


赤褐色の短い髪には寝癖がつき、頭の上にある獣耳も片方だけ横へ倒れていた。


「嬉しそうになんてしていない」


「なら、その伸ばした手を止められるな?」


「虫だったら困るだろ」


「それなら私が取ってやる。女同士なら、サラも恥ずかしくないはずだ」


「リオナに胸を触られるのも恥ずかしいです!」


二人が言い争っている間にも、サラの胸元で何かがもぞもぞと動いていた。


白い光が谷間を移動するたび、薄い寝間着の下で豊かな膨らみが揺れる。


「ひゃっ……くすぐったいです!」


サラが慌てて胸元を押さえた瞬間、その隙間から白いものが勢いよく飛び出した。


「出た!」


俺たち三人は、同時に身を引いた。


飛び出したものは、俺の顔の前でふわふわと宙に浮かんでいる。


両手に収まりそうなほど小さく、全身が雪のように白い。丸みを帯びた身体には短い手足があり、頭には兎にも似た長い耳が生えている。


背中の小さな翼は半透明で、光を受けて淡く輝いていた。


白い生き物は腰に両手を当て、得意そうに胸を張った。


「シロちゃん、誕生だっピ!」


寝室が静まり返った。


「……しゃべったぞ」


リオナの金色の瞳が丸くなる。


「シロちゃんだっピ!」


「名前を聞いたんじゃない。お前は何者なんだ?」


「シロちゃんは《スキル図鑑》から生まれた案内役だっピ! ルナトとサラが覚えたスキルを整理したり、登録状況を分かりやすく説明したり、二人が勘違いしそうになったときに補足したりするために生まれた、親切で可愛くて頼りになる存在だっピ!」


「ずいぶん長い説明だな」


「説明が足りないより、少し長いくらいがちょうどいいっピ!」


どこからそんな情報を得たのだろう。


俺にも分からない。


「どうしてサラの胸から生まれたんだ?」


「そこが温かくて、柔らかくて、居心地がよかったからだっピ!」


シロちゃんはそう答えると、サラの胸元へ戻ろうとした。


「戻ってはいけません!」


サラが真っ赤になり、両手で襟元を塞いだ。


行き場を失ったシロちゃんは空中で止まり、残念そうに長い耳を垂らす。


「生まれたばかりだから、もう少し休ませてほしいっピ」


「ベッドなら空いています。胸の中で休む必要はありません」


「サラは意外と厳しいっピ……」


「普通の反応だと思うぞ」


リオナが白い生き物を捕まえようと手を伸ばす。


シロちゃんは軽々とその手を避け、俺の頭へ降り立った。


「ルナトの頭は硬くて寝心地が悪そうだっピ」


「なら降りろ」


「仕方がないから、リオナの胸で我慢するっピ!」


「おい。どうして私が妥協案なんだ」


「二人とも温かそうだっピ!」


シロちゃんが飛び、リオナが追いかける。


その騒ぎを見ながら、サラは胸元を押さえたまま小さく笑っていた。


朝食の席にも、シロちゃんは当然のようについてきた。


サラの隣に座り、自分の身体ほどもあるパンを両手で抱えて食べている。


俺は向かい側から、その小さな身体を観察した。


「食事も必要なのか?」


「何も食べなくても、すぐに消えたりはしないっピ。でも、おいしいものを食べると元気になるっピ。つまり、シロちゃんに食事を与えることは、今後の説明を分かりやすくするために必要な投資だっピ!」


「ずいぶん都合のいい説明だな」


「この白いの、本当に図鑑から生まれたのか?」


リオナがシロちゃんの長い耳を指先でつまむ。


「引っ張るなっピ! シロちゃんは図鑑の案内役であって、リオナのおもちゃではないっピ!」


「では、図鑑を全部埋めたら何がもらえる?」


「達成するまで分からないっピ」


「役に立たないな」


「役に立たないとは失礼だっピ! シロちゃんが説明できるのは、現在公開されている情報だけだっピ。未達成の報酬や、まだ開放されていない項目を勝手に教えることはできないっピ!」


