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小宮探偵事務所の日常  作者: 蒼 小夜
第2話 さがしもの
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3

商店街と住宅地は、車が一台通れる程度の広さの二本の道でつながっている。


「東通り」と呼ばれる駅に近い方の道を通り、二人は商店街に戻ってきた。


結衣から教えてもらった公園は、商店街の南西の方角にある。


まずは捜索範囲をだんだん絞ることにした二人は、東通りと商店街の大通りの角にある、和菓子屋「月福堂」を訪ねた。


月福堂に入ると、美智子が店番をしていた。

美智子は二人を見ると、「あら、いらっしゃい」とお団子のショーケースの上に両手をちょこんと乗せて笑顔を見せた。


まひろも笑顔で挨拶する。


「こんにちは。お元気ですか?」


「ええ、おかげさまで。今日はお買い物?何にします?」


「今日は、お尋ねしたいことがありまして。」


篠原がチラシを見せながら話す。


おばあちゃんは気の毒そうにため息をついた。


「悪いけど、見てないわねえ。」


二人が礼を言って立ち去ろうとすると、おばあちゃんがその背中に「早く見つかるといいわね」と声をかけた。



月福堂の向かいは、居酒屋だ。


ちょうど店主が店の前を掃除していたので、声をかける。


「三毛猫?…ああ、ちょっと前に見たな。」


「!!…特徴は?」


まひろが意気込んで聞くと、店主はあっさりと頷いた。


「ああ、赤い首輪してたかな。しばらくその辺にいたけど、いつの間にかいなくなってたな。」


店主は「もういいかい?」と忙しそうに店の中へ入っていった。



居酒屋より東側の店にもあたったが、手掛かりはなかった。

駅前には車の通りが多い大きな道路があるので、猫は近寄らないのかもしれない。


二人はそう予想をつけて、東通りよりも西側を捜索することに決めた。



東通りから西に3軒目に、喫茶店がある。


日替わりランチが安くておいしいので、まひろはよく昼食をそこで済ませるし、篠原とそこのマスターは、コーヒーの話で意気投合して以来の付き合いだ。


二人が店に入ると、マスターがカウンターの中でちょっと驚いた顔をした。


「おや、いらっしゃい。二人そろってとは珍しいね。」


平日のお昼時、3つあるテーブル席はすべて埋まっていた。


二人は、カウンター席に並んで座る。


「今日は仕事。」


まひろが言うと、マスターは二人に冷たい水を出しながら、にやりと笑った。


「ついでに、ランチも食べていくんだろう?」


二人は一瞬顔を見合わせたが、すぐに頷いた。


「休憩、だね。」


「はい。」




二人に日替わりランチプレートを出しながら、マスターが尋ねる。


「それで、どんな仕事で来たんだ?」


篠原がチラシを見せる。


「猫を、探しています。こういう猫を見ませんでしたか?」


マスターは、少し考える表情をしていたが、「ああ」と手を打った。


「五日前くらいに見たな。」


まひろが割り箸を割ろうとしたまま、動きを止めた。


「どこにいましたか?」


篠原が、手帳を取り出して尋ねる。


マスターは、壁を指さして言った。


「うちと隣の間の狭い路地、ゴミ箱のところ。首輪してるのに餌を探してる風だったから、あれ?って思ってね。」


また一つ、情報が手に入った。


二人はランチを食べ終えて会計をすると、礼を言って喫茶店を出た。




喫茶店のはす向かいは、理髪店。


客がいない時間で暇を持て余していた店主が、にこやかに迎えてくれた。


「なに、猫?…ああ、そんなこと言ってたお客さんがいたなあ。たしか、一昨日だったよ。猫好きな人でね。知ってる?三毛猫って、ほとんどメスなんだってねえ!」


店主は、チラシの写真を見て目を細めた。


「かわいい猫じゃないか。飼い主さん、心配してるだろうねえ。」


「首輪とか、しっぽの色とかは、わからないですか?」


