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小宮探偵事務所の日常  作者: 蒼 小夜
第2話 さがしもの
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9/40

2

つむぎ橋商店街の地図(挿絵)を添付しました。

よろしければどうぞ。


挿絵(By みてみん)



ペットの捜索は、時間との勝負だ。


まひろと篠原は、まず商店街の裏手にある市川家周辺を歩き回った。


家の周囲、駐車場の車の下、細い路地、小さな公園、植え込みの陰。


「ネネちゃーん。」


まひろが何度か名前を呼ぶが、子猫の鳴き声も、草むらの揺れる音も返ってこない。


篠原は時折しゃがみ込み、塀の下や物置の隙間を覗き込んでいる。


「いませんね。」


ふうっと息をつきながら篠原が腰に手を当てる。


まひろも膝をパンパンと軽く払って立ち上がった。


「うん……。」


ネネちゃんが市川家からいなくなってから一週間。


近くにいる可能性は、もう高くないのかもしれない。



二人はネネの写真を使ったチラシを見せながら、手分けして住宅街を一軒ずつ訪ね歩いた。


「すみません。この猫を見かけませんでしたか?」


年配の女性はまひろが見せた写真を眺めて首を振る。


「ごめんなさいねぇ。見てないわ。」


「ありがとうございます。」


別の家。


「三毛猫?」


庭木の手入れをしていた男性が少し考えて答える。


「見ないなあ。」


「そうですか。」


篠原は、礼を言ってその場を後にした。




何軒回っても、有力な情報は得られない。


時刻は昼に近くなり、照り返しも強くなってきた。

住宅地の道路に、逃げ水が見える。

真夏の空は、どこまでも深く青かった。


「……暑い。」


まひろが帽子のつばを少し持ち上げて額の汗を拭う。その拍子に、少しだけ足がふらつく。


篠原は無言でまひろのカバンをひょいと取り上げると、住宅地の入り口の方に目を向けた。


「少し休みましょう。」


商店街から住宅地に抜ける道の角には、自動販売機が置いてある、小さな公園がある。


二人はそこまで戻った。


 ガコン。


 ガコン。


篠原はペットボトルのお茶を2本買い、1本を木陰のベンチに座ったまひろへ差し出した。


「飲んでください。」


「ありがとう。」


まひろが受け取ると、篠原もベンチに腰掛けた。


まひろはキャップを開けると、半分ほど一気に飲み干した。


一息ついて気づくと、篠原がもう一本のペットボトルを差し出している。


まひろは首をかしげた。


「これも?」


「首に当てると少し楽になります。」


まひろは頷いて受け取ると、ひんやりとしたペットボトルを首筋へ当てた。


「気持ちいい……。」


「でしょう。」


目を細めるまひろに、篠原も口角を上げる。


人通りのない、真昼の住宅地に蝉の鳴き声だけが響いていた。



10分ほどそうしていただろうか。


「こんにちはー!」


突然耳に入った聞き覚えのある声に二人が顔を上げる。


見ると、日傘をさして買い物袋を提げた結衣が、こちらへ歩いてきていた。


結衣はベンチのそばまで来ると、ぐったりしている二人を見てちょっと驚いたように数度瞬きをする。


「珍しいですね。こんな所で何してるんですか?」


「猫探し。」


まひろが飲みかけのペットボトルをベンチに置いて、カバンからチラシを出して見せる。


結衣は写真を見るなり、小さく声を上げた。


「あ、この子。」


「知ってるの?」


まひろが目を丸くする。


「え? 商店街にいましたよね。」


まひろと篠原は顔を見合わせた。


「……商店街?」


「はい。ちょっと前ですけど、三毛の子猫見ましたよ。飼い猫だったんですね。」


その言葉に、まひろの表情が少し変わる。


「どの辺りで見たの?」


「小学校の隣のわたくら公園です。でも、5日くらい前だからそこにいるかどうか…。」


結衣が自信なさそうに言葉を切る。


「……十分だよ。ありがとう。」


まひろは、結衣に笑いかけ、首に当てていたペットボトルを外した。

それを篠原に差し出す。


「……もう大丈夫。」


篠原は小さく頷く。


「そうですか。」


そう言うと、そのペットボトルを受け取り、そのままキャップを開けて一口飲んだ。


「まだ冷たいですね。」


少しだけ口角を上げた篠原を見て、まひろは、篠原が自分の水分補給を後回しにしていたことに気づいた。


「……篠原。」


まひろが呼びかけると、篠原はもう一口飲みかけていたペットボトルを少し口から離して、目だけを向けた。


「はい?」


まひろは、ベンチの上に置いてあった自分のペットボトルを手に取る。


「……それ、ありがと。」


一拍。


篠原は少しだけ笑って「どういたしまして。」と言うと、もう一口お茶を飲んだ。


結衣はそんな二人を見比べて、くすっと笑った。


「「?」」


二人は同時に首をかしげる。


結衣は「そうそう」と笑顔のまま続けた。


「また近いうちに遊びに行くと思います。莉子が、おふたりに会いたいみたいで。」


「うん、待ってる。」


まひろも笑顔を見せると、結衣は頷いて手を振った。


「じゃあ、私はこれで。お仕事頑張ってくださいね!」


結衣が去るのを見送ってから、まひろはもう一度写真を見た。


「……商店街。」


篠原は静かに頷く。


「行ってみましょう。」


二人は再び歩き始めた。


お読みいただきありがとうございます。

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