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第25話 俺たちのスキル図鑑



 新しい家で迎えた最初の朝。


 昨日は荷物を運び終える頃には、すっかり夜になっていた。


 俺とサラは一番広い寝室。


 リオナは廊下を挟んだ向かいの部屋で眠った。


 まだ婚姻の手続きを終えていないため、昨夜は二つの寝台を並べて使っただけだ。


 それでも朝から、なぜかリオナは楽しそうだった。


「二人とも、おはよう。昨夜はよく眠れた?」


「ああ」


「本当に眠っただけ?」


「昨日は疲れていましたから」


 サラが答える。


 俺が贈った銀の指輪は細い紐へ通され、彼女の胸元で揺れていた。


「じゃあ、今日は眠るだけじゃないんだ?」


「リオナさん」


 サラの顔が赤くなる。


「朝からからかわないでください」


「だって、今日から本当の夫婦になるんでしょ?」


「……はい」


 恥ずかしそうにしながらも、サラは否定しなかった。


 俺たちは朝食にパンとスープを食べ、婚姻を登録するため町の役所へ向かった。


 役所は冒険者ギルドから少し離れた広場にある。


 石造りの二階建てで、住民登録や土地、商売に関する手続きをまとめて扱っているらしい。


「婚姻の登録をしたい」


 受付で告げると、穏やかな顔をした年配の男性が書類を出してくれた。


「お二人とも、身分証をお持ちですか?」


「冒険者カードならある」


「そちらで構いません」


 俺とサラは、それぞれの冒険者カードを差し出した。


 職員が魔道具の上へカードを置くと、薄い光が走る。


「ルナトさん、十九歳。サラさんも十九歳。双方とも犯罪歴はありませんね」


「はい」


「婚姻に、ご本人たちの自由な意思で同意していますか?」


「ああ」


「はい」


 俺たちは同時に答えた。


 自由な意思。


 その言葉が胸に残る。


 家族に売られたとき、俺たちの意思を尋ねる者はいなかった。


 鉱山で働かされていたときも、逃げるまで何一つ自分で決められなかった。


 だが、今日は違う。


 俺もサラも、自分の意思でここへ来た。


「それでは、こちらへお名前をお願いします。文字を書くのが難しければ、拇印でも構いません」


 職員が書類を指差す。


 俺はペンを握った。


 鉱山では文字を書く機会など、ほとんどなかった。


 町へ来てから依頼書を読むために練習しているが、自分の名前を書くことにもまだ慣れていない。


 ゆっくりと、ルナトと記す。


 隣では、サラが俺よりも丁寧な文字で名前を書いた。


「証人がお一人必要になります」


「あたしがいるよ」


 後ろで待っていたリオナが、すぐに前へ出た。


「お二人とのご関係は?」


「家族です」


 迷いのない答えだった。


 職員が少しだけ首を傾げる。


「血縁関係でしょうか?」


「血は繋がってないけど、大切な家族だよ。それじゃ駄目?」


「いいえ。お二人の婚姻を確認できる成人であれば、友人や冒険者仲間でも構いません」


「じゃあ、家族で」


 リオナが証人の欄へ名前を書く。


 普段の明るい表情とは違い、書いている間はとても真剣だった。


「確かに受理いたしました」


 職員が書類を確認し、最後に印を押す。


 乾いた音が響いた。


 その瞬間。


 俺の目の前に、淡い光の文字が浮かび上がった。


《サラとの婚姻が成立しました》


《家族との強い絆を確認しました》


《スキル図鑑がサラと共鳴します》


《サラに《スキル図鑑》の閲覧・登録権限を付与しました》


《双方が登録した初級スキルを統合します》


 次々と文字が現れる。


 予想もしていなかった表示に、俺は声を失った。


「これは……」


 隣で、サラも何もない空間を見つめていた。


「サラにも見えるのか?」


「はい。私の前にも文字が……」


 職員とリオナが、不思議そうに俺たちを見る。


「どうかされましたか?」


「いや……何でもない」


 図鑑のことを、ここで説明するわけにはいかない。


