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「桜ばかり見ているあなたが、私には不思議に思えてなりませんでした。私も桜は美しいものだと思いますけれど、それは花に限ってとしか思っていなかったからです。
今年も例に漏れずそうですけれど、花が咲くかなり前からあなたは桜を見ておいでです。いくら花の命は短いと言っても、そう一瞬で終わってしまうものでもありますまい。それでもあなたは一瞬も逃さずご覧になっておられます。
ですから不思議に思っておりました、ではなくて、不思議に思っておりますと言っても構わないくらいのことなのです。前よりはわかっているでしょうが、今でも私にはわからないのですから。
そういえばご存知ですか? 私が一から考えた策なんて、これまでほとんどなかったということを。
その様子はよくご覧になっているでしょうし、むしろそれがあったからこそあなたは私を必要としてくださったのだと思いますが、一応、私は読書が好きでいつだって書に埋もれていたのだということを認識してくださいませ。知識量はあるでしょうから、私が生み出す必要などないのです。
ですから私があなたに託そうと考えるのも、策を作るのではなく選ぶ方法なのだと言えましょう。
何がどうだから変わるというようなことでもありませんが、あくまでも私がしていたのは古いものの引用ばかりだということを知ってください。歌をお詠みしたときもそうでしたが、さも私が作ったかのような顔をするので、あなたも騙されているのではないかと考え申し上げました。
私が作った下手なものもたまには混ざっておりますが、ほとんど、そうほとんどは、輝いて然るべき元より優秀な人の作った優秀なものの、模倣に過ぎないものなのです。
その点では、私よりもよっぽどあなたの方が優れた方であるのではないかと私は考えます。私の取り柄は頭脳でしかないのですからそれ以外においては比べるまでもないとして、その頭脳に置いて考えてみたとしても、適用力や機転の利くところを見ると、あなたに私は劣りましょう。
私は冷酷で惨い策略を平気で使うことができます。もしその内容をあなたが理解してしまったとして、お優しいあなたはそれをご命じになることができるでしょうか?
何を取っても優秀なあなたが私なんかに劣るところがあったとしたら、まずそのところでしょう。私という汚れ役がいないでは、そのお優しさの下では、国は弱体化してしまうのではないかというのが私の危惧です。
意外と鳥瞰図を持っているようにも見えるあなたですが、それでもお優しいところは変わりません。
そここそが、私が必要だった理由なのではないかと考えるところもあります。当初こそ脳としての参加でしたでしょうが、吸収するようにあなたが私の存在価値をなくしていってしまうのですから、今となっては死なせる準備とてできているはずです。
美しく散れるものなら、死に時こそ人の花ではないかと私は考えます。つまり私は所謂花をあなたに奪われてしまったのではないかと思うのです。
あなたにお仕えすることを決めたときから、全てを失う覚悟はできておりました。その一部として考えますから、奪われたことさえも私のお認めしたことです。
奪われたからなんだとは言いません。そうではなくて、私は奪われたのだということを、あなたに主張したいのです。思いの丈を全て伝えると決めたものですから、そういったことも全て伝えておこうと考えただけなので、深くは考えないでください。
深く考えてくださることは、あなたが私を考えてくださるというその事実からの考えで、喜ばしくは思いますけれど、必要のないことなのでそれは勘違いなさらないように」
「お前はいつも恨めしそうに俺を見ている。そのことを俺は知っている。しかしその理由を俺は知らなかった。つまりはそういうわけだったのか?」
「そうとも言えましょうが、そうではないとも言えます。夢と現とが混乱して、私の見ているあなたというものがわからなくなって、自然とそうなってしまっているところが大きいと思いますよ。
以前も言ったことがありましたっけ? それともこれは、夢の中のあなたとのやり取りでしたっけ? そういったことが、最近の私にはわからなくなっているのです。死に損ないらしいボケ方ですよね……。
徐々にわからなくなっていって死ねるのだとしたら、死に際は楽であれそうなものではありますが、それは看取る側としては苦しいものでしょう。
これは神様のせめてもの情けでしょうか。だとしたら、少しは神様とやらを信仰してやっても構わないと思えるのですけれど。あなたを苦しめることを私にさせるという嫌がらせにも思えますから、それが私には憎いのです。
あ、憎いのはここかもしれませんね。あなたではなくて、別のものへと向けられた憎しみなのかもしれません。
間違えないで頂きたいのは、瞳に映っているのはあなただということです。あくまでもあなたを映した瞳の中で、あなた以外のものを映してしまったがために、憎悪が湧いたのかもしれません。
それもこれも、今の私の思い付きの語りです。以前、夢に見たような」




