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「私は嘘ばかりを吐いているつもりはないのです。これでいて、それなりに正直で素直であったつもりでもあるのですよ。
心を決めた今の私の全てを語ろうという決意にはさすがに及ばないに決まっていますけれども、あなたには隠しごとをしていなかったつもりなのです。私の忠義はそこへもきちんと向いていたというわけです。
忠義の士であるということは、あなたも認識してくださっているものと私は信じております。全力の忠誠を誓っているからに、もしあなたがご命じになったとしたらば断じて私は断るということを致しません。
いつの日か、私は泣きました、私は叫びました。
それほど遠い過去ではなかったと思いますが、記憶が混乱しているのでしょう。眠っている時間が長いせいで、時間の経過を把握できていないというのもありますし、過去を振り返ることが多すぎてわからなくなっているというのもあります。
これもまた、違う形での生への執着というものでしょうか。先に進んでしまったら、きっと私は死んでしまうから、ちょっとでも足踏みをしたいと思うのです。
足踏みをしては足踏んで、進まないままにいたいのです。
そうだ、あなたが引き留めてください。傍にいてくださいだなんてことをお頼み申しましたけれど、更なるこの我が儘を、相変わらず我が儘な娘だと、聞いてください。
抱き締めてはくださいませんか? ねえ、お願い致します」
またも私が暴走して情緒不安定になって彼に迷惑を掛けてしまうのが嫌だったのです。
ですから、それなら平生でいるうちに迷惑を掛けて、我が儘してしまえと思ったのです。
そして気が狂ってしまう前に、これ以上は何もできないようにと、私により私を封じ込めてしまおうと思ったのです。
眠っている私の背中に腕を回して、覆い被さるようにして丁寧に私を抱き締めてくださいました。
混乱している私の記憶を更にかき混ぜるようです。
このままでいると、混乱しているということや、落ち着きがなくなってしまいがちだというそのことなどまで、忘れてわからなくなってしまいそうでした。
馬鹿になってしまいそうでした。
「やはりあなたは温かいのですね」
「違う、そっちが冷たいんだ。また冷たくなってしまったら、もういけないだろうから、俺の体温を吸い取れよ。俺は体温が高い方だから、好きなだけ持っていってくれ。
むしろ発熱しているくらいの俺の額を、その冷たい手で冷やしてくれよ。冷えたお前と熱がちな俺となら、ぴったりだとは思わないか? この相性は、素晴らしいものだとは思わないか?
思ってくれたところで、俺たちが願うだけじゃ叶えられない願いもある。そこまで認識している上で言っていることだから、反論をする必要はない。熱くなる必要はない。俺の熱を吸い取って、温かくさえなってくれたら。
壊させない。失わない。
人に戦わせているのだからお前も戦えと俺は言った。お前に戦わせているのだから、その分だけ俺も戦わなければならないだろうと思う。俺も戦おうと、戦うべきだろうと思う。一緒に戦って行こうじゃないか。
いや、ちゃんと命令しないと、お前は聞いてくれないんだよな。そう見えて、意外と頑固な人だから。俺と一緒に戦え、最期まで隣にいてやるから、俺の隣で戦え」
彼の強い気持ちが伝わってきました。
強く願う私に、応えてくださっているといったところでしょうか。
それが私には嬉しくて、ですが私の中でその感情が苦しさと結び付けられるのだということは変わりませんで、苦しいは苦しいわけです。
つまりどういうわけかといいますと、私と同じように彼が私のために戦ってくださろうとしていることが、喜ばしいことだっていうわけですよ。
一生懸命に念じれば気持ちは届くのです。
大切に想っていれば想っているだけ、大切な人には強い想いは伝わるのです。気持ちというのは、それくらい強力なものなのです。
同じように神様のことを強く想っていれば、神様にも想いが届くというわけでしょうか。私の理論は、そこでも活用できるものでしょうか。
しかし隣に実在している彼を想うのと同じように、存在しているかどうかもわからない、一度も会ったことがない神様とやらを強く想わなければならないというのは、中々に難しいことであるように思えました。
それに、もし想いが届かなかったとして、想いのほどを測る術などないというのに、想いが足りないのだと言えてしまうのは腹立たしいことであるとも思えました。
そういうところが神様とやらの信用ならないところなのでしょう。
こんなことを言わずに、まさか神様の存在を疑うようなことはないでいる人こそ、神様は救ってくださるのでしょうね。
神様を想う気持ちが足りないのは、そりゃあそうでしょう。疑っているのですから。
熱心に信じたところで、結果は同じであるように思えてしまっている、信徒失格なような人間なのですから。
都合よく望んだところで、私など救うものかと神様が仰るのも仕方がないのでしょう。
神様だなんだと言ったって、所詮は自らが可愛い、愚かで欲深い人間なのですから。
だって信じる者は救われるという思想は、それそのものじゃありませんか。
「戦います。二人で力を合わせて戦いましょう。そうしていくつもの戦に惨い終止符を打ってきました」
本物の神は私の隣にいるこの人なのかもしれない、そんな思考の迷路に迷い込んだ私は、私の下の彼の手に力一杯体重を乗せました。
彼の腕を傷めてしまって、私はまだ人形と成り果ててはいないのだと理解させたかったのです。




