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「私は平和というものに憧れを抱いておりました。それは過去の話ですし、今もそうなのであるかはわかりません。けれど平和を素晴らしいものと感じ、憧れていた私がいたことは間違えのないことです。
書物の中だけで見る夢幻である平和というものを、私は知りたくなりました。
知らないものを知りたいという、たったそれだけの興味でした。待っていても手に入るものとは思えませんでしたから、その憧れがあったからこそ、私はあなたにお仕えするようなことができたのだと言えましょう。
待っていても手に入るものとは思えないというのは、要するに、行動すれば手に入るものと思っていたというわけでもあります。世間知らずだったこともありまして、当時の私にはそれだけの自信があったのです。
けれど、さすがに私一人でどうにかできる問題だとは思っておりませんでした。ですからあなたが現れていなければ、行動に移すことはないまま終わっていたことでしょう。
夢は夢のまま、幻は幻のまま、現実を見ずにいられた方が、あなたも仰っていたことかもしれませんが、その方が私にとって幸せなことだったのかもしれません。実際、その方が楽をしていられるのは確かなのですから。また、私が苦労することを望まない親にとっても、そちらの方がよかったことでしょう。
私が人間として生きるためには、あなたが与えてくださった役職というのは大切なものだと言えます。あなたに必要とされている、ただそれだけのことが、私の人生を、私の存在価値というものを大きく左右するのです。
人形のように、そして機械的に、言われるがまま私は処理を行うだけの仕事を主としておりました。それは命ぜられたことではなく、そのように育ってきた私のやり方とは、そういったものしかなかったというだけです。
それでも私は生きておりました。生きて、おりました。
私は平和の作り方というものを夢想しておりました。
物語を自由に描くようなことと同じように考えていたのかもしれません。全て私の思うままになるかのように思っていたのかもしれません。その程度の戯言でした。
そのときの私は、王が優秀であると平和というものは訪れるのだと思っておりました。王が法というものを作り、それによって人々を従わせ、国を創るのだと考えておりました。
そのときのと言いますのは、つまり今の私はそうではないということです。王が欲に溺れるようなことは言語道断ですけれども、王が一人優秀だったとしても平和な世へは導かれないとわかったのです。
独裁で平和もありえなくはないのでしょうけれど、それが二代続くことはありえません。どれほど優秀な王だったとしても、一人の力で作られたものは、その一人がいなくなったら同時になくなるようなものです。
私のような立場に、私なんかではなくて、その立場こそ優秀な人が就くべきなのでしょう。
もし私が変な自惚れと欲望を出さないでいたらば、もし私が大人しく引き籠っていたらば、憧れの平和への道はもっと近かったのかもしれません。私の手で作りたい、私でなければ作れない、そんなことを考えたのが間違っていたのでしょう。
今、そのようなことを考えたところで、なんの必要もないことはわかっております。何を言わなくても構いません。私は、あなたに慰めてもらいたくて言っているのではありませんから。
『平和』だなんのとこれだけ繰り返しましたけれど、本当は、私は、平和というものがどういったものであるのかわかっていないのです。
それさえわかっていないくせして、盲目的に平和というものに憧れていたのです。今よりは少しは真面な世界で、ここが平和だと言われてしまったらば、本物を知らない私はきっと信じてしまうでしょう。その程度の想いだというのではありませんが、知らないものは知らないのでした。
今の私だって知りません。知りませんのです。
……私も知りませんけれど、あなたもきっと知りませんから、そしてだれも知らないのでしょうから、こんな私をだれも責められはしません。そうでしょうから、こうして私は堂々と言えるのです。
平和という言葉、そんな時代が存在していたのだということ、それさえ知らない人が大多数だと思います。
あなたのように想像力豊かな方であったとしても、人を殺すことやらものを盗むことやらが罪に問われるような世界、想像することは難しいでしょう?
人々を縛る法律というものは、今でも国によっていくらもあるようですね。私が作ったような阿保らしいものではなくて、しっかりとした具体例の示されたものです。
それが更に明確に、多くの人々に適用されるように、そして法に反したものを罰せられるようにできている国なのですよ! 素晴らしいとは思いませんか? 驚きではありませんか!
そんなことが可能なのですね。
だから私は憧れるのです。
私はその世界を見る人物ではありませんが、あなたはその世界を見る人物です。
その景色が見えたなら、どうかどんなものであるか私にお教え頂けませんか?
最期まで走るつもりではありますけれど、それを私はあなたに頼みます」