シロちゃんは耳を振り払い、サラの肩へ逃げた。


「それなら、初級図鑑の現在の登録数は?」


「三十三種類だっピ! 戦闘系統が六、魔法系統が三、探索系統が八、生産系統が五、生活系統が九、身体・耐性系統が二、一般系統がゼロだっピ!」


確かに図鑑の情報を把握している。


「本当に案内役なんですね」


サラが感心したように言うと、シロちゃんは得意げに胸を張った。


「サラは理解が早くて助かるっピ! それに、シロちゃんが生まれた原因は、二人が結婚したことで《スキル図鑑》が共鳴し、サラのスキルも登録できるようになったことだと思うっピ!」


「思う、なのか?」


「生まれたばかりだから、自分のことにも分からない部分が多いっピ!」


そこを堂々と言えるのは、ある意味すごい。


そのとき、玄関の扉が勢いよく叩かれた。


「ルナト、いるか! 約束どおり魔法を教えに来たぞ! ついでに朝食が残っているなら、少し食べさせてくれ!」


声だけで誰なのか分かった。


扉を開けると、淡い金色の長い髪を揺らしたエルフの魔法使い、ミネルが立っていた。


尖った耳と深緑色の瞳を持ち、整った顔立ちだけを見れば、森の奥に住む高貴な精霊にも見える。


ただし、現在の彼女は俺ではなく、背後の食卓を見ていた。


「魔法を教えに来たのか、朝食を食べに来たのか、どっちなんだ?」


「両方だ。教えるには魔力を使う。魔力を使えば腹が減る。つまり、食事も授業に必要なものだ」


「ちょうど少し残っていますよ」


サラが声をかけると、ミネルの尖った耳が嬉しそうに動いた。


「さすがサラだ。ルナトにはもったいないくらい気が利くな」


「毎回、俺を下げる必要はないだろ」


ミネルが家へ入ったところで、その視線がサラの肩に止まった。


シロちゃんがパンの欠片を抱え、口いっぱいに頬張っている。


「何だ、その白い生き物は?」


「シロちゃんだっピ!」


「名前ではなく、何者なのかを聞いている」


今朝、三度目のやり取りだ。


俺が説明するよりも先に、シロちゃんがサラの肩から飛び立った。


「シロちゃんは《スキル図鑑》から生まれた案内役だっピ! ルナトとサラが覚えたスキルを記録して、分かりにくい仕組みを説明するために生まれたっピ!」


ミネルの深緑色の瞳が細くなる。


「スキル図鑑?」


シロちゃんを隠さずに暮らすなら、《スキル図鑑》の存在を隠し続けるのは難しい。


何より、ミネルには魔法を教わっている。


図鑑の秘密を知っても、むやみに言い触らすような人物ではないと思っていた。


「ミネル。これから話すことは、ほかの人には言わないでくれ」


「内容によるが、無意味に他人へ話すつもりはない」


俺は鉱山で不思議な水晶を発見し、それに触れたことで《スキル図鑑》を得たことを説明した。


スキルを習得すれば図鑑へ登録されること。


図鑑には、未習得のスキルを得るためのヒントが記されていること。


サラとの婚姻によって図鑑が共鳴し、今では二人のスキルを登録できること。


ただし、今も持っている水晶の欠片と、欠片を握れば職業を変更できることについては伏せた。


「なるほど。スキルを与えるだけでなく、習得した技術を記録する水晶か。古い文献でも聞いたことがない」


ミネルはシロちゃんへ指先を近づけ、その身体を覆う魔力を調べ始める。


「微弱だが、ルナトとサラ、二人の魔力が混ざっている。敵意もない。図鑑と婚姻による共鳴から生まれたという説明には、それなりの説得力があるな」


