表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/59

第15話 森ゴブリン討伐



 翌朝も、俺たちは魔法練習場へ向かった。


 今日はサラから指導を受ける。


「昨日、身体の中にある道を意識するよう伝えましたね」


 ミネルがサラの正面へ座った。


「はい。胸から腕へつながる道を、何度も想像しました」


「それでは、右手を出してください」


 サラが右手を差し出す。


 ミネルは片手を重ね、もう片方をサラの胸元へ近づけた。


「触れますよ」


「はい」


 服の上から、胸の中心へ手を置く。


 サラの身体が少しだけ緊張した。


「力を抜いてください」


「分かってるんですけど……胸に手があると、少し気になって」


「魔力の位置を確認するためです」


 ミネルが真面目に答える。


 横にいるリオナの尻尾が、面白そうに揺れていた。


「なにか言ったら怒りますよ」


 サラが先に釘を刺す。


「まだ何も言ってないよ」


「言いそうな顔をしてます」


「獣人の顔は、人間より正直だからね」


「尻尾も正直だな」


 俺が言うと、リオナの尻尾に脚を叩かれた。


 ミネルの魔力が、サラの身体へゆっくり流れ込む。


「今の感覚を覚えてください。胸から肩、腕、手のひらまでです」


 サラは目を閉じたまま頷いた。


 しばらくして、ミネルが手を離す。


「自分の魔力で、同じ道を通してください」


 サラが練習を始める。


 俺も少し離れた場所へ座り、自分の魔力へ意識を向けた。


 腹の奥にある温かさ。


 昨日、ミネルから教えられた通り道を思い出す。


 腹から胸。


 胸から右肩。


 右肩から腕。


 そして手のひらへ。


 魔力を一気に動かそうとしない。


 まずは、腹から胸まで。


 温かさが、わずかに上へ動く。


 昨日より、はっきり分かった。


 その状態を維持する。


 次に、右肩へ。


 途中で流れが止まった。


 力を入れて押し出そうとすると、魔力が腹へ戻ってしまう。


 もう一度だ。


 最初からやり直す。


 腹から胸。


 胸から右肩。


 魔力が、細い道をゆっくり進む。


 肩の内側が温かくなった。


 ここまでは初めてだ。


 気を抜かず、右腕へ流す。


 肘の辺りで止まりかける。


 無理に押さない。


 水が低い場所へ流れるように、自然な道を想像する。


 温かさが肘を越えた。


 前腕。


 手首。


 そして、右の手のひらへ届く。


「来た……」


 目を開ける。


 見た目には何も変わっていない。


 光も出ていない。


 それでも、手のひらに魔力が集まっていることが分かる。


 意識を緩めると、魔力はゆっくり腹へ戻っていった。


《魔力操作を習得しました》

《初級スキル図鑑へ登録します》


登録数:19/90


「習得した」


 俺の声に、ミネルが振り返る。


「《魔力操作》ですか?」


「ああ。右手まで動かせた」


「もう一度、同じことができますか?」


「やってみる」


 再び腹の奥へ意識を向ける。


 一度目より時間はかかった。


 それでも、同じ道を通って右手まで魔力を動かすことができた。


 ミネルが俺の手首へ指を添える。


「確かに、魔力が集まっています」


「これで次へ進めるか?」


「一度成功しただけです。まずは、安定して動かせるようになってください」


「次は《魔力放出》じゃないのか?」


「まだ早いです」


 即答された。


「今日中に魔法を撃つのは?」


「不可能です」


「明日は?」


「まず《魔力操作》を安定させてください」


 石壁の上から、リオナが笑う。


「先は長そうだね」


「ああ。でも、少しずつ進んでる」


 スキルを習得しても、自由に使いこなせるわけではない。


 右手へ動かすだけでも、集中が必要だ。


 戦闘中に使える状態ではなかった。


「サラはどうですか?」


 ミネルが尋ねる。


「胸から肩までは、少し動いた気がします」


「十分です。感覚を忘れないうちに、もう一度試してください」


「はい」


 サラは目を閉じ、練習を続けた。


 今日中に習得することはできなかった。