 表示はまだ続いている。


《短剣術を登録しました》


取得者:サラ


《気配察知を登録しました》


取得者:サラ


《応急手当を登録しました》


取得者:サラ


《料理を登録しました》


取得者:サラ


《洗濯を登録しました》


取得者:サラ


《掃除を登録しました》


取得者:サラ


《裁縫を登録しました》


取得者:サラ


《重複している登録済みスキルを確認しました》


《隠密》

《鍵開け》

《逃走》

《魔力感知》


《重複したスキルは一種類として登録されます》


登録数:28/90


 二十一だった登録数が、一気に二十八まで増えた。


 サラがこれまで身につけてきた技術が、俺の図鑑へ統合されたのだ。


「二十八……」


 サラが小さな声で呟く。


「私が習得していたものも、登録されています」


「ああ」


「では、ルナトにも《料理》が使えるようになったのですか?」


「いや、違うみたいだ」


 図鑑へ意識を向ける。


《料理》――登録済み

取得者:サラ


習得のヒント:食材の性質を理解し、複数の調理法を実践する。


 図鑑には登録されているが、俺自身が《料理》を習得した感覚はない。


「スキルを共有したわけじゃない。二人が習得したスキルを、一つの図鑑へ登録したみたいだ」


「つまり、私が新しいスキルを覚えれば……」


「それも図鑑へ登録されるはずだ」


 サラの蜂蜜色の瞳が輝く。


「私も、図鑑を埋められるのですね」


「ああ」


 最初に《スキル図鑑》を得たとき、俺一人で全てのスキルを集めるものだと思っていた。


 剣も魔法も、料理も裁縫も、何もかも自分で習得しなければならない。


 だが、そうではなかった。


「俺の図鑑じゃなくなったな」


「え?」


「俺たちの図鑑になったみたいだ」


 サラが目を見開く。


 やがて、胸元で両手を重ね、嬉しそうに微笑んだ。


「はい。二人で一緒に埋めていきましょう」


「二人だけで話して、どうしたの?」


 リオナが俺たちの間へ顔を出す。


「あとで説明する」


「また秘密?」


「大事な話だから、家へ帰ってから話したい」


「分かった」


 リオナは気になる様子だったが、それ以上は尋ねなかった。


「本日より、お二人は法的にも夫婦となります」


 職員が俺たちへ声をかける。


「婚姻証明書の発行には千G必要ですが、いかがしますか?」


「お願いします」


 サラが即答した。


 俺が代金を支払うと、職員は新しい紙へ俺たちの名前と日付を記し、役所の印を押した。


 婚姻証明書を受け取ったサラは、大切そうに両手で抱える。


「これで、本当に夫婦ですね」


「ああ」


「おめでとう、二人とも!」


 リオナが俺とサラの肩へ腕を回す。


「サラ、今日から奥さんだね」


「はい。ルナトの妻です」


 昨日は口にするだけで真っ赤になっていた。


 今も頬は赤いが、その表情には嬉しさが溢れている。


「ルナトは旦那さんか。ちゃんとサラを幸せにしないと駄目だよ」


「分かってる」


「無茶な依頼を勝手に受けるのも禁止だからね」


「結婚すると禁止されることが増えるんだな」


「当然です」


 サラがはっきり答えた。


「ルナトの身体は、もうルナト一人だけのものではありませんから」


「……分かった」


「サラ、言うようになったね」


 リオナに指摘され、サラは自分の発言を理解したらしい。


「そ、そういう意味ではありません!」


「どういう意味だと思ったの?」


「もう、知りません!」


 サラが婚姻証明書を抱えたまま、先に役所を出ていく。


 俺とリオナは、笑いながらそのあとを追った。


 役所を出たあと、俺たちは神殿へ向かった。


 婚姻自体はすでに成立したが、サラが神の前でも誓いを立てたいと言ったからだ。


 神殿は町の北側にある。


 白い石で造られた、小さくも美しい建物だった。


 高い窓から光が差し込み、床へ色鮮やかな模様を描いている。


 俺は神を信じているわけではない。


 鉱山でどれほど祈っても、助けが来ることはなかった。