「シロちゃんは嘘をつかないっピ!」


「自分でも正体を完全には理解していないようだが?」


「これから少しずつ分かる予定だっピ!」


「予定なのか」


ミネルは呆れながらも、秘密を守ると約束してくれた。


朝食を終えたミネルは、家具を端へ寄せた居間で魔法の授業を始めた。


今日の授業を受けるのは、俺とサラだ。


リオナは魔法を扱えないため、壁際の椅子に座って見学している。シロちゃんは、その頭にある獣耳の間へ収まっていた。


「どうして私の頭なんだ?」


「耳の間がちょうどいいっピ!」


「落ちても知らないぞ」


リオナはそう言いながらも、追い払おうとはしなかった。


ミネルがサラの前に立ち、右手を差し出す。


「サラは、胸の奥にある魔力を感じられるようになったんだな?」


「はい。目を閉じて集中すると、温かいものを感じます。ただ、それを動かそうとすると、すぐに分からなくなってしまうんです」


「それで正常だ。魔力を感知することと、思いどおりに動かすことは別だからな。まずは外へ出そうとせず、身体の中で右手まで移動させてみろ」


サラは胸の前で右手を開き、目を閉じた。


《魔力感知》を使うと、サラの胸元に集まった魔力が、肩から腕へ流れようとしているのが分かる。


しかし、肘へ届く前に流れが途切れてしまった。


「焦るな。無理に押し出そうとすると、かえって流れを塞いでしまう。水瓶を傾けたとき、水が腕力で流れているわけではないだろう? 魔力も同じだ。押すのではなく、流れる道を思い浮かべろ」


「流れる道……分かりました。もう一度やってみます」


サラは肩の力を抜き、ゆっくりと息を吐いた。


胸から肩へ。


肩から肘へ。


肘から手首へ。


今度は途切れることなく、淡い魔力が右手のひらまで流れていった。


「できていますか?」


「ああ。右手に集まってる」


俺が答えると、サラが目を開いた。


集中が切れて魔力は散ってしまったが、その顔には喜びが浮かんでいた。


「今、少しだけ分かりました。温かいものが腕の中を通って、手のひらに集まった気がします」


「一度成功しただけでは、まだ習得したとは言えない。同じことを繰り返し、安定して再現できるようになるまで続けるぞ」


「はい。お願いします」


サラは何度も練習した。


最初のうちは手首まで届かなかったり、手のひらに集めた魔力を保てなかったりした。それでも一度ごとに呼吸を整え、失敗した理由を考えながら続ける。


一時間ほど経つ頃には、十回試せば八回ほど成功するようになっていた。


《魔力操作を習得しました》


《初級スキル図鑑へ登録済みのスキルです》


取得者:サラ


登録数:33/90


「サラ、《魔力操作》を習得したぞ」


「本当ですか?」


「ああ。ただ、図鑑には俺が先に登録していたから、数は増えていない」


サラは少しも残念そうな顔をしなかった。


「数字が増えなくても、私が魔力を扱えるようになったことに変わりはありません。いつかルナトと一緒に魔法を使えるようになりたいです」


その言葉を聞いたシロちゃんが、リオナの頭から飛び立った。


「ここでシロちゃんから説明だっピ! 結婚によって共鳴したスキル図鑑は、ルナトとサラが習得したスキルの記録を共有しているっピ。でも、スキルそのものを相手へ渡しているわけではないから、ルナトが《魔力操作》を使えても、サラは自分で練習して習得する必要があるっピ!」