 それでも、昨日より先へ進めたらしい。


 悔しそうな顔はしていなかった。


「明日は、もっと右手に近づけると思う」


 練習場を出る際、サラが自分の手のひらを見ながら言った。


「ああ。焦らず続けよう」


「うん」


     ◇


 翌朝。


 俺とサラ、リオナの三人は、森ゴブリン討伐へ出発した。


 ミネルの魔法授業は休みだ。


 毎日練習場へ通えば、それだけで使用料と授業料がかかる。


 依頼を受けて、Gも稼がなければならない。


 町の北東にある森まで、歩いて二時間ほど。


 道中、リオナから森ゴブリンについて教わった。


「森ゴブリンは、普通のゴブリンより小柄。でも、森の中では厄介だよ」


「木や草に隠れるから?」


 サラが尋ねる。


「それもある。弓や吹き矢を使う個体もいるし、簡単な罠を作ることもある」


「毒は?」


「吹き矢に塗る場合がある。強い毒ではないけど、身体がしびれる」


 俺は《スキル図鑑》を開き、未登録の項目を確認した。


《罠発見》――未登録

習得のヒント:不自然な地形や人工的な痕跡を見分け、仕掛けられた罠を発見する。


《魔物知識》――未登録

習得のヒント:複数の魔物について学び、特徴、習性、弱点を理解する。


 どちらも、この先必要になる。


 だが、話を一度聞いただけで習得できるものではない。


「依頼では三体となってるけど、それ以上いたらどうする?」


 俺が尋ねる。


「数によるね。四体なら戦い方を考える。十体いたら戻って報告」


「倒さないのか?」


「三人で十体に突っ込むのは、勇敢じゃなくて無謀」


 リオナが真面目な顔で答えた。


「依頼を達成することより、生きて帰るほうが大事だよ」


「ああ」


 鉱山から逃げた直後なら、俺は強くなるために無理をしたかもしれない。


 だが、今はサラもいる。


 リオナも一緒だ。


 一人の判断で、全員を危険に巻き込むわけにはいかない。


     ◇


 森へ入る前に、装備を確認した。


 俺は片手剣と丸盾。


 サラは腰に短剣。


 リオナは弓と矢、解体用の短剣。


「ここからは、私とサラが先へ行く」


 リオナが言った。


「ルナトは少し離れてついてきて。私たちが止まったら、すぐ止まること」


「分かった」


「本当に?」


「どうして毎回確認するんだ」


「大型のフォレストハウンドに一人で飛び出したから」


「何度その話をするつもりだ」


「ルナトが忘れなくなるまで」


 リオナとサラが先へ進む。


 俺は十歩ほど距離を空けて後を追った。


 二人とも《隠密》を使っているのか、ほとんど足音を立てない。


 特にリオナの動きは自然だった。


 音を消そうと慎重になりすぎていない。


 普段どおり歩いているように見えるのに、枝も小石も踏まない。


 何年も森で狩りをしてきた経験の差だろう。


 しばらく進むと、リオナが片手を上げた。


 全員が止まる。


 リオナは地面を調べたあと、近くの木を指さした。


 幹の低い位置に、刃物で削ったような跡がある。


「森ゴブリン?」


 サラが小声で尋ねる。


「たぶん。自分たちの縄張りへ印をつけてる」


 さらに進む。


 鼻につく臭いが漂ってきた。


 腐った肉と、煙の混ざった臭いだ。


 リオナが茂みの陰から、奥の様子を確認する。


 次にサラが覗いた。


 二人が俺のところへ戻ってくる。


「四体」


 リオナが指を四本立てた。


「木の下に三体。少し離れた場所に、弓を持った一体がいる」


「弓から倒す?」


「うん。私が狙う。ただ、近くの木が邪魔で首を狙えない」


「当てたあと、俺が前へ出ればいいか?」


「矢を受けた個体が倒れなければ、弓を撃ち返してくる。盾を前に出して」


「サラは?」


「ルナトの後ろ。後ろや左右から回り込む個体がいないか確認して」


 サラが頷く。


「分かりました」


 俺たちは少しずつ位置を変えた。


 茂みの向こうに、森ゴブリンの姿が見える。


 人間の子供ほどの背丈。


 緑がかった肌。


 腰には汚れた布を巻き、手に棍棒や石の短剣を持っている。


 少し離れた一体だけが、粗末な弓を持っていた。


 リオナが矢をつがえる。


 呼吸を止めた。


 弓弦が鳴る。