 それでも、サラが望むなら誓いを立てたいと思った。


 神官へ事情を話すと、奥にある祭壇へ案内された。


「盛大な式でなければ、寄付だけで誓いを立てられます」


 俺たちは千Gを寄付した。


 祭壇の前へ並ぶ。


 サラが俺の左側に立ち、リオナが少し離れた場所から見守っていた。


「ルナト。あなたはサラを妻とし、喜びも悲しみも分かち合い、生涯大切にすると誓いますか?」


「誓う」


「サラ。あなたはルナトを夫とし、喜びも悲しみも分かち合い、生涯大切にすると誓いますか?」


「誓います」


「では、誓いの証しを」


 何をすればいいのか分からず、神官を見る。


「指輪の交換や、口づけをするのが一般的です」


「指輪は一つしかない」


「もう一つ、あります」


 サラは腰の小袋から、細い銀の指輪を取り出した。


 俺が贈ったものとよく似ているが、葉の模様は刻まれていない。


「いつ買ったんだ?」


「今朝、リオナさんと一緒に」


「ルナトだけ指輪がないのは寂しいでしょ?」


 リオナが笑う。


「私のお金で買いました。高価なものではありませんが、受け取ってくれますか?」


「ああ。もちろんだ」


 俺はサラの指へ、葉の模様が刻まれた指輪を通した。


 サラも俺の左手を取り、薬指へ銀の指輪を通す。


「これから、よろしくお願いします。あなた」


「あなた?」


「夫をそう呼ぶことがあると聞きました」


 サラが恥ずかしそうに微笑む。


「嫌でしたか?」


「嫌じゃない。ただ、慣れないな」


「私もです」


「二人とも、口づけが残ってるよ」


 リオナに急かされる。


 神官まで微笑みながら待っていた。


 俺はサラの頬へ手を添える。


「してもいいか?」


「夫婦なのですから、聞かなくてもいいですよ」


「それでも聞きたい」


「……はい。してください」


 サラが目を閉じる。


 俺は彼女の唇へ、ゆっくり自分の唇を重ねた。


 昨日よりも長く、温かい口づけ。


 唇が離れると、神殿の静けさの中に拍手が響いた。


「おめでとう!」


 リオナだ。


「お二人と、そのご家族に祝福がありますように」


 神官の言葉を聞き、サラが俺の手を握る。


 二人の指輪が触れ、小さな音を立てた。


 神殿を出たあとは、夕食の材料を買いに市場へ向かった。


「今日はお祝いですから、少し豪華にしましょう」


 サラが次々と食材を選んでいく。


 鶏肉。


 新鮮な野菜。


 白いパン。


 果物と、少し高価な蜂蜜。


「誰か呼ぶのか?」


「ミネルさんとカレンさんも呼びませんか?」


「二人が来たら、かなりの量が必要になるぞ」


「特にミネルは食べるからね」


「ですが、お世話になっていますから」


 食材を多めに買い、最初にカレンの工房へ向かった。


 今日も金属を叩く音が響いている。


「カレンさん」


 サラが工房へ入る。


「何だ?」


「今日、私とルナトが結婚しました」


 カレンの槌が止まる。


「そうか」


「驚かないの?」


 リオナが聞く。


「昨日、妻だと言っていた」


「あれは、まだ家を借りるために言っただけだったんです」


「違いが分からん」


「今日は本当に夫婦になったんです。よかったら、夕食を一緒に食べませんか?」


 カレンは火床と作業台を見る。


「剣の作業がある」


「料理を持ってきましょうか?」


「何時だ?」


 断るかと思ったが、参加するつもりらしい。


「日が沈む頃です」


「分かった。それまでに作業を終える」


 次に宿へ行き、ミネルの部屋を訪ねた。


「結婚祝いの食事?」


 寝癖のついた金髪のまま、ミネルが扉から顔を出す。


「ああ。新しい家で食べる」


「行くわ」


 返事が早い。


「祝いの言葉はないのか?」


「おめでとう。料理は何が出るの?」


「祝う気がないだろ」


「あるわよ。とても祝っているわ」


 ミネルは空腹らしく、お腹を押さえている。


「ミネルさんも、もう少し身なりを整えてきてくださいね」


 サラが乱れた寝間着を見る。


