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商店街と住宅地は、車が一台通れる程度の広さの二本の道でつながっている。
「東通り」と呼ばれる駅に近い方の道を通り、二人は商店街に戻ってきた。
結衣から教えてもらった公園は、商店街の南西の方角にある。
まずは捜索範囲をだんだん絞ることにした二人は、東通りと商店街の大通りの角にある、和菓子屋「月福堂」を訪ねた。
月福堂に入ると、美智子が店番をしていた。
美智子は二人を見ると、「あら、いらっしゃい」とお団子のショーケースの上に両手をちょこんと乗せて笑顔を見せた。
まひろも笑顔で挨拶する。
「こんにちは。お元気ですか?」
「ええ、おかげさまで。今日はお買い物?何にします?」
「今日は、お尋ねしたいことがありまして。」
篠原がチラシを見せながら話す。
おばあちゃんは気の毒そうにため息をついた。
「悪いけど、見てないわねえ。」
二人が礼を言って立ち去ろうとすると、おばあちゃんがその背中に「早く見つかるといいわね」と声をかけた。
月福堂の向かいは、居酒屋だ。
ちょうど店主が店の前を掃除していたので、声をかける。
「三毛猫?…ああ、ちょっと前に見たな。」
「!!…特徴は?」
まひろが意気込んで聞くと、店主はあっさりと頷いた。
「ああ、赤い首輪してたかな。しばらくその辺にいたけど、いつの間にかいなくなってたな。」
店主は「もういいかい?」と忙しそうに店の中へ入っていった。
居酒屋より東側の店にもあたったが、手掛かりはなかった。
駅前には車の通りが多い大きな道路があるので、猫は近寄らないのかもしれない。
二人はそう予想をつけて、東通りよりも西側を捜索することに決めた。
東通りから西に3軒目に、喫茶店がある。
日替わりランチが安くておいしいので、まひろはよく昼食をそこで済ませるし、篠原とそこのマスターは、コーヒーの話で意気投合して以来の付き合いだ。
二人が店に入ると、マスターがカウンターの中でちょっと驚いた顔をした。
「おや、いらっしゃい。二人そろってとは珍しいね。」
平日のお昼時、3つあるテーブル席はすべて埋まっていた。
二人は、カウンター席に並んで座る。
「今日は仕事。」
まひろが言うと、マスターは二人に冷たい水を出しながら、にやりと笑った。
「ついでに、ランチも食べていくんだろう?」
二人は一瞬顔を見合わせたが、すぐに頷いた。
「休憩、だね。」
「はい。」
二人に日替わりランチプレートを出しながら、マスターが尋ねる。
「それで、どんな仕事で来たんだ?」
篠原がチラシを見せる。
「猫を、探しています。こういう猫を見ませんでしたか?」
マスターは、少し考える表情をしていたが、「ああ」と手を打った。
「五日前くらいに見たな。」
まひろが割り箸を割ろうとしたまま、動きを止めた。
「どこにいましたか?」
篠原が、手帳を取り出して尋ねる。
マスターは、壁を指さして言った。
「うちと隣の間の狭い路地、ゴミ箱のところ。首輪してるのに餌を探してる風だったから、あれ?って思ってね。」
また一つ、情報が手に入った。
二人はランチを食べ終えて会計をすると、礼を言って喫茶店を出た。
喫茶店のはす向かいは、理髪店。
客がいない時間で暇を持て余していた店主が、にこやかに迎えてくれた。
「なに、猫?…ああ、そんなこと言ってたお客さんがいたなあ。たしか、一昨日だったよ。猫好きな人でね。知ってる?三毛猫って、ほとんどメスなんだってねえ!」
店主は、チラシの写真を見て目を細めた。
「かわいい猫じゃないか。飼い主さん、心配してるだろうねえ。」
「首輪とか、しっぽの色とかは、わからないですか?」
まひろが聞くと、店主は申し訳なさそうに眉を下げた。