「二人が同じスキルを習得しても、登録数は増えないのか?」


ミネルが尋ねる。


「増えないっピ! ただし、取得者の欄には二人の名前が残るっピ。登録数が増えなくても、サラ自身にできることは増えているから、練習が無駄になったわけではないっピ!」


「なるほど。案内役というのは本当らしいな」


ミネルに認められ、シロちゃんは得意そうに空中で一回転した。


続いて、俺が魔力循環の練習を見てもらう。


床に座り、両手を胸の前に構えた。


大きな球を抱えるように、右手と左手を向かい合わせる。


「寝る前に、右手から魔力を放出して、左手で受け取る練習を続けている。使った魔力を、そのまま空中へ捨てるのはもったいないと思って始めたんだ」


「発想は悪くない。見せてみろ」


右手のひらから少しずつ魔力を放出する。


空中へ出した魔力を左手で受け止め、左腕から胸へ戻す。そのまま胸から右腕へ送り、再び右手から放つ。


しかし、一周するたびに魔力が少しずつ空中へ漏れてしまう。


「右手から出す量が多すぎる。左手で受け止められる量に合わせて、放出を弱くしろ。今のお前は、水の入った桶を小さな器で受け止めようとしているようなものだ」


「少しずつ流せばいいんだな」


「そうだ。それから、魔力を使い切る練習は最大魔力を増やす助けになるが、本当に空になるまで無理をするな。身体を鍛えることと、身体を壊すことは違う。気分が悪くなる前に必ず休め」


俺は言われたとおり、右手から放出する量を減らした。


右から左へ。


左腕から胸へ。


胸から右腕へ。


再び右手から外へ。


何度も失敗してきた魔力の流れが、今度は途中で途切れない。


一つの輪となり、自分の身体と両手の間を巡り続けた。


《魔力循環を習得しました》


《初級スキル図鑑へ登録します》


取得者:ルナト


登録数:34/90


初級スキル図鑑 魔法系統:4/15


「《魔力循環》を習得した」


「今日一度できただけで覚えたわけではないっピ!」


すかさずシロちゃんが俺の前へ飛んできた。


「ルナトは毎晩、寝る前に同じ練習を続けていたっピ。何度も魔力を動かし、失敗しながら身体に流れを覚えさせていたから、ミネルの助言で正しい方法を理解したとき、安定して再現できるようになったんだっピ!」


「今のは確かに説明担当らしかったな」


「やっと役目を認められたっピ!」


シロちゃんが喜んでいると、俺の両手の間に別の光が現れた。


蛍に似た淡い光。


以前は針の先ほどしかなかったのに、今では豆粒ほどの大きさになっている。


「シロちゃんが増えたのか?」


リオナが身を乗り出す。


「違うっピ! シロちゃんは白くて可愛くて、もっと存在感があるっピ!」


蛍のような光は、俺の右手から流れ出る魔力に乗り、左手へ向かってゆっくりと移動した。


「また現れましたね」


サラが俺の隣へ座り、光を見つめる。


ミネルは指先を近づけたが、触れられる直前に光が逃げた。


光は部屋を一周し、サラの周囲を楽しそうに飛び回る。


「余った魔力が光って見えることはあるが、普通はこんな動き方をしない。ルナトだけでなく、サラの魔力にも興味を示しているようだな」


「危険なものなのか?」


「今のところ、敵意も強い力も感じない。無理に捕まえず、しばらく様子を見たほうがいいだろう」


淡い光はシロちゃんの周囲も一周した。


シロちゃんは短い腕を組み、真剣な顔で光を見つめる。


「これはシロちゃんとは別の存在だっピ。何なのかはまだ分からないけれど、二人が魔力循環を続ければ、少しずつ変化するかもしれないっピ!」


「説明担当なのに分からないのか?」


「分からないことを適当に説明するより、分からないとはっきり言うほうが誠実だっピ!」


それは正しい。


やがて蛍のような光はサラの手のひらへ降り、数回明滅してから、溶けるように消えていった。


「いつか私も魔力を外へ出せるようになったら、ルナトと一緒に循環させてみたいです」


「二人で?」


「はい。大きなボールを二人で挟むように向かい合い、四つの手で同じ魔力の球を包むんです。ルナトの右手から出した魔力を私の左手で受け取り、私の身体を通して右手から返します。それをルナトの左手で受け取れば、二人の魔力を一つの輪にできませんか?」