「結婚祝いなのですから、その格好では駄目です」


「着替えるわよ」


「髪も梳いてください」


「分かったわ」


「顔も洗ってください」


「私は子供じゃないのよ?」


「言われる前にできれば、言いません」


 サラは結婚した初日から、普段と変わらずミネルの世話を焼いていた。


 新しい家へ戻り、三人で夕食の準備を始める。


 サラが鶏肉を切り、俺は野菜の皮を剥く。


 リオナには火の番を頼んだ。


「お風呂を沸かす火も必要だね」


「夕食が先です。火を消さないでくださいね」


「分かってるよ」


「本当に?」


「信用がないなあ」


 しばらくすると、台所から肉と野菜の焼ける香りが漂い始めた。


「味見をお願いします」


 サラが木の匙を差し出す。


 一口飲む。


 鶏肉の旨味と野菜の甘さが溶け込んだ、温かいスープだ。


「うまい」


「本当ですか?」


「ああ。毎日飲みたいくらいだ」


「でしたら、毎日作ります」


 サラが嬉しそうに笑う。


 その横に、図鑑の文字を思い浮かべる。


《料理》――登録済み

取得者:サラ


 これは図鑑を埋めるためだけの情報ではない。


 サラが今まで生きてきた証しなのだ。


「どうしたのですか?」


「いや。サラが覚えてきたことが、図鑑に残るのはいいなと思って」


「私も嬉しいです」


「新婚らしい会話してるねえ」


 リオナが火のそばからこちらを見ていた。


「火が弱くなっていますよ」


「あっ」


 日が沈む頃、カレンとミネルがやってきた。


 ミネルは珍しく髪を綺麗に整え、白と薄緑色のローブを着ている。


 カレンも白いタンクトップではなく、灰色の長袖と黒いズボンという格好だった。


「カレン、胸が少し苦しそうだね」


 リオナが彼女の服を見る。


「工房で着る服ではないからな」


 身体に合った長袖の下でも、巨峰のような二つの膨らみは隠せていない。


「ルナト」


 サラに名前を呼ばれる。


「見てない」


「まだ何も言っていません」


 今日は何度目だろう。


 全員が居間の机を囲む。


 椅子は四脚しかないため、俺が古い木箱へ座った。


「二人とも、結婚おめでとう」


 リオナが飲み物の入った器を持ち上げる。


「おめでとう」


 カレンが続く。


「おめでとう。それじゃ、食べてもいい?」


 ミネルはすでに匙を握っていた。


「まだです」


 サラが止める。


「料理が冷めるわ」


「一言くらい待てませんか?」


「もうおめでとうと言ったでしょう?」


「では、皆さん。今日は私たちのために来てくださって、ありがとうございます」


 サラが少し緊張しながら頭を下げる。


「私とルナトは、今日から夫婦になりました。まだ分からないことばかりですが、これからもよろしくお願いします」


「よろしく頼む」


 俺も頭を下げた。


「じゃあ、二人の結婚と、新しい家に!」


 リオナの声に合わせ、全員で器を重ねた。


 食事が始まる。


 ミネルは驚くほどの勢いで料理を食べた。


 カレンも無言だが、何度もスープをおかわりしている。


「サラ、料理屋を開けるんじゃない?」


 リオナが言う。


「そこまでではありません」


「うまい」


 カレンが短く言う。


「毎日作るべきだ」


「毎日は大変です」


「金は払う」


「そういう問題ではありません」


「私は魔法を教えるから、食事をつけて」


「ミネルさんは、すでに食事つきの授業料でしょう?」


「夕食も必要よ」


「自分で作ることを覚えてください」


 賑やかな声が、家の中へ響く。


 鉱山にいた頃、食事は生き延びるために口へ入れるものだった。


 誰かと笑いながら食卓を囲む日が来るとは、考えたこともない。


 食事のあと、蜂蜜をかけた果物を出した。


 それも食べ終えると、ミネルは満足そうに椅子の背へ寄りかかる。


「毎日ここで暮らしたいわ」


「駄目です」


 サラが即答する。


「どうして?」


「ミネルさんには宿があります」


「家族なら一緒に暮らしていいのでしょう?」


