↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小宮探偵事務所の日常  作者: 蒼 小夜
第5話 心の灯火
PR
30/42

7.

翌朝。


まひろは、いつも通り小宮探偵事務所への階段を上っていた。


ただし、とてもゆっくりと。


結局ようやく眠れたのは明け方だったので、寝不足なことこの上ない。


まひろは、欠伸を噛み殺しながら、事務所の扉を開ける。


お気に入りのスリッパに履き替え、自分の机に向かう。

目は半分閉じているのに、どこにもぶつからずに辿り着く。慣れとは恐ろしい。


鞄をカゴに入れると、篠原がコーヒーを持ってきた。


「おはようございます。」


「おはよ。」


まひろは挨拶を返すが、ちっともおはようの顔ではない。

1回のまばたきが、異様に長い。


篠原は、少しだけ苦笑いした。


「昨夜は、遅かったんですか?」


「うん。寝れなかった。」


篠原の目が、心配そうにまひろを見る。


声をかけようとして一旦開いた口を、一度閉じてから、また遠慮がちに開く。


「……大丈夫、ですか?」


その逡巡に気づいたかどうか、まひろは、「うん」と頷く。


頷いたその頭が重そうだ。


篠原は、小さくため息をついた。


「連絡いただけたら、今日は私一人で大丈夫でしたよ?無理しなくても。」


「ううん。」


今度は首をゆるゆると横に振る。


眠そうな目が、篠原の顔を捉えた。


「篠原に、お礼、言わなきゃと思って。」


「……私に?」


篠原が怪訝そうな顔をする。


「うん。」


まひろは目をこしこしと擦った。


いくらかはっきりとした視線で篠原を見る。


「昨日、付き合ってくれてありがと。あと、遅くまでごめん。」


そして、ゆっくりと微笑む。


「もう、大丈夫。」


「……そうですか。」


篠原は、一瞬遅れてそう返し、眼鏡を片手で押し上げて口元を緩めた。


「どういたしまして。」


小宮探偵事務所の、いつもの穏やかな朝が始まろうとしていた。



◇



誠人は、年明けまで自宅に滞在した。


誠人がまた出張先へ戻る日。


まひろ、篠原、誠人の三人は、空港にいた。


「あ〜、戻ったら仕事かぁ。めんどくせぇな。」


ため息をつく誠人に、まひろがクスッと笑う。


「家でも、いろいろメールのやり取りしてたじゃない。」


「家でダラダラしながら仕事するのと、現地に行くのじゃ、疲れ方が全然違うじゃねぇか。あ〜、もっと楽な仕事がしてぇなあ。」


「でも、必要とされているんですよね?」


篠原も苦笑して言うと、誠人は不貞腐れた顔で「そうだけどさあ……」と肩を落とす。


と、その顔がひょいと上がった。


「そうだ、慧。」


突然、すごい早業で篠原の肩を抱き、まひろから数メートル離れる。


さすがの篠原も驚いた顔でされるがままだ。


誠人は神妙な顔で「聞かなきゃいかんと思ってたんだ」と言うと、声を落とした。


「お前さ。……まひろのこと、好きだろ。」


篠原は、ぽかんとした後に、少し眉を寄せた。


「……分かりません。」


「いや、だって、いろいろ気にかけすぎだろう!あれは、お前どう見たって……」


篠原は「ちょっと何言ってるか分からない」という顔をした。


「以前出国される時、『まひろを頼む』と言ったのは、先生ですよ?」


「……は?」


今度は、誠人がぽかんと口を開けた。


「あれは『自分が見られない分、気にかけて欲しい』という意味ではなかったんですか?」


誠人は肩を離して、まじまじと篠原の顔を見た。


「……つまり?」


「助手としての仕事をしているまでです。」


口をあんぐり開けた誠人が、次の瞬間、ぷっと吹き出した。


「お前……ほんっと、クソ真面目だなあ!」


そのまま腹を抱えて笑い出す。


ひとしきり笑って、わけが分からないという顔をしている篠原の肩に手を置く。


「慧……、くくっ、まひろのこと、よろしく頼むな!」


「……?はい。」


誠人は、とりあえず頷く篠原の肩をぽんぽんと叩いて、荷物を持つと、何が起こっているのかさっぱり分からないまひろに向き直った。


「また時間が取れたら帰るわ。朝飯、ちゃんと食えよ。」


「うん。じゃあ、また。」


「おう、またな!」


そして、笑顔で手を振りながら、搭乗口に消えていった。


まひろと篠原は、それを見送ってから、ふたりで空港を出た。



駅まで歩きながら、篠原が口を開いた。


「明日、仕事始めですね。」


「うん。」


「……朝ごはん、ちゃんと食べてきてくださいね。」


からかうような篠原の眼差しに、まひろはむっとする。


「お父さんみたいなこと、言わないで。」


篠原は、ふっと笑った。


「いいんですよ、それで。」


「よくない。」


まひろは口をとがらせた。


篠原は、それ以上何も言わず、けれどどこか楽しそうにまひろの隣を歩いている。


冬の柔らかい陽射しが、歩くふたりの背中をあたたかく照らしていた。



お読みいただきありがとうございます。


次回、幕間です。まひろと篠原の出会い、気になりませんか?

明日公開します。よろしくお願いします(ㅅ •͈ᴗ•͈)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。