10-3
明けても暮れても彼は私の傍にいてくださいます。
ですから私は私の語りたいときに、私の語りたいままに語るのでした。
好き勝手私の気分で、それだって彼は拾ってくださいましたから、安心してそうするのでした。
「明日が私の限界です。明々後日、私があなたにお別れを申し上げることをお許しください」
死の予告も覚悟も許されておりませんでしたけれど、思い切って私は尋ねてみました。
自由気まま自分勝手でしておりますけれど、それは彼が禁じていないことだから、その範囲内であるからでした。
このように彼がお許しでないことをするのには、大きな思い切りが必要なのです。
間があったので、お叱りを受けるのかと恐れました。
「ああ、そうか。許可しよう。明々後日、きっと明々後日だからな。頑張ってくれよ」
私の体が限界であることを、見ていた彼も知ってしまっていたのでしょう。
叱るどころか、褒めてくださったのでした。
「頑張ります。私、今まで生きてきた中でも苦しい一日だったのですけれど、今日もまた終えるのです。無駄な時間を生き長らえることに意味はないでしょうが、こうしてあなたのお傍で、一日を終えることができるのです」
抱えてきた最も素直な心で、私は喜びを彼に伝え、「頑張ります」などと言うのでした。
訪れた明日は、私が感じ取っていたとおり、私の限界でした。
何度目かの限界でありましたけれど、今までに増して辛い限界でした。
今度こそ、本当に死ぬのだと思われました。
死神が私の枕元に立っているのです。
神様だなんて奴には、初めて会いましたよ。
しかしまあ、神様のお告げというものには、こんなのものしかないのですか。神様というのは、こうも物騒で薄気味悪い奴しかいないのですか。
それとも何かが気に入らないので、わざとそういった姿で出て来てやってるのとでも言うつもりですかね。
気に入りません。
あくまでも私の主は、何があってもどうしても彼でしかないのですから、いくら神様が人々にとって重要で信仰の対象となる存在だったとしても、私の主ではないそいつの言うことを聞いてやることはできませんでした。
生意気にも命令して来るのが、無理矢理にでも私を連れて行こうとするのが、気に入らないとすら思っているくらいなのですよ。
だって私が守るべき教えは彼のお言葉なわけでしょう?
それでしたら、彼のお言葉と私との間に距離を作ろうとするそれを、どうして睨まないでいられるでしょう。
戦う覚悟も、負ける覚悟も、私にはできておりました。
けれど負けるつもりというのは、私にはさっぱりないのです。
彼と約束した明々後日、つまり今日にとっては明後日までの日を生き、その後で敗北して死に逝くための覚悟でした
それが私にとっての負ける覚悟というものだというのです。
「私があなたと約束することは、神に誓うことよりも強い力を持ちます」
約束を守れなかったとしても、約束をしていないという風に誤魔化してしまえないように、あえて私は言いました。
この私が逃げ道を作らないということは、どれほどのことであるのかご理解いただけると考えたのです。
諦めません。約束を破ることを、したくありませんから。
彼のお言葉、彼との約束、私の全てですから、大切にしたいのです。
「……だけど…………ごめん……なさい……お別れの時間です」
死神が私の腕を掴んで、離してくれそうにないのです。
もうかわせない、もう逃げられない、どうにもいられそうにないのです。
咳を吐き終えた後の言葉が、こんなに喉に詰まって吐き出しづらいだとは、かつての病がちな私だって知りませんでした。
こんなに胸が苦しくて、ただの咳一つで呼吸さえしづらくなるだとは、知りませんでしたよ。
彼から逃げないことを決めたのに、そうしたら、逃げられない運命によって彼と引き離されてしまうというのですね。
彼との約束、彼のご命令、逆らうことは初めてになりますね。
これだけの大罪を背負ったなら、最期にもう一つばかり、大きな重い罪を足してもいいのでしょうか。
「愛おしいあなたへ、私はあなたの腕の中で眠りたいのです。最期もまた、あなたの腕の中で眠りたいのです」
私が彼に愛おしいなどということも間違っていたでしょうし、この願いも間違っていたでしょう。
けれど彼を傷付けてでも、私はそうしたかったのです。
「ああ。ゆっくり眠れ。安らかに眠れ」
彼の声を遠くに聴きました。