サラは俺と向かい合い、両手を伸ばした。


俺たち四つの手で、目に見えない大きな球を包み込むような形になる。


「面白い発想だ。ただし、サラはまだ《魔力放出》を習得していない。今すぐ試しても、サラのところで流れが途切れるだろう」


ミネルが答えると、サラは素直に両手を下ろした。


「では、まず一人で魔力を扱えるようになります。焦らず、必要な練習から続けます」


「それがいい。二人の魔力は性質が異なるから、循環させるには細かな調整も必要になる。だが、成功すれば一人で行う魔力循環とは違う変化が起きるかもしれないな」


「私だけ魔力の輪に入れないのは、少し寂しいな」


リオナが後ろから、俺とサラの肩を抱いた。


「その代わり、二人には森での歩き方を教えてやる。魔法ばかり練習して、戦い方を忘れられては困るからな」


「次の依頼では頼む」


「シロちゃんにも何か教えてほしいっピ!」


「まずは飛びながらパンを食べて、床に欠片を落とさない方法だな」


「それは難しい訓練になりそうだっピ……」


午後になり、俺たちはシロちゃんを連れてカレンの鍛冶場を訪れた。


シロちゃんは隠そうとしても勝手に飛び回る。これからも付き合いを続けるカレンには、最初から説明しておいたほうがいいだろう。


鍛冶場では、カレンが白いタンクトップ姿で槌を振るっていた。


灰色の髪を後ろでまとめ、熱気で汗ばんだ肌へ布地が張りついている。槌を振り下ろすたびに、豊かな胸が大きく揺れた。


サラに脇腹をつつかれ、俺は慌てて視線を上げた。


「珍しいね。三人そろって来るなんて。剣に問題でもあったのかい?」


「剣は問題ない。それより、紹介したい奴がいる」


「初めましてだっピ!」


シロちゃんが俺の背後から飛び出した。


カレンは振り下ろそうとしていた槌を止め、目の前に浮かぶ白い生き物を見つめた。


「……疲れてるのかな。白くて丸いものがしゃべったように見えたんだけど」


「疲れてないっピ! シロちゃんは《スキル図鑑》から生まれた案内役で、ルナトが女性の胸ばかり見ていないか監視する役でもあるっピ!」


「それなら、かなり忙しくなりそうだね」


カレンが声を上げて笑った。


「余計な説明を加えるな」


「でも、さっきもカレンの胸を見ていたっピ!」


「シロちゃん」


サラが静かに名前を呼ぶ。


「はいだっピ……」


シロちゃんは、サラの肩へおとなしく降りた。


俺はカレンにも《スキル図鑑》のことを説明した。


以前、鉱山で手に入れた珍しい水晶によって得た力であること。習得したスキルが図鑑へ登録され、現在はサラとも共有していること。


カレンは腕を組み、黙って最後まで聞いていた。


「そんな秘密を、私に話していいのかい?」


「シロちゃんを隠し続けるのは無理だからな。それに、カレンなら悪用しないと思っている」


「信頼されるのは嬉しいけど、ずいぶん危ないものを抱えていたんだね。分かった。この話は、私の胸の中にしまっておくよ」


「カレンの胸なら、たくさん秘密が入りそうだっピ!」


「シロちゃん!」


今度は俺とサラの声が重なった。


カレンは腹を抱えて笑い、リオナまで尻尾を揺らして笑っている。


こうしてミネルとカレンも、《スキル図鑑》とシロちゃんの存在を知ることになった。


ただし、水晶の欠片と転職の力については話していない。


すべてを明かすことと、信頼する相手へ必要なことを話すのは違う。


そこだけは、これからも慎重に考えるつもりだ。


夜。


家へ戻ったシロちゃんは、当然のように俺たちの寝室までついてきた。


「ルナト、シロちゃんはどこで寝ればいいっピ?」


「空いている部屋があるだろ」


「生まれたばかりで、一人では寂しいっピ。サラの胸の谷間で寝たいっピ!」


「絶対に駄目です!」


「それなら、リオナの胸で我慢するっピ!」


「だから、なぜ私が妥協案なんだ!」


シロちゃんが逃げ、サラとリオナが追いかける。


俺は笑いながら、その様子を眺めていた。


小さな畑を守り、仕事をして、仲間と食卓を囲み、ときどき新しいスキルを覚える。


そこへ今日から、白くて騒がしい案内役が加わった。


俺たちの家は、昨日までより少しだけ賑やかになった。


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