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5-1


 冬の寒さは弱った私の体にかなり堪えました。

 雪が溶ける頃には起き上がることもままならないところまで来ておりました。

「辛いようだったら、横になったままでいい。悪いが軽く意見を聞かせてくれないか? お前しかいないんだ」

「私程度の人ならば、いくらだっております」

「それじゃあだれか推薦してくれないか? お前の後を継いで、俺を支えてくれるような人を」

「この期に及んで、その言い方はないでしょう。だって私の知り合いなんて、あなたくらいしかいないようなものですよ」

 書を残すのはいけなくて、人を用意するのは構わない。それなら、だれかに書を託すのは許可されるのでしょうか。

 なんて、どちらにしても頼める人など私にはおりませんけれど。


「桜の調子はいかがですか?」

 用件だけ済ませて、私を休ませてくれようとしているようで、すぐに去ろうとした彼を引き留めました。

「蕾だよ」

 問いに短く返されました。

 花開いて、花散って、その先に生きる私はひどく醜い姿でしょう。

 これから強く生きる桜と、これからがない私とでは、並ぶことすら恥ずかしいものです。

 同じ瞳にそれを映す彼は、残酷な人間です。


 桜め、お前が憎いですよ。

 憎くて、憎くて仕方がないですよ。

「お前は桜が嫌いなんだって言ったな」

 そう言われてみて、いつかそんなやり取りをしたことを思い出しました。

 あれは桜の時期でしたから、一年近くも前のことになりますね。

「よく憶えていますね」

「覚えているさ。お前が残してくれるもの、全部、間違えなく覚えている。お前が何も残してくれようとしないから、細かく覚えているしかないだろ」

 布団を撫でながら、弱く強く彼は言いました。


 できるだけ何も残したくないとの考えさえ、彼はわかってしまっているようなのです。

「立派すぎるのだという桜が、そんなに嫌いか?」

「嫌いは嫌いです。ですが今は私も立派でありたいと思っているのですよ? 桜に負けないくらい、力強く散りたいって思っているのです! あなたが桜を見ている隙に散ってしまおうと考えておりましたが、違う、今の私は違う、あなたが桜を見られないくらい私を見せつけてやるって、そう思っているのです」

 どうせ知られてしまうのなら、こちらから言ってしまおうと思いました。

 自分から言ってしまうのは、心がかなり楽になることでした。

 見抜かれる恐怖もありませんし、隠している心の痛みもありません。


 彼の顔は驚きに満ちていました。

「すみません。私は諦めるつもりはないのですが、どう頑張ったとしても、最後までお支えすることはできないと思われます。どう足掻いたって、途中で消えてしまいましょう」

「だろうな」

「それはどうしたらいいのですか? 派手に散ってやりますよ、弱り果てるまで生き抜いてやりますよ、ですがあと数月で終わります。現実的に、どうしたらいいんですか?」

 これ以上では彼を置き去りだってわかっていても、不安が溢れてしまうのでした。


 止められなくなっているのを、必死に抑えて私は彼を見ます。

「俺がお前に相談するものだろう? どうしてお前が俺に質問しているんだよ」

 そのお言葉は尤もでしたが、私は続けました。

「すみません。すみません。あなたのご命令がなければ、私の独断では、何をすることもできないのです。だって私がやりたいようにしたら、きっとあなたは怒ります。だって、だって私は、あなたに見られたくないんです。ねえ、どうしたらいいんですか」

 自分で言っている意味も、もうわからなくなっています。

 それですのに、混乱の中で私は主張を続けます。

 それで楽になれると信じて。

 それで楽になれると信じて。


 いっそのこと私は殺される前に自決したいくらいなのです。

 どうせ死ぬんなら、終わりのときは自ら決めたいのです。

 精一杯かっこつけてやりたいのです。

「あぁ、私の願いを叶えさせてくれないのなら、お命じください。どうしたらいいのですか。わかんない、わかんないですよ! こんな私じゃ必要ないと仰るのなら、今すぐ消えてやります。消えてもいけないのなら、じゃあどうすればいいのです」

 ただでさえ久しぶりに頭を使いましたし説明の時点で随分と話したといいますのに、それから長々話して叫びまでしたのです。

 ずっと眠っていた私がです。

 こうなるのは当然だったことでしょう。

「ごほっ、ごほごほっ、うぅっ、ごほんごほっ」

 息もできないくらい咽てしまいました。

 それだのに、頭は冷静に冴え渡っていました。

 冷たく、客観的に、私を蔑んでいました。


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