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5-2


 心配をしてくださるのは嬉しいのです。

 それでも、心配されたいと思っているわけではないのです。

 彼を心配させてしまうことも嫌でしたし、心配されるということ自体も強がりな私には嫌なことでした。

 ですがここまで来て、心配するなとも言えますまい。

 それくらい、私は弱かったのです。

 弱っていたというのもありますし、元の弱さというのもありました。


 見られたくないのに見てもらいたいないなんて、とんだ我が儘だとは思いませんか?

 聞かれたくないのに聞いてほしい、知りたいのに知りたい、死んでしまいたいけれど死にたくなんてない、矛盾しています。

 私の願いはどこまでも矛盾しています。

「もう話は終わりました。ありがとうございました。取り乱してしまって、申しわけございません。……さようなら」

 心配してくださる彼を見ていたくなかったものですから、息も整わないうちに、彼を追い出そうとするのでした。

 そんな単純で見え透いた思惑を、気付かない彼であるはずがありませんのに。


 去れ去れと願うのに、彼は去ってくれる気配もありません。

 悉く、私がかっこつけようとすることを彼は禁じるのです。

 美しく潔く華々しく、とびっきり極限まで地味に、そんな私の考えを一から十まで否定するのです。

 それがどれほど私を苦しめるか、きっと彼はわかっていらっしゃいます。

 その上で、彼はそうするのでした。

 悪意に満ちた彼の物言いやら行動やらを憎むことしか私にはできません。

 辛いに決まっておりますよ。彼に仕えることを選んだのは私ですけれど、離反さえ企んでしまっておりました。

 裏切りという道は彼に封じられてしまっております。

 ですが、あえて今ここで、他国へと移ってやりたかったのです。

 彼に憎まれて死にたいなどと、奇怪な望みの生まれとも言えましょう。


 彼を望む場所へと連れていく、そうして約束したはずなのに、果たせそうになく私は殺されてしまうことになります。

 ですから未練は残るに決まっておりますし、そのうち、悪霊にでもなってしまいそうな気がするのです。

 私が彼のところで死にたくないのには、そういった理由もあったことでしょう。

 見境なくなった私は、狂って呪って祟っては、全てを地獄へ道連れにして行ってしまうような、そんな気がするのです。

 それほどの力が私にあると思っているわけではありませんが、それくらいの負の力で覆ってしまうような気がするのです。

 愛する自国に、そのようなことをしたい人はおりません。

 いくら私だってそうもまで捻くれてはおりません。


 間諜と偽ったなら、敵への投降も許されるでしょうか。私の部隊を引き連れて、私の舞台を創り上げては、敵国で彼を嘲笑うのです。

 そんな謀が彼に通用するでしょうか。

 受け入れてくださらないだなんてことはないように、知識人を自称する人材さえ存在しない、何を疑うこともないような学のない国を狙いましょう。

 たとえ怪しむものがあったとしても、「間諜を申し出て抜け出してやりました」とこちらから言ってやれば、馬鹿みたいに信じるに違いありません。

 兵法というものを何も知らない人物というのは、その程度なのです。


 ……馬鹿々々しいですね。どうせ私にはできないことですのに。

「あなたを傷付ける、最低なことをしてもいいですか?」

「俺がお前を傷付けた分だけなら、俺のことを傷付けることに遠慮はいらない」

「そうですか。それでは、いくらだって遠慮するなというわけですね。ならばお言葉に甘えてお頼みします」

 どうせ私には、結局何を考えたところで、彼から離れることなどできないのですから。

 私には彼しかいない、自らで自らを縛ってしまっているのですから。

「最期まで私のお傍にいてくださいませんか?」

 彼に傷を付けて、痛がるところを楽しみ抉りまくってやろうと、悪魔的な私が最高の至福を訴えるのです。

 優しい彼が憎かった私は、悪魔の声に従いました。

「それは結構来るものがあるな。ただ、俺がお前をそうさせているようなところもある。だから、断れないよ」

 弱々しい声でした。

 震えているのは、怒りのせいであってほしいものです。


 お忙しいところでしょうに、彼は中々去ってはくれません。

「もう眠りたいのですが、構わないでしょうか?」

 これは卑怯な手だと知っていましたが、そう頼んだ私に対しても、

「ああ、構わない。安らかに眠れるまで、俺はずっとここで見ている」

 だなんてそんなことを言うくらいなのです。

 まるで私の間違った愛しさを応援するようなものでした。



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