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小宮探偵事務所の日常  作者: 蒼 小夜
第7話 繋がるもの
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39/41

3

篠原が司書から受け取ってきた分厚い住宅地図は、3冊。


「昭和40年度版」「昭和50年度版」「昭和60年度版」と書いてあった。


どれも古いが、特に昭和40年度版のものは表紙が少し波打ち、ページの端が茶色く色あせている。


篠原は一旦3冊とも閲覧机に置くと、昭和40年度版を手に取る。


ページを開くと、古い紙の匂いが微かにした。


「すごい……この時代、手書きなんだ。」


まひろが慎重にページをめくる篠原の横からのぞき込んで、感心した声をあげた。


「気の遠くなるような作業でしょうね。」


篠原が頷きながら、つむぎ橋周辺の地図を探す。


「……ありました。ここですね。」


そう言って指さしたところは、商店街の裏山の神社だった。


「神社の位置は、そう変わりませんからね。」


「うん。」


まひろは、箱に入っていた手描きの地図を鞄から取り出した。


手描きのほうにいくつか描かれている細い道は、この住宅地図にも描かれていた。


地図に描かれている鳥居のマークも、まひろが指摘した丁字路もほぼ一致している。


つむぎ橋商店街の、西通りから北西の地区の地図で間違いなさそうだった。


昭和40年度の地図を開いたまま、篠原は昭和50年度の住宅地図を手に取る。


そして同じ場所を探して、昭和40年度の地図と並べて置いた。


「え……?」


それを見て、まひろが目を丸くする。


昭和50年度の住宅地図は、昭和40年度同様、手書きで温かみのあるものだった。しかし、昭和40年度にあった細い道や、裏山のふもとの畑や、そのあぜ道、ところどころにあった小屋はすべて消され、そこは……空白になっていた。


それは、異様な光景としてまひろの目には映った。


「なんにもなくなってる。」


「昭和40年から50年の間に、何かがあったんですね。もう一冊も見てみましょうか。」


篠原が昭和60年度の冊子の同じところを開いて置く。


昭和60年度の地図は、もう手書きではなく、すべてきれいな活字になっていた。


そして、道路も。


「やっぱり、区画整理がされたんだね。」


隣に置いて比較すると、一目瞭然だった。


昭和40年度には細くて曲がりくねった道ばかりだったところが、昭和50年には一度全部取り払われ、さらに10年後には、まっすぐのきれいな道と整然と並んだ住宅地へと姿を変えていた。


商店街の中心部に目を向けると、大通りこそそのまま残ってはいるが、店舗の大きさや名前は随分変化している。


まひろが、昭和60年度なら知っている店があるかも、と商店街を見ていると、手描きの地図と昭和40年度の地図を見比べていた篠原が、「このあたりでしょうか。」と、裏山のふもとに指を置いた。


まひろも、篠原の持つ手描きの地図を見て頷く。


そして、新聞紙ほどの大きさの最新の住宅地図を「よいしょ」と苦労して開こうとする。


「無理して破かないでくださいね。」


篠原が苦笑しながら手を添えると、重たいページがすっと軽くなった。


「……ありがと。今の商店街でいうと、さっきの場所は、ここ?」


今度はまひろが指さす。


「そうですね。今は…沢村さんという方のお宅の裏手のようです。」


「ここに何があるのかわからないけど、見に行くならお願いしないとだね。」


篠原が頷いて、古い住宅地図を閉じ、まとめて机の端に寄せて置いた。


「では、次はこちらですね。」


まひろが見つけた『つむぎ橋商店街のあゆみ』を手に取る。


「ですが、これを二人一緒に読むのは効率が悪いので…手分けしましょうか。」


「そうだね。今見てた住宅地図のコピーもしたいし、これ返さなくちゃだし。」


まひろは古い住宅地図に目をやった。


すると、篠原が自分の財布から1枚のカードを取り出し、『つむぎ橋商店街のあゆみ』の上に重ねてまひろに差し出した。


「ではまひろさんは、このカードでこれを借りてきてください。住宅地図のほうは、私が。」


篠原はそう言うと、古い地図を3冊まとめて持ち、カウンターのほうへ歩いて行った。


まひろは、それを見送りながら1階の貸し出しカウンターへと向かった。



◇



事務所に帰ると、まひろはさっそく『つむぎ橋商店街のあゆみ』を読み始めた。


つむぎ橋商店街のはじまりから、年代順にできごとが書いてある。


その当時のお祭りの様子や、大通りに買い物客があふれている様子など、写真もたくさん載っていて興味深い。


しかし、ページをめくるまひろの手が、あるところでピタリと止まった。


「再開発……反対運動?」


思わず零れ出た声を聞きつけて、篠原が近くに来る。


「なにかありましたか?」


「うん……ここ。昭和50年頃、区画整理されてたでしょ。その時に、再開発の反対運動があったんだって。」


「それは、あるでしょうね。」


「うん。でも、見て。反対運動をしてた団体の代表者。」


まひろの指がさしたところを、篠原が読み上げる。


「『つむぎ橋商店街の今を守る会代表、鈴本 修氏』……鈴本?」


まひろを見る篠原。


まひろは、頷いた。


「これ、律くんのおじいさんじゃない?」


そこに載っている顔写真の人物は、あの古い写真で笑顔を見せていた、律の祖父その人だった。



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