表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

13. 少年の手紙



 4月20日



 今日は私の心を奪う、ふたつのすばらしい出会いがありました。


 ひとつは、大きな生き物たちとの出会いです。

 彼らがおそろしい生き物だということは、図鑑で見たことがあるので知っていました。

 けれど実際に見る彼らは、おそろしくもかわいい生き物でした。

 前足の形が、クリームパンに似ているんですよ。


 あかりの言い方にならうと、『ねこ』といいます。


 そうそう。もうひとつは、あかりという名前の女の子です。

 黒い髪と黒い瞳の、遠い国から来たという女の子です。

 あかりは、ねこが大好きなのです。


 最初に彼女を見たとき、彼女は大きな生き物に襲われて、死にそうな怪我を負っていました。

 けれど、彼女は真っすぐに顔を上げて、両手を差しのべたのです。

 まるで、何かにそう命じられたかのように。


 不思議な光景でした。

 大きな恐ろしい生き物が、彼女の腕の中で、小さな小さなねこに変わったのです。


 あかりの、まっすぐに射貫くようなまなざしは素敵です。

 でも、笑った顔のほうが好きです。



 小麦色で毛の長いねこを、今日から預かっていいことになりました。

 さわると温かで、ぐにゃりとしていて、けれど抱き上げるとしなやかな反発を感じます。


 彼は私の部屋を念入りに嗅ぎまわっては、琥珀色の目を細めて、小さな顔を熱心にこすりつけます。

 何かのかどっこが好きなようです。

 今は気が済んだのか、ソファーの上で眠っています。

 

 ねこは間違いなく、私が今までに見たものの中で、最もかわいらしい生き物です。



 あかりもまた、しばらく家にいてくれるそうです。

 お父さまを助けてくれたことも、明日きちんとお礼を言いたい。

 できるかぎり、努力するつもりです。


 そういうわけで、私の12回目の誕生日は、すばらしい日になりました。

 今日が終わることが、残念なくらいです。

 けれど明日からは、ねことあかりと一緒にいられるのです。

 だから、朝が待ち遠しくもあります。

 

    愛をこめて

      レオンハルト





 少年は長い息をついて、瞼を開けた。

 彼の手元にある便箋は、まだ白紙のままだ。


 レオンハルトは思う。

 おそらく思考する()()ならば、自分にも同じ年頃の子供と同等の、――あるいは、それ以上のことが出来るのではないか、と。

しかし彼にとって厄介なのは「表現する」ことだった。


 言葉を発することは、雪を捕まえることに似ていた。

 雪は空の高みから落ちてくる。

 彼のあずかり知らぬところから、彼の視野いっぱいにとめどなく産み落とされてくる。

 そのくせ掌に触れた途端、幻のように消えてしまう。

 美しい結晶は、二度と還らない。


 とまどい、立ち尽くす少年を置き去りに、雪はたちまち降り積もる。

 それは意思を持つかのように、ひとりでに形を成していく。

 城ができる。

 街ができる。

 途方に暮れる彼の目の前で、まっさらな世界が築かれていく。

 誰にも見せることのできない世界が。



 レオンハルトの胸中には、いつも膨大な思考だけがあった。

 それを他者に伝えることができないまま、彼はその輝かしい虚しさに圧倒され、失望してしまうのだ。



 ――努力しなければ。

 ほんの拙い言葉であっても、たとえそれが的外れなものであろうとも、何も伝えないよりはずっとましなのだ。


 レオンハルトはペンを握りなおす。

 「書く」ことは「喋る」ことよりも、彼にとっていくらか易しかった。


(――あ、わすれてた)


 ペンを数文字走らせたところで、彼は嘆息した。

 今日は、父からプレゼントをもらったのだった。

 それは忘れてはいけない話題だろう。いくら過密な日だったとは言え、それは親の愛情に対して薄情というものだろう。

 ペンを置き、彼は再び目を閉じる。

 そうして言葉を掬いあげるため、静かに奮闘する。


 これは彼自身のひそかな訓練であり、母に宛てた手紙でもあった。

 一応は納得がいく程度に書けたなら、レオンハルトは便箋を丁寧に折り畳み、指先でつまんで、注意深く火をつける。


 たかだか数枚の紙は、あっけなく燃える。

 指先に触れる寸前に消しとどめて、それで終わりだ。


 死んだものは空の高みに還るのだという。

 確かめるすべはないが、手紙が届いていることを、彼は願う。




ブクマありがとうございます!!!!!!

もう「!」1個や2個じゃ足りないほど喜んでいます。

ありがとうございますー!!!!!!!(大声)

次回から「第二章」的な話になる(はず)ので、

おもしろく書けるよう、がんばります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