10-2
死ぬ前には、死ぬ準備くらいはしたいと思っておりました。
潔く死にたいと思っていた私ですから、そして美しく死にたいと思っていた私ですから、それくらいの希望はあったのです。
看取られたいという私の希望を叶えてくださっているようでありながら、死という希望を果てさせないよう見張っているようでもあるのだから、そこもまた彼の卑怯さです。
どうしたものでしょうか。どう致しましょうか。
私はどのようにしたらいいのですか。
「俺のために花は咲く。飽きたらもう散っていく」
いつかの彼はそう仰いました。
確かに彼は言ってくれました。私にそう言ってくれました。
曖昧な私の記憶の中でも、その言葉だけは脳に焼き付いているくらいでありました。
致命傷となる傷痕でした。
「あなたは一途な人ですよね。目指した場所を、いつまでもいつまでも、飽きもしないで指差しておりましょう? 見たいと思ったものは見つめ続けておりますし、ほしいと思えば手に入るまで粘ります。ああ、あなたがもっと飽きっぽい人であったらよかったのに、しつこく実に一途な人です」
恨みを込めた私の言葉が、伝わっていないはずはありませんでした。
一途な人だから信じられた、それは間違えないことでしょうけれど、今はそれが恨めしかったのです。
こんなことは私の望みであるはずがないのに、私は信じてしまったことを後悔し、それを嫌がっているようなのでした。
愛しているはずのない愛する人が、信頼するはずのない信じ頼る主君が、飽きっぽい人物であれと思うのは狂ったとも言えるほどでしょう。
欲に溺れるばかりの人が多く上に立つわけですから、私のそれは狂ったとも言える考えなのです。
「お前という花を、もう散らせはしないよ」
彼は私を強く抱き締めました。
「気障なことを言うものですね」
全力で力を込めて彼を突き放したつもりだったのですけれど、私の腕は岩を押しているというほどに、彼を少しだって動かせはしないのでした。
彼が力強いのもありましょうが、私が弱いのに違いありません。
正直、私は驚きましたよ。
こんなにも自分が弱っているだとは、思いもしなかったのです。
相変わらず彼は私に仕事をさせますし、これくらい弱っているときには一人になっている予定だったわけですから、私はまだもっと強くあれているのだと勘違いしておりました。
こんなにも、こんなにも、私は弱かったのですか。
それとも私はこれほど弱くなっているのですか。
どちらだったとしても、私には辛いところがありました。
今の私が弱いということを、認めないわけにはいかないわけですから。
今の桜は、一体どんな様子でしょうか。
彼に尋ねてみようかと思いましたが、ずっと一緒にいてくださっておりますから、彼も知らないだろうと思い留まりました。
できれば、桜を意識していることを彼に覚られたくなかったのです。
桜を彼に見せてやるのだと考えたら、それは悪くないと思えます。
「死を待っているのは、私ですか? あなたですか?」
「二人とも同じように死を待っている。そして同じように生を求めている」
瞬間、堪らなく私は眠くなりました。
そういえば、最近、そういったことが増えている気がします。
彼に失礼だとわかっていますけれど、眠ってしまうのです。眠くなって、眠ってしまうのです。
それに抗えないことは、私が永眠へと近付いていることを強制的に実感させるものでありました。
抗ってしまうと、結果として私を死へと近付けるものだとも思えました。
私は眠りました。
意志など関係なく、無理なものは無理なのですから、私は眠りました。またも。