「いつ家族になったのですか?」


「今日?」


「なっていません」


 リオナが腹を抱えて笑う。


 カレンも表情は変わらないが、口元がわずかに緩んでいた。


 夜が深くなり、カレンとミネルは帰っていった。


 三人だけになった居間で、俺は図鑑についてリオナへ説明した。


 水晶のすべてを話すことには、まだ迷いがある。


 それでも、婚姻によってサラにも図鑑が見えるようになったことは伝えたかった。


「サラが覚えたスキルも、同じ図鑑に入ったの?」


「ああ。二十八種類まで増えた」


「すごい! じゃあ、あたしのスキルも?」


「今のところ、登録されていない」


 リオナの獣耳が、わずかに伏せられる。


「そっか。あたしは、まだ本当の家族じゃないんだね」


「違います」


 サラがリオナの手を握った。


「図鑑が何を基準にしているのか、まだ分かりません。婚姻をきっかけにしただけかもしれません」


「でも、二人の図鑑なんでしょ?」


「今は、です」


 サラは図鑑の表示を見つめる。


「いつかリオナさんとも共鳴する方法が見つかります。私たち三人で家族になったのですから」


「サラ……」


「それまでは、一緒に探しましょう」


 リオナの尻尾が、ゆっくり持ち上がる。


「うん。あたしも図鑑を見てみたい」


「リオナが持っているスキルは多そうだな」


「弓とか追跡とか、狩り関係は任せてよ」


「共鳴したら、一気に増えそうですね」


 三人で話しているうちに、登録数が増えた実感が湧いてきた。


 俺一人では、二十一種類。


 サラと一緒なら、二十八種類。


 仲間が家族となり、それぞれの得意分野を持ち寄れば、図鑑はさらに埋まっていく。


「では、片づけはあたしがやるよ」


 リオナが食器を集める。


「私も手伝います」


「今日はいいって」


「ですが――」


「結婚した日の夜なんだから、二人でゆっくりしてきなよ」


 サラの顔が赤くなる。


「ゆ、ゆっくりとは……」


「お風呂も沸いてるよ。先にサラが入っておいで」


「リオナさんは?」


「あたしはあとで入る。片づけが終わってからね」


 リオナは笑顔でサラの背中を押した。


「お祝いだから、今日はあたしに任せて」


「……ありがとうございます」


 サラが浴室へ向かう。


 俺も食器を運ぼうとすると、リオナに止められた。


「ルナトも駄目」


「一人では大変だろ」


「大丈夫。それより、サラを幸せにしてあげて」


「ああ」


「初めてなんだから、優しくね」


 言われた意味を理解し、言葉に詰まる。


「どうしてリオナが、そんなことを知ってるんだ?」


「あたしだって二十歳の女だよ?」


「経験があるのか?」


「どうだろうね」


 リオナは答えず、悪戯っぽく笑った。


 しばらくして、浴室からサラが出てきた。


 栗色の長い髪は濡れ、白い肌が湯上がりで淡く赤らんでいる。


 身につけているのは、薄い白色の寝間着一枚だけ。


 湿った肌へ布が張りつき、胸の形や細い腰の線を柔らかく浮かび上がらせていた。


「お、お風呂が空きました」


「ああ」


 サラは恥ずかしそうに胸元を両腕で隠している。


 それでも、寝室へ向かう前に足を止めた。


「ルナト」


「何だ?」


「待っています」


 小さな声で告げ、寝室へ入っていく。


「ほら、早く入ってきなよ」


 リオナが俺の背中を押す。


「サラを待たせたら駄目だよ」


 俺は風呂へ入り、身体を洗った。


 怪我をした左腕へ湯が触れると少し痛んだが、気にしている余裕はなかった。


 浴室を出ると、居間にはもうリオナの姿がない。


 自分の部屋へ戻ったらしい。


 寝室の扉の前に立つ。


 扉の向こうには、今日から俺の妻になったサラがいる。


 そして、俺たち二人で共有することになった《スキル図鑑》がある。


 胸の鼓動が速くなる。


 俺は一度深く息を吸い、静かに扉を開けた。


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