まひろが聞くと、店主は申し訳なさそうに眉を下げた。


「悪いねえ。お客さんから聞いた話だからさ。そこまでは分からんねえ。」


ふと、メモを取っていた篠原が手を止める。


「一昨日、と言われましたが…猫を見かけた日、でよろしいですか?」


店主は「いやいや」と手を振った。


「お客さんと話してたのが、一昨日。猫を見たっていう日は、聞いてないけど…。それよりは前だろうねえ。」


二人は、礼を言って理髪店を出た。




喫茶店の2軒隣のパン屋「コムギベーカリー」では、特に情報はもらえなかった。


けれど、売れ残りのバゲットで作ったラスクを半ば無理やり持たされた。


「帰ったら、おやつに食べましょうか。」


篠原がカバンにしまいながら言うと、まひろはうれしそうな顔をした。



コムギベーカリーの隣の鞄屋、日用品店、その向かいの八百屋でも、猫を見たという証言は得られなかった。


その八百屋の隣には「西通り」と呼ばれる、東通りと対になる道がある。


それを挟んだ向こうの魚屋では、大将が元気に接客していた。


「猫…、魚屋…。」


「…そんな漫画みたいな展開、あります?」


まひろがつぶやくと、篠原が苦笑した。


けれど。


「ああ、猫?見た見た。」


「ほら!やっぱり!」


まひろがドヤ顔で振り返ると、篠原は何とも言えない顔で手帳を取り出していた。


「……。」


「で、その猫の特徴って、覚えてますか?」


嬉しそうなまひろ。しかし、


「うん、四日前だったかな、赤い首輪をしてたね。でも、次の日に見たときは、首輪をしてなかったんだよね。」


魚屋の大将の言葉に、首を傾げた。


「え?」


「どっかで外れちゃったんじゃないかねえ。」


「猫の首輪は、どこかに引っかかると、安全のために外れるものがありますからね。」


篠原が言うと、大将は頷いた。


「そういうことも、あるかもしれねぇな。」




二人は、さらに西に向かう。


美容院では情報なし。


服屋では「見たような、見てないような…」という曖昧な情報だった。


その服屋の隣の小さな喫茶店でも、「見てないねえ」ということだった。


その喫茶店と昔は靴屋だった空き店舗の間の道は、少し広めになっており、その先は住宅地の裏山の神社へと続いている。


二人は、空き店舗の奥の学習塾でも話を聞いてみることにした。



「猫を探してるんですか?」


40代半ば程の講師は、穏やかに言った。


「ええ、見ましたよ。親子……だと思いますけど。」


「親子、ですか?」


まひろが目を瞬かせた。


「ええ。一昨日だったかな。野良猫が2匹、この辺りにいたんです。大きい子と小さい子だったんで、たぶん親子かなって。それで子どもたちが騒いでいましてね。」


講師はその様子を思い出しているのか、表情を緩めた。

「わりと人懐こい子たちでしたよ。あ、でも…」


そこで、少し首をかしげる。


「昨日見たときは、子猫だけだったんです。しかも、首輪をしてたんですよね。誰かに拾われたんでしょうかね?」


まひろと篠原が、顔を見合わせる。


「…その子猫は、どこに行ったかわかりますか?」


篠原が尋ねる。


講師は、少し考えて、路地の先を指さした。


「この道を、奥の方に歩いていきましたよ。」




講師に礼を言って学習塾を出た二人は、そこでどちらからともなく足を止めた。


「…どういうこと?」


まひろが、篠原を見上げる。


「首輪が、ついたり外れたりしていますね。」


篠原は、手帳を見返しながら首をひねった。


「誰かが、世話をしている…?」


「それは、分かりませんが…。」


二人は、少しの間そのまま考えていたが、やがてまひろが一つ頷いて言った。


「一旦、事務所に帰ろう。情報、整理しなきゃ。」


「はい。」


商店街の大通りを、西日が強く照らしていた。






お読みいただきありがとうございます。

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