「悪いねえ。お客さんから聞いた話だからさ。そこまでは分からんねえ。」
ふと、メモを取っていた篠原が手を止める。
「一昨日、と言われましたが…猫を見かけた日、でよろしいですか?」
店主は「いやいや」と手を振った。
「お客さんと話してたのが、一昨日。猫を見たっていう日は、聞いてないけど…。それよりは前だろうねえ。」
二人は、礼を言って理髪店を出た。
喫茶店の2軒隣のパン屋「コムギベーカリー」では、特に情報はもらえなかった。
けれど、売れ残りのバゲットで作ったラスクを半ば無理やり持たされた。
「帰ったら、おやつに食べましょうか。」
篠原がカバンにしまいながら言うと、まひろはうれしそうな顔をした。
コムギベーカリーの隣の鞄屋、日用品店、その向かいの八百屋でも、猫を見たという証言は得られなかった。
その八百屋の隣には「西通り」と呼ばれる、東通りと対になる道がある。
それを挟んだ向こうの魚屋では、大将が元気に接客していた。
「猫…、魚屋…。」
「…そんな漫画みたいな展開、あります?」
まひろがつぶやくと、篠原が苦笑した。
けれど。
「ああ、猫?見た見た。」
「ほら!やっぱり!」
まひろがドヤ顔で振り返ると、篠原は何とも言えない顔で手帳を取り出していた。
「……。」
「で、その猫の特徴って、覚えてますか?」
嬉しそうなまひろ。しかし、
「うん、四日前だったかな、赤い首輪をしてたね。でも、次の日に見たときは、首輪をしてなかったんだよね。」
魚屋の大将の言葉に、首を傾げた。
「え?」
「どっかで外れちゃったんじゃないかねえ。」
「猫の首輪は、どこかに引っかかると、安全のために外れるものがありますからね。」
篠原が言うと、大将は頷いた。
「そういうことも、あるかもしれねぇな。」
二人は、さらに西に向かう。
美容院では情報なし。
服屋では「見たような、見てないような…」という曖昧な情報だった。
その服屋の隣の小さな喫茶店でも、「見てないねえ」ということだった。
その喫茶店と昔は靴屋だった空き店舗の間の道は、少し広めになっており、その先は住宅地の裏山の神社へと続いている。
二人は、空き店舗の奥の学習塾でも話を聞いてみることにした。
「猫を探してるんですか?」
40代半ば程の講師は、穏やかに言った。
「ええ、見ましたよ。親子……だと思いますけど。」
「親子、ですか?」
まひろが目を瞬かせた。
「ええ。一昨日だったかな。野良猫が2匹、この辺りにいたんです。大きい子と小さい子だったんで、たぶん親子かなって。それで子どもたちが騒いでいましてね。」
講師はその様子を思い出しているのか、表情を緩めた。
「わりと人懐こい子たちでしたよ。あ、でも…」
そこで、少し首をかしげる。
「昨日見たときは、子猫だけだったんです。しかも、首輪をしてたんですよね。誰かに拾われたんでしょうかね?」
まひろと篠原が、顔を見合わせる。
「…その子猫は、どこに行ったかわかりますか?」
篠原が尋ねる。
講師は、少し考えて、路地の先を指さした。
「この道を、奥の方に歩いていきましたよ。」
講師に礼を言って学習塾を出た二人は、そこでどちらからともなく足を止めた。
「…どういうこと?」
まひろが、篠原を見上げる。
「首輪が、ついたり外れたりしていますね。」
篠原は、手帳を見返しながら首をひねった。
「誰かが、世話をしている…?」
「それは、分かりませんが…。」
二人は、少しの間そのまま考えていたが、やがてまひろが一つ頷いて言った。
「一旦、事務所に帰ろう。情報、整理しなきゃ。」
「はい。」
商店街の大通りを、西日が強く照らしていた。
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