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夏を越えた頃からでしょうか。病の進行が著しくなり、日に日に体力が衰えていっているのです。
それが自分でわからないはずがありませんでした。
ですけれど、どうにか私はそれを隠したかったのです。敵に隠すのは当然として、味方にも、彼にさえ隠していたかったのです。
弱いところを見られるのが嫌でしたし、心配されるのも嫌でした。
善良な人間というのが私は苦手でしたから、特別なだれかでもなんでもない私を、さもそうであるかのように心配などされてしまったら、居た堪れないに決まっていました。
そういったわけで、私は必死に隠していたつもりなのです。
季節は廻り今や冬、桜の枝には雪が積もっておりました。
戦乱の中では空費する金もなく、新年の祭りさえ「もうすぐ世界は平定されるから、そうしたら盛大に祝おう」だなんて言ったくらいなのです。
今年は、例年よりも凍えるようでした。それが本当にそうであるのか、私がそう感じているだけであるのか、私にはわかりませんでした。
去年までの私に比べて、今年の私は随分と弱ったものですから。
「寒いですね」
隣に座っていた彼に私は語り掛けました。
彼はただ、花のない桜をジッと見ているだけでした。
この桜に蕾がついて、花が開く頃には私はいなくなっていましょうか。それでしたら、だれも私がいなくなったことなんて、気が付かないでいてくれるでしょうか。
もう少し生きたとして、それでも花が散る頃が限界でしょう。
彼がいつも眺めている庭の大きな桜の木、お前が花を散らしたらば、同時に私の命も散りゆくのでしょう。
それならお前は派手に散ってくれるのですよ。
できるだけお前に派手に散ってもらわなければ、私を隠してくれるくらい派手に散ってくれなければなりませんよ。
そうしてお前が共に散ってくれるのなら、私は一人で散れそうですね。
本当は、最期まで彼と一緒にいたいと思っている私もいます。
ですがそうではいけないのです。私は一人でなければならないのです。そろそろ、一人になる準備をしなければならないのです。
覚悟が鈍ってしまいそうですから、駄目なんです。
「寒くないのですか?」
今は晴れていますけれど、雪が降り積もっているわけです。暖を取ることもしないで、もう一時間ほどここに座っているのです、寒くないはずはありません。
この質問にも、彼は答えませんでした。
私が隣で仕事をしておりましても、気にする様子もありませんでしたし、話し掛けても何も答えてはくれなかったのです。
黙りきりだった彼は、一言ぽつりと言いました。
「俺の何が不満だ」
恨みというよりも、哀しさのようでした。
「どうして不満などあります」
「消えようとしているからだよ。俺を見限ろうとしているんだろ? 直せることなら直したいんだ、どうか教えてくれ。俺の何が不満だ」
「ごめんなさい。そういうわけではないのです」
「なら約束を破るつもりであるのか? この俺との約束を?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。そういうつもりでも、ないのです」
彼はこちらを見ようともしません。
蕾さえない桜を眺めて、威圧的な声色だけで私を押さえ付けました。
その哀し気な色に、私は謝ることしかできませんでした。
「少しずつ俺から離れてってるだろ。このまますっかり消えてしまおうだなんて、約束を果たさず逃げようだなんて、そんなこと許すはずがあるかっ!」
ずっと静かだった彼が怒鳴りました。
驚きました。そして、怖くて堪りませんでした。
無責任な謝罪の言葉なんて吐けませんでした。
こうもまで彼が何もかもお見通しだったとなれば、何をできようはずもありません。
詳しく禁止されているというのに、それをわざわざ進んでするようなことが、私に許されるでしょうか。私に可能なことでしょうか。
そんなはずがありません。
「かっこつけるなって、そういうわけですね」
ただでさえ殿に読まれてしまって、軍師失格だったでしょうに、それどころか彼の言葉がわからないだとはさすがに言えませんでした。
そんなことでは、私の面目というものがありません。
正解だとはわざわざ言ってくれませんでしたが、私の言葉が間違えではないことは、彼の表情からわかりました。




