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土曜日の午後。
まひろは探偵事務所の窓から、大通りをなんとなく見下ろしていた。
商店街は、時間に追われる平日よりのんびりした空気が流れていた。
そこを歩く人たちも、談笑したり店先に並べられた商品を見たりしながら、いつもよりゆったり歩いているように見える。
15時になった。
小宮探偵事務所の玄関の呼び鈴が鳴る。
篠原が扉を開けると、美智子とその陰に隠れるように一人の女の子が立っていた。
女の子は、沢村莉子。美智子の孫であり、まひろと篠原が様子を見ていた女の子のひとりだ。
今日は、美智子から「孫から話を直接聞いてみて欲しい」と連絡があり、そのためにふたりが来る約束になっていたのだった。
「こんにちは。」
篠原が微笑む。
美智子は柔らかく目を細めた。
「こんにちは。またお世話になります。」
その隣で、莉子は小さく会釈をする。
ポニーテールに大きめの瞳のかわいらしい子だ。
今日は制服ではなく、淡い色の半袖にジーンズのショートパンツ。
胸の前でスクールバッグをぎゅっと抱えたまま、どこか落ち着かない様子だ。バッグの持ち手に付けられた三毛猫のキーホルダーが不安げに揺れていた。
「こちらへどうぞ。」
篠原が応接スペースへ案内する。
莉子は美智子に続いてソファへ腰掛けようとして、ふと動きを止めた。
窓際で水槽を眺めていたまひろと目が合ったからだった。
「こんにちは。」
まひろが声をかけると、莉子は少しだけ戸惑ってから、小さく頭を下げた。
その様子を見た美智子が苦笑する。
「この人が探偵さんなのよ。」
莉子は目を丸くした。
「えっ。」
思わず篠原を見る。
篠原は少し照れたように笑った。
「よく間違えられます。」
まひろは静かに立ち上がると、机の引き出しから名刺入れを取り出した。
一枚抜いて、莉子へ差し出す。
「小宮です。」
「あ、はい……。」
莉子は抱えていたバッグを下ろし、両手で受け取る。
白い名刺には、
小宮探偵事務所
探偵 小宮まひろ
と書かれていた。
莉子は口を開けてまひろの顔を見て、もう一度名刺へ目を落とした。
それから、もう一度まひろを見る。
やっぱり口は開いたままだった。
「よろしくね。」
まひろは柔らかく笑った。
その横で篠原も一枚名刺を差し出す。
「篠原です。」
莉子は差し出された名刺を受け取ってまじまじと見つめた。
小宮探偵事務所
助手 篠原 慧
「助手…?」
思わず声に出して顔を上げると、篠原と目が合った。
「あ…すみません。」
「いえ。」
篠原が微笑んだ。
「本当によくあるんです。」
そこで、莉子が「あ」と気づいたように姿勢を正した。
「あの、私、沢村莉子です。」
ぺこりと頭を下げる。ポニーテールがぴょこんと揺れた。
「莉子さんですね。」
篠原がにこやかな表情のまま、莉子に尋ねる。
「何か飲みますか。」
「え、あ、はい。」
莉子が硬い表情のまま頷くと、美智子が微笑みながら、莉子の顔を覗き込んだ。
「莉子ちゃん、座ったら?」
莉子がソファに腰掛けた美智子を見下ろす。
優しい美智子の笑顔。その表情を見て、莉子は小さく頷いた。
「……オレンジジュースにしましょうか。」
篠原がそう言い残して給湯室へ向かう。まひろはその背に「私はコーヒーがいいな」と声を投げた。
「はいはい。いつものですね。」
篠原の声が給湯室から返ってくる。
美智子が、そのやり取りを見て目を細めた。
「仲がいいんですねぇ。」
まひろは少しだけ首をかしげた。
「……そうですか?」
美智子が「ええ」と頷くのを見て、まひろは少し笑った。
「まあ、長い付き合いですから。」
「そうねえ…前に私がお世話になったのは3年くらい前だったかしら?その時も一緒でしたねぇ。」
まひろがちょっと恥ずかしそうに頷く。
「はい。……あの時は、私もまだ駆け出しだったので……色々ご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
美智子は穏やかな顔でゆるゆると首を振った。
「とんでもない。十分、助けていただきましたよ。」
そして、莉子を見やる。
「あの時ね、本当に助けてもらったのは、私の気持ち、心だったと思うんですよ。だから、小宮さんに話を聞いてもらったら、この子の心も、軽くなるんじゃないかと思うんです。」
まひろは、少し眉を下げた。
「私はカウンセラーじゃないので……ご期待に沿えるか分かりませんけど……。」
篠原が、飲み物を持って戻ってきた。それぞれの前にコーヒーやジュースを置きながら言う。
「それでも、誰かに聞いてもらうだけで、気持ちが楽になることもありますから。」
美智子が深く頷く。
莉子は、そんなやり取りを、じっと聞いていた。
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