 矢が木々の間を抜け、弓を持つゴブリンの肩へ刺さった。


「ギャッ!」


 森ゴブリンたちが一斉に立ち上がる。


「行くよ!」


 俺は盾を構え、茂みから飛び出した。


 負傷した弓持ちが、矢をつがえようとする。


 リオナの二本目が先に飛んだ。


 胸へ刺さり、ゴブリンが後ろへ倒れる。


 残り三体。


 棍棒を持った一体が、俺へ向かってくる。


 盾で受け止める。


 力はフォレストハウンドより弱い。


 棍棒を横へ逸らし、剣を振る。


 刃が森ゴブリンの肩から胸へ入った。


 血が飛ぶ。


 ゴブリンが倒れる。


 残り二体。


「右から来る!」


 サラの声が聞こえた。


 石の短剣を持つ一体が、木の陰から回り込んでいた。


 俺は身体の向きを変え、盾を前へ出す。


 短剣が盾へぶつかった。


 その瞬間、もう一体が俺の左側へ近づく。


 二体を同時には相手にできない。


 矢が飛んだ。


 左側のゴブリンの脚へ刺さる。


 リオナだ。


 俺は正面の一体へ集中した。


 盾を押し出し、森ゴブリンの体勢を崩す。


 剣を横へ振った。


 刃が首へ入り、ゴブリンが地面へ倒れる。


「サラ!」


 脚へ矢を受けた最後の一体が、逃げようとしていた。


 サラが先回りする。


 短剣を構えた。


 森ゴブリンが、サラへ棍棒を振る。


 サラは後ろへ跳び、攻撃を避けた。


 すぐには反撃しない。


 相手の動きをよく見ている。


 もう一度、棍棒が振られる。


 今度は横へ避けた。


 森ゴブリンの身体が流れる。


 サラは懐へ入り、短剣を脇腹へ突き立てた。


「ギィッ!」


 森ゴブリンが苦痛の声を上げる。


 それでも倒れない。


 棍棒を持ち上げようとする。


 俺は駆け寄り、剣で腕を斬った。


 棍棒が落ちる。


 サラが短剣を引き抜き、もう一度胸へ突き刺した。


 森ゴブリンは地面へ膝をつき、そのまま倒れた。


「サラ、大丈夫か?」


「うん。怪我はない」


 呼吸は荒いが、震えてはいない。


 角ウサギと戦った経験が生きている。


「四体、全部倒したね」


 リオナが周囲を確認しながら近づいてきた。


「でも、油断しないで。まだ近くに仲間がいるかもしれない」


 三人で警戒を続ける。


 しばらく待っても、新しい気配は現れなかった。


「解体は必要ないのか?」


 俺が尋ねる。


「ゴブリンの肉や皮は買い取ってもらえない。討伐証明の右耳と、使えそうなものだけ回収する」


 ゴブリンが持っていた弓や短剣を確認する。


 どれも粗末な作りだった。


 売れても、大した金額にはならないらしい。


 右耳を四体分回収する。


 依頼に必要なのは三体分だが、追加分も買い取ってもらえる。


「初めてのゴブリン戦は、どうだった?」


 リオナが尋ねる。


「思っていたより動きが速かった」


「それに、仲間と挟もうとしてきた」


 サラも答える。


「魔物だからといって、何も考えていないわけではないよ」


 リオナが弓を背負う。


「でも、二人ともよく動けてた。ルナトは一人で突っ込まなかったし」


「まだ言うのか」


「褒めてるんだよ」


「サラも、相手の攻撃を見てから動けてた」


「リオナと練習したからです」


 サラが少し嬉しそうに笑う。


 これで、リオナと受けた二度目の依頼も達成できた。


 俺たちは町へ戻った。


     ◇


 冒険者ギルドで右耳を提出する。


 依頼報酬一万二千G。


 追加の一体分として、二千Gが加算された。


 三人で分ける。


「次も一緒に受ける?」


 ギルドを出たところで、リオナが尋ねた。


「俺は、そのつもりだ」


「私も」


 サラも頷く。


「じゃあ、次で三回目だね」


 リオナの尻尾が、嬉しそうに揺れた。


「三回目で、正式なパーティーにするか決めよう」


「分かった」


 まだ、リオナのことをすべて知っているわけではない。


 リオナも、俺たちの過去や水晶の秘密を知らない。


 それでも、一緒に戦うたび、少しずつ互いのことが分かってきた。


 仲間になるというのは、きっとこういう積み重ねの先にあるのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